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https://bsky.app/profile/icchan0000.bsky.social 美術、読書、旅の記録など。

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  • 僕の好きな藝術家たち

    好きな藝術家について書きたいように書いてみるシリーズ。全12回。 vol.1 ジャクソン・ポロック vol.2 ニコラ・ド・スタール vol.3 ザオ・ウーキー vol.4 ジョルジョ・モランディ vol.5 塩田千春 vol.6 日高理恵子 vol.7 米田知子 vol.8 伊庭靖子 vol.9 宮永愛子 vol.10 野又穣 vol.11 ゲルハルト・リヒター vol.12 李禹煥

記事一覧

『夏』中村眞一郎

と、引用を続けたのは、読み終えてこの小説とはいったいどんな話だったのだろうかと、途方に暮れているからである。未読の読者は、これらの文章からこの作品の輪郭を掴み取…

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4日前
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ドラマ『広重ぶるう』

NHK制作のドラマを録画視聴しました。阿部サダヲさん、優香さん主演。 原作は梶よう子さんの同名小説とのこと。 松竹との共同制作とのことで、セットがしっかりとしたもの…

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6日前
7

白井大町藤公園

帰省してきた娘を連れて、妻と3人で藤を見に行きました。 入園前に、近くにあるアイスクリームショップ『アイス工房らいらっく』でアイスを食べて。 渋滞が心配でしたが…

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6日前
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中村眞一郎『四季』

青春時代に時間を共有した二人の初老の男性が、思い出の地を訪れて過去を回想する。 しかし二人の記憶は少しずつ食い違い、重なることなく、それぞれの追想はそれぞれの記…

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9日前
8

埴谷雄高『死霊』

再読だったけれど、ほとんど何にも覚えてなかったのでほぼ初読のようなもの。で、読み終えてみて、では今回は何かを覚えていられるのかというと甚だ心許なく、はて僕は何を…

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13日前
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加藤周一『日本文学史序説』

文学史というよりは精神史・思想史的な本。文芸批評的なものを期待すると少しずれてしまうだろう。もっと大きな観点で、日本文化の歴史を描き出している。加藤周一の代表作…

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1か月前
3

東寺 夜桜ライトアップ(金堂・講堂夜間特別拝観)

珍しく妻に誘われて(というのも彼女は古刹や仏像には全く興味を持たない人だから。種を明かせば職場でチケットを貰ったから、ということだった。)昨秋に紅葉を観に夜間拝…

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1か月前
4

姫路グルメランド

好天に恵まれた月末の週末、妻と姫路グルメランドへ行ってきました。 姫路城前の公園(大手前公園)で毎年春に開催されているイベントで、食にまつわる地元企業がブースを…

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1か月前
5

三木美術館『神秘なる白と黒/懐かしの景色を訪ねて』

姫路にある小さな私設美術館、三木美術館で企画展を観てきました。 『神秘なる白と黒』は、真っ白、真っ黒の焼物だけを集めた展覧会。企画の勝利と言いますか、非常にシン…

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1か月前
8

若竹七海『パラダイスガーデンの喪失』

若竹七海の葉崎市シリーズ最新作。 一応コージーミステリ的な装いなんだけれども、若竹七海のことだから、甘いコーティングの中にとびきりビターな味わいが隠されているの…

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1か月前
3

『366日 世界の名建築 (366日の教養シリーズ)』磯達雄

1ページに1つずつ、写真と解説で名建築を紹介する形式。 「思わず「すごい! 」と声を上げてしまう建築を集めました。」という自賛?は伊達ではなくて、写真見てるだけでも…

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1か月前
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ジャック・ケルアック『路上』

https://amzn.to/3T3Ffnu 福田実の旧訳で。青山南の新訳で読むとまた印象は変わるのかもしれないけれど、読後の感想としては、彼らにとって旅とは、路とは何だったのだろ…

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2か月前
10

オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』

https://amzn.to/3T6YigV 新潮の福田恆存訳。出版社の梗概に“耽美と異端の一大交響曲”とあるけれど、少し僕の考える耽美とは趣が違うような。佐伯彰一が解説で指摘する…

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2か月前
7

『世界名詩集15 ベルトラン・ランボー・ロートレアモン』

象徴詩はよくわからない。わからないのに、時々手を出して見る。やっぱりわからない。だけどまた読む。 そんなこと繰り返してばかりいる。ということはつまり、嫌いではな…

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2か月前
10

『芭蕉紀行文集 付 嵯峨日記』中村俊定校注

松尾芭蕉の紀行文を集めたもの、芭蕉といえば『奥の細道』で、あれはそれだけで一冊の本になるだけの分量があるのだけれど、それ以外の短い紀行文を集めたのが本書。 『奥…

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2か月前
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『漱石俳句集』坪内稔典編

漱石が子規に師事して俳句を詠んでいたことは有名だけれど、まだ作家として活動する以前、子規によって期待される俳人として取り上げられていたそうで、漱石は作家ではなく…

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2か月前
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『夏』中村眞一郎

『夏』中村眞一郎

と、引用を続けたのは、読み終えてこの小説とはいったいどんな話だったのだろうかと、途方に暮れているからである。未読の読者は、これらの文章からこの作品の輪郭を掴み取って欲しい。以下に記す文章は「全く分からなかった」という告白でしかない。

福永武彦が言う、“愛とエロスとを比較研究した独創的な小説”という表現が一番しっくり来るかなあ。

前半は、主人公が繰り広げる、幾人もの女性たちとの愛情なき性愛につい

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ドラマ『広重ぶるう』

ドラマ『広重ぶるう』

NHK制作のドラマを録画視聴しました。阿部サダヲさん、優香さん主演。
原作は梶よう子さんの同名小説とのこと。

松竹との共同制作とのことで、セットがしっかりとしたものでした。衣裳や鬘に手間暇もかかる時代劇はなかなか厳しい状況ですが、時代劇の火を消すまじ、という松竹の心意気が感じられます。

ドラマとしてもしっかりとした見応えで、主演のお二人の真っ直ぐな生き方、広重が見上げた空の青さのように澄んでい

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白井大町藤公園

白井大町藤公園

帰省してきた娘を連れて、妻と3人で藤を見に行きました。

入園前に、近くにあるアイスクリームショップ『アイス工房らいらっく』でアイスを食べて。

渋滞が心配でしたがタイミングが良かったのかそれほどでもなくて、晴天の青と藤の紫との競演をたっぷり楽しみました。

この公園は藤が咲いている期間のみのオープン、前から是非訪れたいと思っていたので、満願成就できました。

園内ではわらび餅や鯖寿司、たこ焼きな

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中村眞一郎『四季』

中村眞一郎『四季』

青春時代に時間を共有した二人の初老の男性が、思い出の地を訪れて過去を回想する。

しかし二人の記憶は少しずつ食い違い、重なることなく、それぞれの追想はそれぞれの記憶の中でのみ存在し続ける。

失われた時を探して歩く二人の歩幅のずれが、何とも不思議な不安定さを醸して、二人の現在の生すらもが、重ならないことに気づく。

生と死、記憶や思い出、一人ひとりが抱え直面せざるを得ない事態こそが、人生の実相なの

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埴谷雄高『死霊』

埴谷雄高『死霊』

再読だったけれど、ほとんど何にも覚えてなかったのでほぼ初読のようなもの。で、読み終えてみて、では今回は何かを覚えていられるのかというと甚だ心許なく、はて僕は何を読んだのだろう。

延々と繰り広げられる形而上学的議論について、素養もない身としてはちんぷんかんぷんと言わざるを得ない。

自同律の不快とか虚体とか、重要な概念についても、率直に言って何が何やら、である。

では全く詰まらなかったかというと

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加藤周一『日本文学史序説』

加藤周一『日本文学史序説』

文学史というよりは精神史・思想史的な本。文芸批評的なものを期待すると少しずれてしまうだろう。もっと大きな観点で、日本文化の歴史を描き出している。加藤周一の代表作という評価も当然の名著。

今回読み返してみて特に面白かったところを何点か書き留めておく。

日本文化に固有の出発点があるとして、しかし残された言葉(文学)は最古のものである万葉集や記紀にはすでに外国(主に中国大陸)の影響が深く影響している

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東寺 夜桜ライトアップ(金堂・講堂夜間特別拝観)

東寺 夜桜ライトアップ(金堂・講堂夜間特別拝観)

珍しく妻に誘われて(というのも彼女は古刹や仏像には全く興味を持たない人だから。種を明かせば職場でチケットを貰ったから、ということだった。)昨秋に紅葉を観に夜間拝観へ訪れて、とても良かったので、この春の夜間拝観にも足を運んでみた。

ちょうど桜が満開で、ベストのタイミングでした。そのせいか人出もすごかったけれど。

夜間は宝物殿は閉まっているので、今度は昼間にゆっくり来てみたい。

姫路グルメランド

好天に恵まれた月末の週末、妻と姫路グルメランドへ行ってきました。

姫路城前の公園(大手前公園)で毎年春に開催されているイベントで、食にまつわる地元企業がブースを出して賑わいます。

例年は4月1週目の開催が今年は少し早くなって、お城の桜には少し早すぎたようです。来週末なら桜も見頃になってさらに良かったのにな。

それでも青空の下白いお城を眺めながら、焼き牡蠣と牡蠣のお好み焼き、おでんでランチ。楽

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三木美術館『神秘なる白と黒/懐かしの景色を訪ねて』

三木美術館『神秘なる白と黒/懐かしの景色を訪ねて』

姫路にある小さな私設美術館、三木美術館で企画展を観てきました。

『神秘なる白と黒』は、真っ白、真っ黒の焼物だけを集めた展覧会。企画の勝利と言いますか、非常にシンプルなコンセプトながら、それ故に極めてシャープに作品の姿が目に刺さります。

白い焼き物は三輪休雪や板谷波山などのものが出ていました。三輪休雪のあの白砂糖のようなモコモコした釉薬、キリリと引き締まった板谷波山の小さな香炉など白チームも素晴

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若竹七海『パラダイスガーデンの喪失』

若竹七海の葉崎市シリーズ最新作。

一応コージーミステリ的な装いなんだけれども、若竹七海のことだから、甘いコーティングの中にとびきりビターな味わいが隠されているのはいつものこと。

今作も細かな伏線を貼りつつ滑らかな語り口で水準作ではあるけれど、出版社の惹句にあるような「最高傑作」とはさすがに言い過ぎ感。

最近の若竹作品は構成がやや複雑で、その辺りもリーダビリティをやや下げているように感じる。

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『366日 世界の名建築 (366日の教養シリーズ)』磯達雄

1ページに1つずつ、写真と解説で名建築を紹介する形式。

「思わず「すごい! 」と声を上げてしまう建築を集めました。」という自賛?は伊達ではなくて、写真見てるだけでも楽しめる。

ルネサンスごろの教会建築も少しあるけれど、ほとんどが近現代の建物で、建築技術の進化がもたらした奇観をたっぷり味わえます。

のんびりお茶とスイーツをお供に眺めたい一冊。誕生日や記念日の日付にどんな建築が紹介されてるかな?

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ジャック・ケルアック『路上』

https://amzn.to/3T3Ffnu

福田実の旧訳で。青山南の新訳で読むとまた印象は変わるのかもしれないけれど、読後の感想としては、彼らにとって旅とは、路とは何だったのだろう?という疑問。

物語の冒頭で、主人公はこう語る。

そうして彼らの旅が始まる。いかにもワクワクするオープニングだ。浜田省吾が

と歌い、辻仁成が

と歌った、そんな道を旅する物語の始まりだ。

『路上』は、希望に

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オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』

https://amzn.to/3T6YigV

新潮の福田恆存訳。出版社の梗概に“耽美と異端の一大交響曲”とあるけれど、少し僕の考える耽美とは趣が違うような。佐伯彰一が解説で指摘する以下の見方のほうがしっくりくる。

ドリアンが彷徨う背徳の世界が匂い立つように描かれてはいない一方で、自分で自分の罪を裁く倫理的なシーンがクライマックスになっているのだから。

面白いかつまらないか、といえば面白い小

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『世界名詩集15 ベルトラン・ランボー・ロートレアモン』

象徴詩はよくわからない。わからないのに、時々手を出して見る。やっぱりわからない。だけどまた読む。

そんなこと繰り返してばかりいる。ということはつまり、嫌いではない、ということなんだろうと思う。

抽象画を「よくわからない」という人に、「わかる、わからない、ではなくて、好きか嫌いか、ですよ」と反論?するのだけれど、それと同じように、象徴詩も、わかる、わからない、ではなく、好きか嫌いか、で受け止めれ

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『芭蕉紀行文集 付 嵯峨日記』中村俊定校注

松尾芭蕉の紀行文を集めたもの、芭蕉といえば『奥の細道』で、あれはそれだけで一冊の本になるだけの分量があるのだけれど、それ以外の短い紀行文を集めたのが本書。

『奥の細道』は、細やかに旅先の情景やそこを訪れた芭蕉の心情などを記し、文章はよく彫琢されているのに対して、ここに収められたものは、古跡を巡る蘊蓄も少なく、構成もあまり練られておらず、全体にあっさりしている。

それでもところどころ歴史の無常や

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『漱石俳句集』坪内稔典編

漱石が子規に師事して俳句を詠んでいたことは有名だけれど、まだ作家として活動する以前、子規によって期待される俳人として取り上げられていたそうで、漱石は作家ではなく俳人としてまずは文壇デビューしたことになる。漱石にとって俳句は小説執筆の余技ではなくて、創作の原点だった。

初期作品の『猫』における諧謔や、『草枕』における趣味的世界は、俳句の世界から出発した漱石においては必然だったわけだ。

作家として

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