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食事と精神医学(4): ポジティブになりたければワイン愛好家になれ!?~海外文献の紹介~

皆様、こんにちは! 鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

小生はTwitterで「飯ツイート」を時々(?)しますが、その際にワインの写真も一緒に紹介することがあります🍷😋

翌日が休みであれば必ずワインを開け、至福の時を過ごすことが小生にとって何よりの癒しなのです。

…… という訳で、いつかはワインに関する研究ネタを記事にしようと意気込んでおりましたが、いざ調べてみるとワインをはじめとする"お酒とメンタルに関する研究"って、大抵「アルコール依存症」「うつ病」「自殺」等々、ネガティブな話題ばかりなんですよね……😖

精神科医のはしくれである小生も、「呑みすぎはメンタルに悪い」というのは百も承知なのですが、「もうちょっと、ワインの良いところをアピールする研究はないものか…」と探していたところ、オーストラリア🇦🇺で実施された興味深い論文を1報見つけました!

今回紹介するのはワインが引き起こす”ポジティブ感情"に焦点を当てた研究です。

皆様も是非ワインを楽しみながら、この記事をご賞味くださいな☺️🍷


【研究紹介】

Consumption Context Effects on Fine Wine Consumer Segments' Liking and Emotions. Dinner L et al., Foods, 2020

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33287331/


<目的>
ワインの嗜好性と消費者特性の関連性を調べる。

<方法>
研究1:
3種類の白ワイン(シャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン)を製品情報とともに提示しFWS(Fine Wine Instrument Scale)を用い、ワインに対する好感度と感情的反応に対する状況要因の効果を調査する(表1:Fine Wine Instrument Scale))。

表1: Fine Wine Instrument Scale (オーストラリア版)

研究2: 3つの異なる環境大学の実験室、レストラン、自宅)で赤ワインのシラー[ 金メダル(特別なワイン)、銀メダル(非常に優れたワイン)、銅メダル(良いワイン)、メダルなし(欠陥はないが健全な品質)という4段階の品質]を試飲したとき、内在的および環境的要因がFWSの嗜好反応感情反応にどのように影響するかを調査した。

手順: 合計126人の白ワインの常連消費者(少なくとも月に一度は白ワインを消費する)が、1.ブラインド情報提供なし)、2.基本条件(簡単な情報提供あり)、3.詳細なワイン説明ありの3つの条件下で3つのワインを評価した。セッション1では、参加者はブラインド状態でワインを試飲し、セッション2では、より詳細なワイン情報とともにワインを試飲した。その後、30mLのサンプルワインがコード化されたISOテイスティンググラスに入れられ、12-13℃の温度で、参加者間で各セッション内でランダムに提供された。参加者は各サンプルについて好き嫌いと感情的な反応の強さを評価した。両セッションとも、最初にウォームアップ・サンプルとして樽出しシャルドネが提供された。
4人の参加者がFine Wine Instrumentの質問に答えられなかったため、彼らのデータは分析から除外され、最終的な参加者数は122人となった。

統計など: 二乗ユークリッド距離とウォードの方法を用いた凝集型階層クラスタリング(AHC:Agglomerative Hierarchical Clustering )を用いて、Fine Wine Instrument Scaleへの回答に基づき、消費者を3つのセグメント(No Frills: ワインに興味がない人, Aspirants: ワインに多少興味がある人, Wine Enthusiasts: ワイン愛好家)に分類した。

<結果>
いずれのタイプの消費者(ワインに興味がない人, ワインに多少興味がある人, ワイン愛好家)においても、Sauvignon BlancとRieslingがChardonnayよりも有意に好まれた(図1)。

図1:ワインの嗜好性とブドウの品種

・ワイン愛好家は他のグループに比べて、シャルドネを高く評価する傾向があった。
いずれのワインにおいても、「詳細なワインの情報」と共に試飲することポジティブな感情反応を得られた。
・金メダルのワインは、他の3つの品質レベルと比較して、有意にポジティブな反応が得られた(特にワイン愛好家の評価は高かった)。
シャルドネに比べソーヴィニヨン・ブランでより強いポジティブな感情が有意に報告され、リースリングのサンプルはほとんどその中間に位置しました。
・ワインの品種や情報条件とは無関係に、ワイン愛好家がより強いポジティブな感情を報告し、次いでワインに多少興味がある人、ワインに興味がない人が報告したことを示している
・消費状況(環境)とは無関係に、金メダルワインでは他の品質ワインに比べてより強いポジティブな感情が報告された。
ワイン愛好家において「幸福感」は金メダルワインで高くなるが、その他グループにおける幸福感は、品質レベル間で違いはなかった(図2)。

図2:幸福感と赤ワインの品質の関係


・ワイン愛好家とワインに興味がない人は、自宅よりもレストランでより強い冒険心や熱狂的な感情を示すことが分かった。

<結論>
ワインによって生じるポジティブな感情は、ワインに対する嗜好性や情報、飲む環境に影響される。


【鹿冶の考察】

研究について補足説明します。

この研究をもう少しわかりやすく説明すると…

特殊なアンケート(FWI scale: Fine Wine Instrument Scale)を用い、
ワインに対する嗜好性から被験者を…

1.ワインに興味がない人
2.ワインに多少興味がある人
3.ワイン愛好家

…に分類し、その上でワインの品種、ワインの情報の有無、ワインを飲むときの環境などパラメーターを変え、ワインを飲むときの感情反応との関係を調べた研究です。

そして、【研究紹介】の<結果>の中でも以下の3点が個人的には"興味深い"と感じたので詳しく説明します(かなり噛み砕いていますが…😅)。


<“ワイン通"ぶりたいならシャルドネを選べ!?>

この研究では白ワインにおいてシャルドネは他の品種よりも人気がありませんが、ワイン愛好家はそれほど悪い評価をしておりません(図1)。

実はこの傾向は他の論文でも報告されており、例えばワインに関する知識や関心が薄い層はシャルドネ嫌いという結果が得られております(参考文献2)。これは、一般消費者にとって、熟成したシャルドネがあまり馴染みのない味であるため…、という解釈がなされております。

シャルドネは「特徴がないのが特徴」でありオーク樽で熟成させるため年月が経つとスモーク、バニラのような香りが出てきます。この風味・リッチさを初心者は敬遠する可能性があるとのことです。

ちなみに、今回の実験で使用した他の2種については、リースリングは豊かな酸味と上品なアロマ(桃や蜂蜜を彷彿とさせる)、ソーヴィニヨン・ブランはキレの良い酸味とハーブ系の香りが特徴です。

「すっきり」「フレッシュ」「フルーティー」な白ワインはとても飲みやすいので、風味やコクのあるシャルドネは相対的に初心者から避けられるのかも知れないですね…(小生も以前はシャルドネは苦手でした…)。😅

しかし、逆に言うとシャルドネを美味そうに呑めば、ワイン通たちからは「こいつはシロウトではないな…」と思われるかも知れませんよ?


↓ちなみに小生はこれでワイン読んで、「ワイン通」ぶっております。


<ポジティブになりたければ、ソーヴィニヨン・ブランを飲め!?>

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現役の精神科医が論文紹介しています!

食べ物、飲み物、食習慣等について精神医学の観点から解説! これを読めば、食事がさらに楽しくなる?

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