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優しい気持ちになる~マイ・エレメント~

 ピクサーからまた色とりどりの世界の贈り物をもらった。
 火と水の主人公だなんてよく思いついたものだなあ。元素たちの暮らす世界で、土や風もいて。
 「また多様性か。少し食傷気味」と思っている方たちに伝えておきたい。そこに関しては押しつけがましいところはないよ。
 簡単に言えば、昔からよくある家柄のちがう恋愛について。ベタでしょ。でもストーリーは単純で終始明るいトーンだし、感情はなかなか細やかに描かれている。

 最初から移民問題だと誰もがわかるようになっていて、多様性というより、違う母国で育った親を持つ子供たちは、どのような気持ちでいるのか。子供たちにとってはそこが育った国なのに、マイノリティの意識はずっと拭えない。それは周りの意識やあからさまな差別もあるけれど、親の意識もある。
 親にとっては自分たちがされてきた仕打ちや、子供たちを守りたい気持ち。その世代ごとに環境や感じ方もちがうだろう。

 観ていると、幼少期や大人になってからニュージャージーに住んだ頃を思い出す。
 日々暮らしていると、ちょいちょいそういう周りの言動で、アジア人への意識を感じる。マイノリティであることや見下ろされたり軽んじたりされる感覚。しょっちゅうではないし、マジョリティ側は好意的な意味で伝えてくる言葉の中に、実は差別的感情で見下ろされている場合もある。

 それは日本にいる時の私たち側もやらかすからね。日本人同士ならお互い様で静かに受け入れ合う場合も必要だけど、そうではないなら、その時その時で気づいたり、「それは困る」「イヤな気持ち」と声を上げたりする必要がある。
 誰の何に対して抗議するか、直接伝わるように、伝える相手も間違わないように。
 うまく伝えられないなら、その気持ちを受け入れられない「No」だけでも良い。クレイマーと、正当な抗議とを自分で区別する意識も常に必要だし、「No」だけでも伝えなければいけない。無言の抗議では残念ながらあちらに伝わらないからほぼ意味がないのよ。
 直接伝えることと、伝える対象を間違わないこと。どうやったら伝わるのか工夫も必要。

 もちろん伝わりきらなくてもどかしい時も暮らしの中で多々ある。流したりやり過ごしたり、どうしようもなくわかってもらえなくてあきらめたり。まあ今回は良いかと苦い思いや面倒な気持ち、エネルギーの少ない自分に卑屈になったり。

 それでも一人ひとりが少しずつでもきちんとその意識を持っていれば、何回かに一回でも声を上げ態度に出せるし、必ず誰かには届く。

 その瞬間の自分だけのためではない。同じ環境や境遇にいる人、そして後に続く人たちのためにも。


 自身の経験からアツく堅苦しくなってしまうけど、映画はもっとサラッとそういう場面が何度も出てきては流れていく。そして主人公、火のエンバーの感じる居心地悪さとか表情とかで時々また思い出す。

 

*ネタバレあります



 水のウエイドはマジョリティで都市の中心部に暮らす。きっと家族の影響もあって、その環境は彼の良い面に出ている。素直で考え方も自由で、人を受け入れられる器を持っている。彼の態度や言葉が互いを尊重したい気持ちに満ちているのは、「聞く耳」を持っているから。

 にしても。若い恋は良いものだねぇ。
 二人の恋心に、シンデレラまで思い出してしまった。「帰らなくちゃ」で階段が出てきたものだし。上がる方の階段だったけど。
 カボチャの馬車や美しい衣装に変身などはもちろんなくて、エンバーは自らバイクにまたがって爆走したりするのだけどね。自分で作ったガラスの大切な物は、もらっても返しに行っちゃうし。

 移動する時に電車を使うと、マジョリティの水エレメントの視線が気になり、火エレメントのエンバーは肩身の狭い思いをする。

 恋心の中に、人々の意識を見せられる。

 恋愛は燃え上がってしまうものだろうし、壁を乗り越えられるぞと盲目になりがちだけど、それもまた意味がある。
 こういうことが何度もあって、何人もがその感情を経験して、だからちがう環境や立場の人をわかり合おうとする意識だって芽生える。
 やっぱりこの世界を作ってきた上の世代は、うまくいかなかったこともあるし、がんばってきて成果が出てきたこともあるのだよな。

 観ながら世界中、現地で暮らす日本人を思い、ニュージャージーで移民として暮らすアジア人たちの頑張りも思う。そこで暮らす決意をしたからって、祖国を捨てたわけではない。愛があっても違う国で暮らし始めなければと決意するのは、身を切られる思いをしている人だって多いはず。

 災害でもそうよね。
 避難民がそこに移住するケースは少なくない。
 そのまま現地に住む人たちが避難する人との気持ちの分断があるのは、阪神大震災の時も東日本大震災の時も、つらかった。
 判断はその人の自由なのだ。心までは引き裂かれたくない。友達なら友達関係を続けられるよ。

 こういった積み重ねが今を作っているのだなと歴史に思いをはせる。


 映画では親が簡単に子供を受け入れて拍子抜けする方もおられるようだけど、子供を本当に思う親ならそんなものだ。むしろ終盤まで子供に親の夢を押し付けすぎと思う。そういう家庭もあるのだろうし、もちろんストーリーに必要なものでもある。私だって、親にとっては子供を受け入れたい言動は当然とか書きつつ、葛藤する思いだってあるものだ。
 最後のお父さんの姿には、親として涙なくしては見られない。

 ところどころアツ語りしちゃったけど、楽しくて優しい気持ちになる映画なので気楽に観るのにもおススメ!



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