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    蘭子の日記

記事一覧

ranko's diary 0024

放課後。 一人で長い廊下を歩いていた。 タイルが欠けていた。 ワイシャツのボタンが落ちていた。 角には埃が溜まっていた。 汚い廊下。 掃除当番は私と水川と…

kawaraya_j
6年前
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ranko's diary 0023

体育館の裏で、後輩がそのまた後輩をシメていた。 「日常的な風景」と、水川が微笑む。 「ハンパこいて、アンパンなんかやってんじゃねえ」 そんな声が聞こえた。 …

kawaraya_j
6年前
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ranko's diary 0022

遠くで鐘の音。 静かな日曜日。 受験が近づいている。 落ち着いているようで、落ち着いていない。 水川は旅行に行っている。 千代子はきっと図書館だろう。 一…

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6年前
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ranko's diary 0021

新聞が嘘を書く。 テレビが誰かを貶める。 何も知り得ない私たち生徒は、果たして かわいいと言われていい気になっていればそれでいいのか。 千代子が考えそうなこ…

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6年前
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ranko's diary 0020

澄子が教室のど真ん中で、高い声で話す声が聞こえる。 「私って、ほら、いわゆる霊とかが見えちゃうタイプ?」 教室の一番後ろに陣取った水川が小さく溜息をつく。 ウチ…

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6年前
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ranko's diary 0019

沖田くんの目には青いものが、本当は赤く見える。 らしい。 ただ、言葉を覚える前からそうだったので、 赤は青という言葉で、青は赤という言葉で表現することに 違和感を…

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6年前
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ranko's diary 0018

水面を渡る風。 荒川の土手に座って、夕焼けを見ている。 稔が私の肩を抱き寄せる。 そう、こんなひとときが幸せだと感じる日もあった。 今は昔。 稔の手が私の頬…

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6年前
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ranko's diary 0017

生徒会の立て看板を見ながらの登校。 『偏差値偏重主義を打倒しよう!』 『学歴差別による人権蹂躙を私たちは許さない!』 『大学入試をボイコットしよう!』 『ス…

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6年前

ranko's diary 0016

今日は、ショックを受けた。 水川が、遠い目をして呟いたのだ。 「あ~あ、昔はよかったねえ。ガキに戻りたいねえ」 インテリの千代子までもが、それを聞き、大きく頷…

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6年前

ranko's diary 0015

今日、クラスでも評判のリエコちゃんが、 ゴムを食べていた。 正直言って、驚いた。 「奇人変人のテレビに出るんだ」 「ふ、ふ~ん、そう」 リエコちゃんのお口は…

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6年前
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ranko's diary 0014

午前二時。 静けさが闇を支配している。 私の居所は何処だろう。 何処にもないなんて拗ねてみせるほど子供ではないが、 かといって他人の場所に我が物顔で踏み込ん…

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6年前
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ranko's diary 0013

柴田クンが、インターハイで高校新記録を出した。 陸上競技。 私には縁がない。 小さい時は、よく走ったけどね。 高校にまで来て、頑張りたくはないわ。 私はダラ…

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6年前
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ranko's diary 0012

体育はサッカー。 うちのガッコウは、女子にサッカーをやらせる。 運動不足の身にはツライ。 というわけで、千代子がこむら返りを起こした。 のたうち回る千代子。 …

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6年前
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ranko's diary 0011

今日は一人。 静かな家もいいもんだ。 水川とか呼んでワイワイやろうか、 稔を呼んで楽しもうか。 ま、たまには一人で落ち着いて、 音楽でも聴こう。 それがい…

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6年前
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ranko's diary 0010

小型のプロペラ機が空で唸っている。 「この紅茶、おいしいね」 妹の洋子は、両手でカップを包み込むようにして、紅茶を飲む。 「好きなの?」 「ん?」 「東海林…

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6年前

ranko's diary 0009

物理ができる奴は、エライ。 偏差値90を超えるのも、物理では夢ではない。 私にとって、物理は頭痛の種でしかない。 「あんたは、物理世界に生きてないからね」 …

kawaraya_j
6年前

ranko's diary 0024

放課後。

一人で長い廊下を歩いていた。

タイルが欠けていた。

ワイシャツのボタンが落ちていた。

角には埃が溜まっていた。

汚い廊下。

掃除当番は私と水川と他、数人。

そう言えば、水川が掃除をするのを見たことがない。

ここ3年。

ということは、私は生まれてから一度も

水川が掃除をしているところを見たことがない。

ザ・ショック。

最近は、こんなことで簡単に

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ranko's diary 0023

体育館の裏で、後輩がそのまた後輩をシメていた。

「日常的な風景」と、水川が微笑む。

「ハンパこいて、アンパンなんかやってんじゃねえ」

そんな声が聞こえた。

「そうだ、そうだ」

水川はとても嬉しそうだった。

「あたしらの下も結構しっかりしている。

 安心して、卒業できるってもんだ」

そ、そう?

私は、一般ピープルだからね。

そこんとこ、ヨロシク。

水川とつる

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ranko's diary 0022

遠くで鐘の音。

静かな日曜日。

受験が近づいている。

落ち着いているようで、落ち着いていない。

水川は旅行に行っている。

千代子はきっと図書館だろう。

一人で家にいる。

来もしない何かを私は待っている。

ドキドキしている。

変だ。

何もかもが変だ。

ranko's diary 0021

新聞が嘘を書く。

テレビが誰かを貶める。

何も知り得ない私たち生徒は、果たして

かわいいと言われていい気になっていればそれでいいのか。

千代子が考えそうなことだ。

私は言ってやる。

「何もかもが今のままでいい。変化は罪悪である」と。

泣くな千代子よ、

いづれ時を止めることのできる人間などいないのだから。

ranko's diary 0020

澄子が教室のど真ん中で、高い声で話す声が聞こえる。
「私って、ほら、いわゆる霊とかが見えちゃうタイプ?」

教室の一番後ろに陣取った水川が小さく溜息をつく。

ウチにも出るんだわ、霊。

マジか。

普通に出る。
家族もみんな見てるし。

怖いね。

え?怖いの?
この前もさ、誰もいないはずの風呂からシャワーの音が聞こえてきて。

怖いよね?普通それ。

怖いかなあ。

すぐに親父が風呂飛んでって

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ranko's diary 0019

沖田くんの目には青いものが、本当は赤く見える。

らしい。

ただ、言葉を覚える前からそうだったので、
赤は青という言葉で、青は赤という言葉で表現することに
違和感を覚えるはずもなく、
つい最近まで親にもそれと気付かれずに大きくなってしまった。

らしい。

「いやいや、沖田くん、大勢が赤だと言っている色は
大勢が赤だと言っているだけの赤なんだ」

と、二人で荒川の土手に寝そべって、
本当に大きな

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ranko's diary 0018

水面を渡る風。

荒川の土手に座って、夕焼けを見ている。

稔が私の肩を抱き寄せる。

そう、こんなひとときが幸せだと感じる日もあった。

今は昔。

稔の手が私の頬を撫でる。

それが時々無性に嫌な時がある。

イライラする時がある。

なぜか?

ranko's diary 0017

生徒会の立て看板を見ながらの登校。

『偏差値偏重主義を打倒しよう!』

『学歴差別による人権蹂躙を私たちは許さない!』

『大学入試をボイコットしよう!』

『ストライキ突入!』

『自衛官募集!』

ん?

いろんな文字が飛び込んできて、眠気が少しだけ吹き飛んだ。

一年の時は、けっこう怖かったんだ、この看板が。

みんなギャグなんだけど。

洒落っ気だけの生徒会。

実は

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ranko's diary 0016

今日は、ショックを受けた。

水川が、遠い目をして呟いたのだ。

「あ~あ、昔はよかったねえ。ガキに戻りたいねえ」

インテリの千代子までもが、それを聞き、大きく頷いたのだ。

夕陽が射し込む、放課後の静かな教室。

私たちの間を、五臓六腑を突き上げる感傷的な風が吹き抜けたような気がした 。

ガキに戻りたい?

私は、そんなこと考えたこともない。

インテリの千代子まで、そんなこと

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ranko's diary 0015

今日、クラスでも評判のリエコちゃんが、

ゴムを食べていた。

正直言って、驚いた。

「奇人変人のテレビに出るんだ」

「ふ、ふ~ん、そう」

リエコちゃんのお口は、

ゴムのにおいがした。

ranko's diary 0014

午前二時。

静けさが闇を支配している。

私の居所は何処だろう。

何処にもないなんて拗ねてみせるほど子供ではないが、

かといって他人の場所に我が物顔で踏み込んでいけるほど擦れてはいない。

いつまでもこのまま宙ぶらりん。い

い言葉だと思う。

「宙ぶらりん」

ranko's diary 0013

柴田クンが、インターハイで高校新記録を出した。

陸上競技。

私には縁がない。

小さい時は、よく走ったけどね。

高校にまで来て、頑張りたくはないわ。

私はダラダラとしていたい。

ダラダラ、ダラダラ。

ホントに、大学入れば、それでいいのだろうか?

さんざん尻叩かれて、大学入れば、

ホントになんにも言われなくなるのだろうか?

ま、どうでもいいか。

私も、ホントは

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ranko's diary 0012

体育はサッカー。

うちのガッコウは、女子にサッカーをやらせる。

運動不足の身にはツライ。

というわけで、千代子がこむら返りを起こした。

のたうち回る千代子。

「そんなに痛い?」

「う、う、う」

「どうすれば、治るの?」

「わ、わからない」

「じゃあ、どうしようもないわ」

私は、苦しむ千代子をただ眺めていた。

「死にはしないわ」

そのうちに治ってしまった

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ranko's diary 0011

今日は一人。

静かな家もいいもんだ。

水川とか呼んでワイワイやろうか、

稔を呼んで楽しもうか。

ま、たまには一人で落ち着いて、

音楽でも聴こう。

それがいい。それがいい。

紅茶を飲みながら、読書でもしよう。

ranko's diary 0010

小型のプロペラ機が空で唸っている。

「この紅茶、おいしいね」

妹の洋子は、両手でカップを包み込むようにして、紅茶を飲む。

「好きなの?」

「ん?」

「東海林クンのことよ」

「嫌いじゃない」

「ズルいんだ」

雨の降らない日が十五日続いた。

異常気象が騒がれて久しい。

日本の農家もツライ。

ranko's diary 0009

物理ができる奴は、エライ。

偏差値90を超えるのも、物理では夢ではない。

私にとって、物理は頭痛の種でしかない。

「あんたは、物理世界に生きてないからね」

千代子が言った。

よくわかってるじゃん。