賭けなきゃ。 自分を投げ出さなきゃ、 恋愛なんて始まらないじゃない。 いいじゃない、傷ついたって。 楽しかろうと苦しかろうと、 それが人生なんだもの。 もっと自分をさらさなきゃ、 なにも始まらないわよ。 岡本敏子 『愛する言葉』 岡本太郎 岡本敏子
完敗した太郎さんは不機嫌でロッヂに入るなり両足をぼーんと投げ出し「足の爪が伸びて痛かったせいだ」と、敏子さんに足の爪を切らせた。敏子さんはにこにこしながら足の爪を切ってあげた。私は生まれて初めて、男女の間にある愛というものを目の当たりにした。それはあまりにも美しすぎる光景だった。
太郎さんは「職業は何ですか」と訊ねられたとき迷わず「人間だ」と答えた。そこには誤魔化しのない生き方によって、全ての瞬間が自分であると言い放つ強さがあり、またその答えによって自分の全てを引き受ける覚悟がある。全ての瞬間が私たちひとりひとりを形作っている。自分の全てを誇る肯定の哲学。