きしもと

穏やかなこの日々に自分を浸して

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  • 言葉のテリーヌ

    色とりどりの言葉を僕の好みで集めてみました。

  • 写真を撮ってみました。

    たまに写真を撮りに出かけます。

  • 微炭酸なココア

    心の中の美味しくないもの

  • Weekends #3『最高の一皿』

    塩、胡椒、醤油、味醂、酒…この世界には数え切れないほどの調味料がある。更には空腹という見えない「最高の調味料」もある。 もう少し考えてみよう。 形のない調味料は空腹だけだろうか。 季節、天気、皿を共にした人への思い、事件も大切な調味料だろう。 それらが絡まりあった情景の中にこそ「最高の一皿」がきっとある。

  • Weekends #1『子供の頃の夢が破れた日』

    あさぎはなさん ( https://note.com/mochi_neko ) Mr. いくじなしさん ( https://note.com/mr_ikujinashi ) ひでまるさん ( https://note.com/hide_7semaru ) きしもと ( https://note.com/kishibe )

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[エッセイ] 父の肩車

いい人僕の父はとにかく器が大きい。 東京ドーム何杯かで数えるのすら面倒くさくなるレベルだ。 僕の父はとにかく愛がある。 その愛は海より深く山より高い。 子持ちバツイチの中国人女性と結婚し、その連れ子(僕)に、中学受験、私立の中高一貫校、駿台での浪人、と教育に惜しむことなく投資をしてくれた。 また、結婚の際は親戚一同の反対を押し切って勘当されている。 僕自身が人生について考えたり、日本社会に通底する価値観を理解できるようになってから振り返ってみると、父のこの選択がいかに容

    • 足、小指、タンス、角

      明けましておめでとうございます。 大事な書類に間違えて書いてしまった2023の3を無理やりボールペンで上書きして4にしなきゃいけない場面にはまだ遭遇していません。 今年もまた、自分は年を一つ重ねて、昔の自分からは想像できないような年齢になってしまうのだと思います。 子供の頃って、大人ってもっと大人だと思っていました。 でも蓋を開けてみると、脳みその中身なんて幼稚園児の頃からほぼ変わっていない気がします。どこまで行っても自分は自分なんだなと。 でも、一つだけちょっと変

      • 好きなものを思い出せなくなって

        SNSで彫刻の紹介をする投稿を見た。 美術はいいものだ。 そうだなぁ、彫刻家で言えば、自分はアルベルト・ジャコメッティが好きだ。あとは、、あとは、、、、 思い出せない。 昨日のお昼ごはんの話ではない。 自分が好きな彫刻家を思い出せないのである。 あの、しかめっつらのやつ。 見ている人が無意識に口に力が入ってしまうやつ。 好きなものを思い出せないことは悲しい。 「忘れる程度のものなんだから大して好きじゃないんだろう」 と言われるかも知れないが、そんなことはない。 あの手

        • 棘が抜ける時期に胸を痛めて

          InstagramのStoriesに世界中色とりどりの景観やごちそうが並ぶゴールデンウィーク、僕はどこにも遠出をせず、家にいます。 どうも自律神経の調子が良くないようで、この数週間はうっすら体調が悪いです。寝不足のときのようなしんどさ、お風呂で湯あたりしてしまったときのようなしんどさ。あまり経験したことのない感覚でどう説明すればよいのかわかりません。 特に一番しんどいのが動悸です。脈絡なく、心臓が急に跳ねて、左鎖骨から脇の付け根にかけて痛みが食い込みます。 断続的に胸が痛

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        [エッセイ] 父の肩車

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          4本
        • Weekends #1『子供の頃の夢が破れた日』
          4本
        • Weekends #2『雨と言葉の終端速度』
          6本

        記事

          一生懸命で素直な人は素敵だし、自分もそうありたい。

          一生懸命な人は素敵だなぁと思います。 素直な人は素敵だなぁと思います。 「とても素敵です。僕はあなたのような人が好きです」 そう言ってしまいたくなります。 笑いながら、そんな話をする人が素敵だと思います。 まるで、雪原に佇む一本木を見たときのような気持ちになります。

          一生懸命で素直な人は素敵だし、自分もそうありたい。

          [エッセイ] また同じ香水を買う頃に

          今日、香水を買った。 ブルガリのオムニアクリスタリン。 そういえば前にもこの香水について作文をしたなと思い自分の投稿を見ていると、ちょうど一年前のこの時期だった。 記憶が曖昧なのだが、いつかだったか、TOSHIBAさん(たぶん)のLED照明のテレビ広告で 「次この明かりを取り替えるとき、私はどんな自分になっているだろう」 的なニュアンスものがあったように思う。 「LED照明の売りである長寿命さを人生に重ねるの、いいなぁ」 としみじみした記憶がある。 大好きなミュージカル「R

          [エッセイ] また同じ香水を買う頃に

          [エッセイ] 最近、煮物が好きになりました。

          最近、仕事終わりに駅前の牛丼屋さんのオレンジ色に光る看板を見ても吸い込まれなくなりました。体がアブラをあまり受け付けなくなってしまったからです。おかげさまでダイエットがとてもはかどっています。 そういえば、牛丼屋さんってオレンジ色系が多いのはどうしてでしょうね。緑とかだとあまりにも牛丼の色とかけ離れているからしょうか? 最近、ハマっているのは自家製のピクルスです。こってり甘いお肉があまり食べられなくなっても人生の楽しみは何も減りませんでした。セロリ、パプリカ、きゅうり、にん

          [エッセイ] 最近、煮物が好きになりました。

          [エッセイ] 驚くことに

           結局は寂しいだけだった。驚くことに、すべての原因はそれだけだった。音楽を聴いて泣いていたのも、過去の傷に自分で塩を塗り込んでいたのも、絶対に傷つくと分かっている人間関係に挑んでいたのも、noteに文章を書いていたのも、結局は寂しいからだった。  誰かに「よく頑張ったね」と言われたかった。それだけだった。誰かに認められたくて必死に頑張っていた。僕が僕であることを当たり前だと思われたくなかった。生まれた瞬間からずっとニコニコしている人間だと思われたくなかった。僕は必死に頑張っ

          [エッセイ] 驚くことに

          [エッセイ] 自己紹介

           今年の4月、つまり今月から、僕は新しい会社で楽しく働いています。まだまだ始まったばかりなので、言い切ってしまうのは少し気が早い気もしますけど、それくらいに楽しいです。  今の会社には、冷やかしてくる人がいません。 同期も先輩も僕みたいな変な人ばかりで、 「そんなことして一体何を目指してるの?」 なんて、自分の人生がつまらないことの八つ当たりをしてくる人がいません。  この前、そんな新しい会社で自己紹介をする機会がありました。ご時世柄、リモートでしたんですけど、自己紹介スラ

          [エッセイ] 自己紹介

          [エッセイ] 流路

          「やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」 なんて風流なあけぼのとはかけ離れた、くしゃみと涙と鼻水の地獄とともに春は訪れる。  この季節になると、花粉症の薬や目薬を買い込むのと同時にすることがある。それは香水を変えること。気温が上がってきたときにモッタリした分厚い香りを纏うと流石にくどいから、さっぱりした物に変える。  ブルガリのオムニアクリスタリンという香水。専門的な言葉は全く知らないから上手に言い表せないけれど、爽やかな香りがとても好み

          [エッセイ] 流路

          [小説] 消えた馬刺し #月刊撚り糸

          「ほんと、やってらんないよな」  そう言いながら真田は喫茶店のソファに自分の背中を叩きつけるように座る。緑のベルベットソファは随分と削れて毛足が短くなって全体的に白みがかっている。お店の看板も名前も内装もソファもテーブルもマスターも年季がにじみ出ているが、だからこそこの時代にまだ全席喫煙可能なのだろう。 「奉献、お前もアイスコーヒーでいいよな?」 「あ、う…」 「マスター、アイスコーヒー2つお願いします」  真田は奉献の返事も待たずにカウンターに居るマスターに注文をする。マス

          [小説] 消えた馬刺し #月刊撚り糸

          [小説] 借りパク #月刊撚り糸

           掃除が下手な男が一人、フローリングの上でひっくり返っている。秒針の音を聞きながら、蛍光灯の紐がエアコンの風で微かに揺れるさまを見ている。カーテンを閉めきった部屋の中では、どれくらいの間そうしているのか分からない。頬には涙が乾いた跡がある。  この恭平という男はとにかく掃除が下手だ。彼の掃除方法は至って簡単で、部屋を上下に分ける。  まずは上。床に接していないものを全て、一旦床に置く。棚の中身、机の上のもの、中のもの、ありとあらゆるものを床に置く。そして、それぞれの置き場所

          [小説] 借りパク #月刊撚り糸

          [エッセイ] まどろっこしくても

           仕事の合間に友人とくだらないLINEのやり取りをして笑っていたら、 「話は変わるんだけど、『君の膵臓をたべたい』観たことある?」 と訊かれた。確かに話がかなり変わる。そして、この類の話の展開は限られている。一緒に鑑賞会をしようと誘われるか、感想を語り合うかのどちらかに違いない。だから僕は会話の先を見越した上で、 「観てなかったら何が起きるの?」 と返した。すると、 「何も起きない」 と返ってきた。  釣りで浮きがツンツンと動くような感覚がちょっと面白く感じて、もう少し遊んで

          [エッセイ] まどろっこしくても

          [エッセイ] 滑らかさ

            牛乳に溶いたホットケーキミックスを混ぜながらふと、滑らかさにはザラつきが欠かせないのではないかと思った。気になってしまったので、ウィキペディア大先生にお伺いを立ててみた。  なるほど、やっぱり滑らかさにはザラつきが必要なのだろう。なぜなら、ひっかかりのない状態しかありえないものをわざわざ滑らかだなんて言う必要がないからだ。言語や哲学や流体の研究をしている人には眉をしかめられかねないが、素人の戯言なので温かい目で見逃して欲しい。  例えば、料理において滑らかさが強調され

          [エッセイ] 滑らかさ

          [エッセイ] 夢は捨てたと言わないで

           深底のフライパンに油をひいて牛肉を炒める。肉の色が変わったら、すりおろした生姜を少し入れて料理酒を感覚で振る。再び煮立ったら、醤油と味醂と砂糖をこれまた感覚で振る。細かい分量とかが苦手な人間だから味付けは全部感覚でする。再現性がまったくない。属人的である。  味付けを終えてぼーっと鍋を眺めて居ると、鍋がまた煮立ってくる。そうしたら、木ベラで肉をフライパンの端に寄せて、水切りをして8等分に切った絹豆腐を形が崩れないように木ベラに乗せてから滑らせて鍋に入れる。あとは、落し蓋を

          [エッセイ] 夢は捨てたと言わないで

          [エッセイ] 少し濃いジントニックで笑ってくれるあなたたちがいてくれて

           少し早く仕事が終わって、お米を何合入れたか忘れそうになりながらご飯を炊き、まとめ買いして冷凍してある鶏肉の中からもも肉を探し出し、なんとか夕飯の親子丼の準備を終えて鶏肉の解凍を待ちながら一人で飲むジントニックがどうしようもなく幸せだ。  最近、来年から働く会社の同期になる予定の人たち(この文章の中では便宜上、同期とする)の一部と意気投合して、週に2回程度電話をしながらオンライン麻雀をするのがささやかな楽しみになっている。noteにも度々苦しさを吐き出している僕ではあるけれ

          [エッセイ] 少し濃いジントニックで笑ってくれるあなたたちがいてくれて