新本格

英国に新本格の波来たる! ヤバいポケミス『名探偵の密室』

今月のポケミスは、正直ヤバいヤツです。
ミステリの本場英国から、まるでかつて英国をはじめとする黄金期ミステリへの愛から新本格派の潮流をつくった日本へのアンサー、あるいは挑戦状ともいうべき作品が登場しました。クリス・マクジョージ『名探偵の密室』(不二淑子訳)です。

『名探偵の密室』
クリス・マクジョージ/不二淑子訳
8月6日発売/定価1800円(税抜)/ハヤカワ・ミステリ

かつて少年探偵として名

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不連続線と絶対の探求~竹本健治著『匣の中の失楽』をめぐって

零 相対化と絶対化のベクトル
 竹本健治の『匣の中の失楽』は、相反するふたつの意志のベクトルに貫かれている。
ひとつは、根底的なな相対化への意志であり、もうひとつは、絶対的なもの、超越的なものへの意志である。

壱 <現実>と<虚構>のあいだで
 まずは、相対化ということについて考えてみよう。
 読者は、まず「序章に代わる四つの光景」によって、以下のような光景を目撃することになる。
1.曳間了の霧

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天啓とウロボロス

前史
 竹本健治『囲碁殺人事件』(河出文庫)解説で、中井英夫は「竹本健治が『匣の中の失楽』で颯爽とデビューしたのは、弱冠二十一歳のときで……(中略)……『囲碁殺人事件』、そして『将棋殺人事件』と『トランプ殺人事件』を書き下ろしで刊行したときは、若いミステリーファンの歓声はさらに昂まった。それは笠井潔の『バイバイ、エンジェル』から『サマーアポカリプス』、そして『薔薇の女』と続く、いずれ劣らぬ力作が立

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清涼院流水著『カーニバル・デイ―新人類の記念日』(講談社ノベルス、1999)、或いは犯罪オリンピック現象と見えない戦争(インヴィジブル・ウォー)

「1200個の密室で、1200人が殺害される」という『コズミック 世紀末探偵神話』で第2回メフィスト賞を受賞してデビューした清涼院流水は、探偵小説愛好家に賛否両論で迎えられた。清涼院の書く「流水大説」は、ミステリの脱格化=脱コード化を極端に推し進めたもので、ミステリの破壊行為と見る向きすらあったのである。
しかし、清涼院の作品は、単なる探偵小説として見るのではなく、フランツ・カフカやウィリアム・

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山口雅也著『奇偶』(講談社ノベルス)

これは<偶然>に関する形而上学的思弁小説である。
推理小説では、西欧合理主義に沿う推理による謎の解明が行われるが、本書で扱われるのは、偶然が連鎖する奇偶の世界であり、西欧合理主義による理解を超えた世界である。
この小説は、推理小説的な探求方法を用いて、この異常な事態に迫り、西欧合理主義とは異なる非因果的連結の世界を開示する。

本書で扱われる問題群を列挙してみよう。
カール=グスタフ・ユン

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笠井潔著『探偵小説と二〇世紀精神』

笠井潔の『探偵小説と二〇世紀精神~ミネルヴァの梟は黄昏に飛び立つか?』は、前半が「1 形式体系と探偵小説ロジック」、後半が「第三の波とポストモダニズム」となっている。
前半は法月綸太郎の言う<後期クイーン的問題>に呼応した内容を扱っており、エラリー・クイーンの『ギリシア棺の謎』と『シャム双生児の謎』が標的にされている。
これに対し、後半は巽昌章の「論理の雲の巣の中で」にインスパイアされており、

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完璧なディストピアの作り方

地上を舐め尽す警報音に追われ、僕は廃棄場の底にいた。

 〈オルダ〉の多脚刺肢に貫かれ、イトーは満足げに笑って逝った。漂白と脱臭を塗り重ねた今の地上でそれは貴重な感情だった。

「人間性が大切なんだ」

 彼の言葉を思い出す。 

 ネオサイタマに夢中になってニュースピークに憧れた大学時代。僕とイトーが冗談半分で立ち上げた「焚書愛好会」の活動は、SNSで拡散されあっと言う間に広まった。RPの参加

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【インタヴュー】華文ミステリに花開く〈新本格〉の遺伝子 ――『元年春之祭』著者、陸秋槎氏大いに語る

(書影は『元年春之祭』ポケミス版にリンクしています)

 この秋、ポケミス65周年記念作品として、いま勢いを強める華文ミステリの新たなる傑作『元年春之祭(がんねんはるのまつり)』が翻訳刊行された。日本の新本格に影響を受け、その他海外の様々なミステリを吸収して、漢文学の素地から独自の本格ミステリに昇華した、著者の陸秋槎氏が、その思いを語る。(編集部)

インタヴュアー・文/杉江松恋(書評家・ライター

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ありがとうございます!今後共どうぞよろしくお願いいたします。
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自分を取り戻したい人にオススメのドラマ未解決の女 警視庁文書捜査官とは

評論:未解決の女 警視庁文書捜査官

 推理小説『警視庁 推理小説『警視庁文書捜査官』シリーズをドラマ化したのが《未解決の女 警視庁文書捜査官》である。本稿では『警視庁文書捜査官』を原作、《未解決の女 警視庁文書捜査官》を本作と表記する。麻見和史は第16回鮎川哲也賞を受賞し2006年にデビューしている作家だ。原作は2015年にKADOKAWAから出版されている。
 本作は2018年春にテレビ朝日で

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『ミステリー・シーン』掲載記事「密室シーン」

島田荘司先生の『本格からHONKAKUへ 21世紀本格宣言Ⅱ』を読んでいたときのことでした。この著作には歴代の「本格ミステリー・ワールド」の巻頭言が収録されているのですが、「本格ミステリー・ワールド2011」の巻頭言「2011年の転換点」の中に、個人的に興味を惹かれる記述がありました。その箇所を以下に引用してみると――。

 そのパグマイア氏が、「ミステリー・シーン」七月号掲載の「密室シーン」

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