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ishiika78短編集

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私の書いた短編小説を集めました。ここではそれを読むことができる。
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#逆噴射プラクティス

バイバイ・バンバン

バイバイ・バンバン

 このくそったれの現実の話について、なんと表現するべきだろうか。
 付喪神というものがあるのは知識として知っていた。だがそれが実在し、よりにもよってこのまぬけの多重積務者の頭をいまぶち抜かんとする拳銃に宿るとは思わなかった。
「やめてくれ」懇願する声が聞こえる。「あんたにも親があるだろう」
 ああその通りだくそったれ。だが、親もいない拳銃なんかに親のことで諭されたくはなかった。
「頼む、俺はもう人

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トランプvsバイデン

トランプvsバイデン

 今日で大統領執務室の椅子に座るのも最後だ。
 歴代大統領のケツの汗を染み込ませたそれは、もたれかかると応えるようにキイと鳴いた。
 不思議と、今日で大統領の座を辞することに、なんの感慨もわかなかった。それどころか、この4年間、アメリカで最も偉大な男であり続けた日々は、非常に空虚なものだった。
 何故なのかはもうわかっている。
 あの半年だ。あの半年が私を狂わせた。
 あの男とのアメリカの頂点を決

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ガンマン 対 空とぶギロチン 暗黒決斗

ガンマン 対 空とぶギロチン 暗黒決斗

 荒野。
 どこまでも吹き荒れる風の中、二人の男が向かい合う。
 一方は熊のような髭を蓄えたガンマン然とした男。目元に深く刻まれた皺は猛々しい荒野を生き抜いてきた歴史を思わせる。その腰に収められるは、強者の象徴であるケント社リボルバー。通称龍殺し。
 もう一方は黒のロングコートに高いテンガロンハット。荒野にあるまじき蒼白の肌をしたアジア人の男。皺ひとつなく、女性的な顔立ちをしている。その手には、長

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羅生門X

羅生門X

 下人の行方は、誰も知らない。
 そう、あの女を除いて。

 ここは羅生門。
 広い門の下には、この裸体の老婆のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀が一匹とまっている。
 そしてもう一つ。老婆の前に女の死体が案山子のように立てられている。
 老婆の手には先の煤けた一本の木片。燃え尽きた松明をゆらりと掲げ、猿のような呻き声をあげながら女の死体に打ち付ける。
 ある者の目からは

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継母の連れ子がスヌープ・ドッグだった

継母の連れ子がスヌープ・ドッグだった

 ヨー、ワッサー。俺の名前は遊佐正郎。今年の1月に俺の父さんが政府の高官とウワサの人と結婚した。その名も遊佐(旧姓伊藤)美紀子。
 そこまではいい。父さんも俺が高校に入ったことでようやく自分のことに向き合えたって感じだ。でも、問題がひとつある。それは継母の美紀子さん、彼女の連れ子だ。曰く、彼女もバツイチ子持ちであり、そのこともあって父さんと意気投合したようなのだ。だがしかし、その連れ子というのがど

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