巨大ロボ

絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #26

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 途中で見かけた水道で口を濯いでやり、ドレスも濡らした布巾で拭ってやる。
「ごめん。ごめんね。びっくりしたよね。僕が悪かった。ごめんよ」
「ひっく……ひっく……」
 肥えた〈原罪兵〉の死体を極力シアラの視界に入れないように自分の立ち位置を調節しながら、アーカロトはシアラをあやした。
 小さな淑女は、声もなくうなずいて、手を引かれるままアーカロトについていく。
「僕が嫌いになった?」
 

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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #20

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 自分のものではない記憶。感情。痛み。
 アーカロトは、刃のように鮮烈なその置き土産を、静かに胸で味わった。
 思わず、目を閉ざす。悼むように。耐えるように。
 なんと過酷な、哀切な、そして鮮烈な生涯だったことか。
 暗い目の男の全量子情報は、アンタゴニアスの演算処理能力を確実に圧迫していたが、アーカロトはこれを削除するつもりは毛頭なかった。
 託されたのだと。彼の生と死が無意味などで

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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #17

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「アタシ自身の手で青き血脈を縊り殺せるんなら喜んでそうしているんだけどねぇ、ま、そのための下準備くらいは終わらせときたいものさね」
「具体的にどう〈法務院〉を仕留めるんだ。彼らは食料生産を独占している。武力云々関係なく、打倒は不可能だろう」
「そこはそれ、ちゃあんとプランはあるよ。まだボケる気はないんでね。だが、これ以上は教えられない。知ったらお前、殺さにゃならなくなるからねえ」
「絶

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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #16

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「……率直に言って、絵空事にしか思えないな」
 アーカロトはうっそりと老婆を睨む。
「依存性のある向精神薬は確かに人の心を狂わせることもあるが、それでこの歪に完成された命と罪の循環構造を破壊できるとは思えない」
「当然さ、実際に破壊するのはヤクそのものじゃない。配給券よりも信用の高い通貨が市場に出現するという事実の方だ」
「……どういうことだ?」
「アタシはね」
 老婆はテーブルに肘を

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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #15

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 ――何故、それを。
 その言葉を、強引に飲み下す。
 尋ねるまでもない。アンタゴニアス以外の絶罪殺機がすでに導き手を得て活動を開始しているのだ。
 老婆はその繰り手と接触した経験があるのだろう。恐らくは、今と同じ形で。
 ライフルを突き付けた状況で。
 五つの絶罪殺機たちは、それぞれ武装も、背負いし大罪も、導き手を選ぶ基準も異なるが、人の魂から発せられる罪業を検知して数値化を行うセン

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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #14

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「……食べても?」
「正直だねぇ。ま、冷めてももったいない。おあがりよ」
 うなずき、席につく。ペレットをフォークで突き刺し、口に運ぶ。
 匂い、味、食感、いずれもアーカロトの記憶にある天然の食材と比べれば単調で深みのないものであったが、わざとらしいまでのアミノ酸の暴力が強制的に唾液を分泌させた。
「これは君が?」
「おいおい、年長者に対する口の利き方がなってないねぇ。……アタシじゃな

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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #13

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 真っ先に考えられる代替エネルギーは、第五大罪(ワールドシェル)の外側すべてを太陽光発電パネルで覆い尽くし、その電力を持って人類文明を維持するというプランだ。外の様子はわからないが、恐らく太陽は健在であろう。〈無限蛇〉の自乗倍増殖生産ならば数か月で工程は完了する。
 だが、問題が二つある。
 第一に、第五大罪(ワールドシェル)の規模から試算した現存人類の文明規模を考えると、発電量が恐ら

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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #12

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 ――アンタゴニアスの武力によって、〈法務院〉を叩き潰し、その体制を物理的に崩壊させることは可能であった。
 第三大罪(メタ・オブリビオン)による大規模な技術の失伝は、メタルセルユニット構造の電子神経網へのアクセス難易度を信じられないほど跳ね上げた。そこに蓄積されていたはずの古の叡智に、人類は手を伸ばすことすらできなくなったのだ。
 結果、機動牢獄なる劣化品が出回ることになる。人類の持

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