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somewhere,again~最後のピースがはまる時に~

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いつか、きっとどこかでまた…… 一颯は恋人の引っ越しを月末に控え、遠距離恋愛に不安を抱えていた。 だが、恋人の夏帆の提案は一颯の予想だにしないものだった。 これは純粋な少年少女… もっと読む
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somewhere,again~最後のピースがはまる時に~ 第一話 my girl (3)

somewhere,again~最後のピースがはまる時に~ 第一話 my girl (3)

「颯くん、ケチャップついてるよ」

 食べ終わった俺の顔を見て、しょうがないなぁという表情をしてほほえみ、夏帆が口周りをナプキンで優しく拭ってくれる。

 子供扱いされたような気になるかもしれないけれど、こういうことをしあわせと呼ぶのかもしれない。

「ありがとう」

 駄目だ。

 涙がこぼれそうだ。

「どういたしまして」

「そろそろ時間でしょ?」

 夏帆を前にしていたら、俺はいつ顔を崩し

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somewhere,again~最後のピースがはまる時に~ 第一話 my girl (2)

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「颯くん、明後日また映画に行かない?」

 もうひとつ角を折れると学校というところで、夏帆は俺を誘った。

 夏帆の場合は特に見たい映画があるわけではない。恋坂でまったりとした時間を過ごすのが好きなのだ。

「いいよ。いま何が上映されてるの?」

「マイ·ガール」

「知らないなぁ」

「お父さんが私達くらいの年の頃の映画だって言ってた」

「古い映画なんだね。まぁ、あそこはそんなのしかないか」

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somewhere,again~最後のピースがはまる時に~ 第一話 my girl (1)

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「551,232なんだよ」

 引っ越しを月末に控えた夏帆が、突然途方もない自然数を口にしたのは、中二の修了式の前日のことだった。

「なに?その覚えにくそうな数字」

 空と同様に、心が鈍色に染まっている俺は、重々しい足取りが重々しい数字のせいで、さらに重々しくなる気がした。

「世界一のジグソーパズルのピースの数」

 そう言う夏帆の顔は、俺の心と違って、雲一つ見えない晴れやかなものだ。

 

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