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アルコール依存症にならないためには

2012年12月13日公開:MBAデザイナーnakayanさんのアメブロ

先日、12月8日(土)に地元の保健センターにてメンタルヘルスに関する講演を拝聴する機会がありました。講演内容としては、伊奈町にある埼玉県立精神医療センター副院長、成瀬暢也先生による「アルコール問題を抱える人への対応」というものでした。私自身のアルコールに対する接し方は、2011年1月10日に『新成人へ向けてのメッセージ』(
http://amba.to/UjYLbg )と題し書かせて頂いた通りであり、問題は抱えていませんが、周囲には潜在化しているアルコール依存者をチラホラと目にすることもあり、とても興味深い内容でした。私見ながらアルコール依存という問題を解決するためのプロセスというものは、類似する別の問題を解決するためのプロセスにも応用することが可能であると言えます。更には、解決のためのプロセスを理解することで、問題に至る経緯を逆算し、問題に至らないためにはどうすればいいのか、言い換えるならば問題を未然に防ぐことも可能であるとも言えます。


先ず、成瀬先生のご講演の中で私が気になった点を以下に幾つかピックアップしていきましょう。

アルコールは、人間関係の潤滑油や不眠に対する睡眠薬代わりに使われることが多く、憂鬱な気分や不安や緊張を和らげる目的にも使われる。しかし、アルコールの問題については誤解されていることが多く見られる。

■アルコールについて

・アルコールは脳の働きを抑える・麻痺させる物質である。
・まず最初に、理性をつかさどる領域から麻痺していくため、抑制が外れ、羽目を外す。
・さらにアルコール量が増えると、本能の領域が麻痺し眠りに落ちる。
・さらにアルコールが入ると、呼吸や体温を調節している領域まで麻痺してしまい死に至る。アルコールは依存性物質であり耐性がある。

■アルコールと「うつ」の関係

・「ほろ酔い」では気分が高揚して憂鬱な気分から一時的に開放される。
・一時的に「うつ」が楽になったと感じると、繰り返し飲酒をするようになる。アルコールには耐性があるため、同じ効果を得るためには飲酒の量を増やさなければならない。
・しかし、長期的にみると、アルコールは「うつ」を強めてしまう。
・結局、飲酒行動は「うつ」をあっかさせてしまう。

■アルコールと「不眠」の関係

・アルコールは脳の働きを抑える物質であり、「ほろ酔い」では気分を高揚させるが、量が多くなると眠くなったり意識がなくなったりする。
・飲酒すると寝付きやすくなり、深い睡眠が多くなり、熟睡感が得られる。
・しかし、アルコールには「耐性」がある。身体が慣れてくると効き目が悪くなる。したがって、同じ効果を得るためには大量のアルコールが必要になる。
・結局、大量に飲酒しても眠れなくなっていく。

つまりは、「うつ」や「不眠」という諸問題を飲酒という直ぐに手にしやすい物質で補おうとするあまり、アルコール依存に陥ってしまっている患者が多いということです。現状で、顕在化している患者数(治療を受けている患者)で4~5万人、潜在化している患者数が日本では82万人いるとされている。そして、アルコール依存というものは負のサイクルを生み出し易い。アルコールの依存性を理解していないあまり、アルコールを止められないのが個人の意思が弱いと思われ、周囲から孤独化していくことになる。孤独化することにより更に飲酒量が増える事になりやすい。

■飲酒や薬物にみる負のサイクルについて

かつて快感を得られたものでも、繰り返すうちに、快感は減弱していく。同じ快感を得るためには、より強い刺激が必要になる。そして最後には快感が得られなくても、やめられれなくなる。「やる気が出なくても切れやすい」という、強い欲求不満状態が慢性的にみられるようになる。気がついた時には、素面ではストレスに耐えられない人になっている。いったん脳が、アルコールや薬物に酔うことの快感を覚えてしまうと、簡単に消えるものではなく生涯に渡って影響を及ぼすことになる。いったん依存ができてしまうと、ストレスを感じた時点で、例えば暇なだけでも、脳から「酒を飲め」「薬物を使え」という命令が出されるようになる。そして条件反射のように飲酒したり薬物使用したりする。脳の命令に「気持ち」で太刀打ちできなくなる。この状態が依存症である。

アルコールは、抑制作用のある薬物としてアヘン類(ヘロインやモルヒネ)に相当するとても依存性が高い薬物である。大麻や有機溶剤(シンナーやトルエン)なども抑制作用のある薬物である。コカイン、覚せい剤、LSD、ニコチンなどは興奮作用のある薬物である。


アルコール使用障害による精神科的問題として、依存症、即ちコントール障害が最も大きい。アルコール依存症の特徴として、慢性・進行性・致死性の病気が挙げられる。即ち、51~52歳で亡くなる人が多い。更には、否認される病気であるが故に潜在化したり、自己嫌悪に陥り易い。加えて、治癒はないが回復する病気である。


■飲酒と自殺の関係性

自殺者における精神科診断として、気分障害(うつ病、躁うつ病)による自殺が30.2%であるのに対して、物質関連障害(アルコール、薬物)は17.6%とされる。この2つの要因は関連性があると言える。

アルコール依存症とうつ病の合併率は高い
・アルコール依存症の41%にうつ病を合併。その26%はアルコールがうつ病を誘発しているという報告もある。
アルコールと自殺も強い関係性があり、自殺した人の3分の1は直前に飲酒している
 - 飲酒が絶望感、孤独感、憂うつ感を強める。
 - 飲酒が自分に対する攻撃性を高める。 
 - 飲酒は死にたい気持ちを行動に移すきっかけとなる。
 - 視野を狭めて他の有効な手段をとれなくなる。
・習慣的な大量飲酒やアルコール依存は自殺の危険性を高める。
 - 中年男性を7年間追跡調査した結果、月に1~3日飲酒する人が自殺する危険度は1。非飲酒者や週に日本酒18合以上飲酒する人は2.3。少量や中等量飲酒者では自殺する危険度は低い。
アルコール依存症の人は自殺率が6倍高い


■どんな人がアルコール依存になりやすいのか?

父親がアルコール依存症の子供におこること

・子供にとって家庭は無条件で守られるべき安全地帯であるはずだが、緊張に満ちた危険地帯となる。
・子供は何が正しくて何がいけないのかわからなくなる。
・子供は人の言うことが信じられなくなる。
・子供は人に本音を言わなくなる。
・子供は親に受け入れられていないと思う。
・子供は見捨てられる不安が強くなる。
・子供はありのままの自分では人に受け入れられるはずがないと思う。

父親がその場の気分で怒ることにより、子供は何が正しいのか分からなくなり人が信用できなくなる。更には、自分がいけない子だからと思ってしまったり、自分はいつ見捨てられるのかという不安がつきまとってしまう。このような子供たちは、「親にすら受け入れられないのに、他人に受け入れられるはずがない」という共通する観念を持っていることが多い。

・家族が家族の役割を果たしていない状態の家族を「機能不全の家族」という。
・機能不全の家族の中で育った子供(AC: Adult Children) は、優等生タイプ、問題児タイプ、ピエロタイプ、ひきこもりタイプになりやすく、彼らは依存症になる可能性が有意に高い!


■ACと依存症患者の共通の特徴

1、自己評価が低く自分に自信を持てない
2、人を信じられない
3、本音を言えない
4、見捨てられる不安が強い
5、孤独で寂しい
6、自分を大切にできない

※これらの改善のためには、「自助グループ」が必要であり有用である!


■依存症の成り立ち

・対人関係においてストレスをため込みやすく、アルコールが容易に入手できる環境にあれば、アルコールの乱用が起こる。アルコールと相性が合えば飲酒は繰り返され、アルコール自体がもつ「依存症」から止められなくなる。
・アルコールに酔うことになれると、素面でいることがさらに苦痛となり、アルコール使用のコントロールを失うようになる。
・脳が過剰に酔うことの快感を記憶し、意思の力が及ばなくなった状態が依存症である。


■依存症からの回復のために

依存症の基には、対人関係障害があり、人間関係の中で、過大なストレスを受けるため、「手っ取り早く簡単に気分を変えること」つまり「酔うこと」でストレスを回避し、かりそめの癒しを求める行動が習慣となる。そして、コントロールを失った状態をきたすようになる。
人は、ありのままの自分を受け入れてくれる安心感・安全感をもてる居場所・仲間があって、初めて本当の意味で癒される。依存症者はこれが得られないために、酔いを求める。
・したがって、酔いを求めることを止めるためには、対人関係障害の克服が必要である。
単に飲酒を止めるだけでは回復とはいえない。「止めているだけ」では、他の嗜癖行動(依存症)に移行したり、うつ病などの感情障害をきたしたり、身体化(ストレスによりさまざまな身体症状がでる)したりする。
・要するに、素面の状態が楽にならなければ、問題は解決しない。
・断酒会などの自助グループやリハビリ施設を利用して、同じ問題を抱える仲間の話を聞き、これまで誰にも話せなかった正直な思いを話せ、それをメンバーに受け止めてもらえたと実感できた時に回復ははじまる。
・回復の進んでいる仲間を自分の将来的な目標とし、そこに身を置き続けることで、自分の居場所(仲間がいて安心できる安全な場所)となる。自助グループは「健康な家族」の役割を果たしていると言える。
・回復につながる要素
 - 本当の仲間と居場所ができたとき・・・。
 - 本音を言えるようになる。
 - 見捨てられる不安がなくなる。
 - 人を信じられるようになる。
 - 孤独ではなくなる。
 - 自己評価が高まり、自信を持てるようになる。
 - 自分を大切にできるようになる。その時すでに、「酔う」必要はなくなっている。


■依存症から回復するということ

・このように考えてくると、「依存症から回復する」ということは、「対人関係障害の改善を進める」ことでもある。
・そして、「対人関係障害の改善を進める」と、依存症だけでなく、うつ病、ギャンブル依存、摂食障害、不安障害、パニック障害、パーソナリティ障害、心身症などの病気も改善する。
・これらは同じ問題から発生している部分が大きいからである。

つまり、・・・

アルコール依存症にしても、気分障害(うつ病)にしても、その他の多くの精神的な問題は、人間関係が円滑にもてないことから生じている
・これらを解決していく突破口は、「正直なきもちを安心して話せるようになること」である。
・それができるようになると、人に対して信頼感をもてるようになり、居場所と仲間ができる。
・そのときに、多くの精神的な問題は解決していくことを、自助グループの実績が証明している

(成瀬先生から)
 人は、人の中にあって、受け入れられると感じて初めて安心感・安全感をもてます。人が癒される最も望ましいあり方は、人の中にいて安心感・安全感を持てること、居場所があることです。不運にも生育環境の中で、この安心感、安全感を親たちから得られなかった場合、酒や薬物に酔うことでかりそめの安心感を得ようとします。そして、依存症になります。依存症の人にとって、アルコールとの結びつきはとても強固なものです。ただし、その結びつきを断ち切れるものがあります。それが、人と人との結びつきであると思います。


■お酒とのつきあい方

厚生労働省「健康日本21」による適度な飲酒
1日平均純アルコール約20g程度
 例)ビール500ml、日本酒1合程度
1、女性は男性より少量とする
2、アルコール代謝能力の低いものは少量とする
3、65歳以上の高齢者はより少量とする
4、アルコール依存症者は完全断酒が必要である
5、飲酒習慣のない人に勧めるものではない
(社)アルコール健康医学教会による適度な飲酒
1、談笑し 楽しく飲むのが基本です
2、食べながら 適量範囲でゆっくりと
3、強い酒 薄めて飲むのがオススメです
4、つくろうよ 週に二日は休肝日
5、やめようと 切りなく長い飲み続け
6、許さない 他人への無理強い・イッキ飲み
7、アルコール 薬と一緒は危険です
8、飲まないで 妊娠中と授乳期は
9、飲酒後の 運動・入浴 要注意
10、肝臓など 定期検査を忘れずに


■成瀬先生からのアドバイス

1、アルコールを「精神安定剤」や「睡眠薬」として使わない。
2、毎日飲まない。
3、体調が悪いのに飲まない。
4、酔いを求め続けるとストレスに弱くなる。
5、ストレスは多様な方法で対処する。
6、最も望ましいストレス対処法は、人に癒されるようになれることである。

人がストレスに押しつぶされず、幸せに生きていくためには、信頼に裏付けられた人と人の心の結びつきが大切です。安心して正直な思いを話せる人、相談できる人がある人は健康です。人に癒されることがうまくいかない人は、酔いを求めて飲酒に走ります。酒に飲み込まれないためには、良好な人間関係を築いていけることが最も大切なのです。


■nakayanさんのまとめ

私自身、アルコールには依存していませんが機能不全家族の中で育った1人であると言えます。何らかの依存に陥りやすい体質であることは実感しています。私の両親は、戦後教育を受けて育った団塊世代特有の過去の伝統や習慣を否定する傾向が強いあまりに生きる上での中心軸を持たず、その場の状況や感情に流され易く言うことや行動がコロコロ変わるような人たちでした。そのため上記の「父親がアルコール依存症の子供におこること」の子供と同じような心境を、私は子供時代からずっと抱えていました。

具体的には、階級社会で生きていた父親が家族の長となっていたために、家族間にも見えない階級制度のようなものが存在し、父親から母親に対する全否定や責任転嫁、相手の非を強調して指摘するような行動が慢性化し習慣化することで、母親から私に対しても同じような全否定や責任転嫁が行われるようになっていました。

今となり振り返ってみますと、機能不全家族の中で育ったのですから両親たち家族と上手くいかないのは、仕方の無い話だったのかも知れません。私がいくら変化し、歩み寄ろうとしても、両親たちは自分に非があるとは考えていませんので自らが変わる様子は一切ないように私の目には見えていました。

私は、家族たちと一緒に暮らしていた中学生時代から、家族とは距離をとり私ひとりだけで食事をしていましたし、洗濯も自分の分は全て自分でやっていました。その後、私は16歳で家族とは離れて暮らすことになりますが、その準備には必要な期間であったのかもしれません。

私は10代後半から20代前半にかけて、随分と人間関係で苦しみを感じ、社会の全てに対して怒りをあらわにしていた時期もありましたが、依存に陥らなかった理由は、祖父母たちの存在があったからだと確信しています。祖父母たちだけは、何があろうと無条件で私を受け入れてくれました。私にとっては、唯一心理的安全性を与えてくれる存在でした。感謝しても感謝しきれません。

私自身の経験を踏まえた上で成瀬先生のお話を改めて鑑みますと、依存に至るプロセスを知ることにより、どのような要素が満たされていれば依存に至らないのかということも見えてきます。成瀬先生が最後に仰っておりましたが、信頼に裏付けられた人と人の心の結びつきがあれば、人はストレスに押しつぶされず、幸せに生きていくことができます。安心して正直な思いを話せる人、相談できる人の存在が大切であり、自分のストレス耐性を見える化したものが信頼できる人間関係であるとも言えます。

私自身が安心して相談出来る人とは、相手もまた同様に私に対して安心感を持っている可能性が高いと言えます。私自身が安心して正直な思いを話せる人、相談できる人であるならば、その相手にとっては私が正直な思いを話せる人や相談できる人であるとも言えます。

私の欠点の1つとして、自分自身で不平や不満というネガティブな発言を極力しないように心掛けているため、同様に相手が発する不平や不満というネガティブな発言を否定する傾向がありました。相手に対して心理的安全性を与えることを考えるのであれば、相手のネガティブな発言を一定量は許容する寛容性も必要であることを実感します。

<追記>2018年5月1日現在。
現状においては母親とは程よい距離感が保てており、お互いに善い関係性であると私は感じています。むしろ、この世において私の相手をできる母親はこの人しかおらず、私を育てられるのもこの人しかおらず、私はこの母親を自らで選んで生まれてきたのだろうと母親にはとても感謝をしています。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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