波多恵

小説を中心に投稿します。

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  • 【連載】独裁者の統治する海辺の町にて

    過疎の漁師町がある政治結社組織に統治された。否応なく組織に組み込まれた中橋康雄は少女凛子と組んで親友の神学者登坂士郎を殺害する。組織の統治支配の恐怖のなかで康雄と凛子はどうなるのか、書いていく本人も分からない。無責任連載小説です。

  • ショートショート寄せ鍋

    #毎週ショートショートnoteに投稿したものを集めています。ほぼ410字の掌編です。パッと読んでパッと忘れてね。

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固定された記事

独裁者の統治する海辺の町にて(1)

(1) その町の小高い丘の稜線には熱病にかかったように造営された城壁が連なり、海側の先端に質素な二階建ての教会が見えた。ほんの5年ほど前まで、町民は日曜になると…

波多恵
1年前
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独裁者の統治する海辺の町にて(25)

士郎が論文で否定していた「原始共産制」は、簡単に言えば生産従事者の生産従事者による生産従事者のための無階級社会ということになるが、そこには常に指導組織として「党…

波多恵
1か月前
29

独裁者の統治する海辺の町にて(24)

暑がりの平良主席に合わせて、党本部2階の執務室は冷房が効きすぎていた。テーブルの皿には彼女が食った後の鶏のもも肉の骨が2本のっている。平良はマホガニーのアンティ…

波多恵
2か月前
17

紫式部のバレンタインチョコ 前編、後編 [デジタルバレンタイン]

 前編〈葛飾区立第7高校の渡り廊下〉 あ、なんだお前、スカートが短いし、超ロン毛!完璧校則違反だぞ (あら、もう阿部サダヲが掛かったわ) ん、お前は本校生徒じゃな…

波多恵
2か月前
46

ヒロシの不適切にもほどがある #行列のできるリモコン

ヒロシです 友だちも彼女もおらんです さみしかです ヒロシです 松本人志と名前が一字違いです ヒロシです やばいことになっとっごたっです アテンドは 黒瀬んごてはしとら…

波多恵
3か月前
43

独裁者の統治する海辺の町にて(23)

え、もう一冊の手帳?ああ、安倉雅子が永川に託したやつね、まあ、それについて述べるのは後にしよう。おっと、昨晩空けたビール缶が床に落っこちた。また揺れやがった。窓…

波多恵
3か月前
29

独裁者の統治する海辺の町にて(22)

話は戻るが、5月に凛子とおれが殺った記者の永川謙二は手帳を持っていた。そこには主に中央電力と党との密約について記されていた。彼が独自に調べたこともあったが、有益…

波多恵
4か月前
18

フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン/38年目のクリスマス[台にアニバーサリー]

フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン どうしてかしら 急に身体が軽くなって自然に足がお台場に向かう そういえば今夜、中秋の名月だわ え、誰、この人 「月からお前を迎…

波多恵
4か月前
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こんと カニばさみしちゃいました

あ、コーチ どうした、トリンドル美鈴、元気がないな 実は、恋しちゃったみたいなんです なるほど、練習に身が入らんはずじゃ しかして相手は誰だ 一般人です そうか、分…

波多恵
4か月前
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創世記異聞 快楽の起源 [肋骨貸す魔法]

「どうしたアダム」 「胸がシクシク痛むです 何とかしてくんろ神様」 「よし、口を開けろ」 神はアダムの口から手を突っ込み、胸から肋骨を一本折り取りました 「貸しても…

波多恵
4か月前
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神々の黄昏 [白骨化スマホ]

〈part 1〉 「なんだ、枯葉か」 「何かお探しですか」 「さて、何だろうね」 「じゃあ、分からないまま探してるんですね」 「まあね、それで君は?」 「ぼく?そうで…

波多恵
5か月前
38

未来からのテロリスト[白骨化スマホ]

みなさん、レポーターのブリジットです いま、井の頭公園で真っ昼間に変なやつが変なことをやってるので突撃します あ、あれです ぼく、ドラえも~んっていってるようで…

波多恵
5か月前
26

独裁者の統治する海辺の町にて(21)

百合みたいに開いた河口から鉛色の水が湾内に流れ出て漏斗状にひろがっていた。おれはバイクを飛ばし、党の本部に向かった。平良貴子(「主席」のことだ)に呼び出されてい…

波多恵
5か月前
22

🎵中央フリーウェイ🎵[助手席の異世界転生]

🎵中央フリーウェイ🎵 この曲を聴きながらよくドライブしたなあ 今でも助手席で合わせて唄うお前の声が聞こえる 🎵調布基地を追い越し 山にむかって行けば  黄昏がフ…

波多恵
5か月前
40

世襲税理士 [木の実このまま税理士]

あたしね 木の実っていうのよ こ・の・み、よ とってもかわいいの それでね パパがね 自分は愛人と別荘で暮らすから、税理士になれっていうの あたしね 初音ミクの…

波多恵
5か月前
33

昭和の恋 [着の身着のままゲーム機]

メルカリで5百円 送料は無料 男は怪しいと思ったが、妙に懐かしさにつられて注文した まるで昭和のブラウン管テレビのようなそれは「着の身着のままゲーム機」という装…

波多恵
5か月前
32
固定された記事

独裁者の統治する海辺の町にて(1)

(1) その町の小高い丘の稜線には熱病にかかったように造営された城壁が連なり、海側の先端に質素な二階建ての教会が見えた。ほんの5年ほど前まで、町民は日曜になると中世ヨーロッパを思わせる石畳の坂道を上り、この教会に集っていた。海風は急勾配の坂道を通って空へ抜けていく。そのため石畳には潮の匂いが染みついていた。わけてもその日は前日の雨のせいで坂道の匂いが濃く、生臭くさえ感じられた。その石畳の上に血が飛び散った。党大会において原始共産制の存在を否定した神学者が、この世から抹殺された

独裁者の統治する海辺の町にて(25)

士郎が論文で否定していた「原始共産制」は、簡単に言えば生産従事者の生産従事者による生産従事者のための無階級社会ということになるが、そこには常に指導組織として「党」が君臨するわけだから、党がそれを理想とすることはもちろん自己撞着になる。まあそんなことは普通の知能があれば誰でも分かることだが、党の理念となっているからには何人も批判できない。ばかげたことだって分かっていながら従わなければならないことほどムカつくことはない。だがだ。そんなバカなことがあるか、なんて恐ろしくて誰も言えな

独裁者の統治する海辺の町にて(24)

暑がりの平良主席に合わせて、党本部2階の執務室は冷房が効きすぎていた。テーブルの皿には彼女が食った後の鶏のもも肉の骨が2本のっている。平良はマホガニーのアンティークデスクに太ったケツを乗せ、足組をして、ワインを片手にサンドイッチを食っていた。このひと月で、体重はあきらかに5キロは増えているだろう。昼食は?彼女はおれが部屋に入るときいた。済ませてきましたと答えると、年代物のワインをグラスに注いでさしだした。喉が渇いていたので一気に飲み干すと、この太った女は、味わうってことしらな

紫式部のバレンタインチョコ 前編、後編 [デジタルバレンタイン]

 前編〈葛飾区立第7高校の渡り廊下〉 あ、なんだお前、スカートが短いし、超ロン毛!完璧校則違反だぞ (あら、もう阿部サダヲが掛かったわ) ん、お前は本校生徒じゃない、眉も剃っとるし、どこの者だ! 平安の宮中から来た紫式部にはべる しかし、その太ももむきだしは卑猥すぎないか お嫌いですか お好きです やっぱりや、安倍晴明のいうた通り、よろこんどる セイメイ?未来から転校してきてたあの晴明か。あいつめ、平安時代にとびくさっとったか、で、なぜ「今」に来た? その晴明に中宮彰子さま用

ヒロシの不適切にもほどがある #行列のできるリモコン

ヒロシです 友だちも彼女もおらんです さみしかです ヒロシです 松本人志と名前が一字違いです ヒロシです やばいことになっとっごたっです アテンドは 黒瀬んごてはしとらんです あぶなかです あぶなかです きがきじゃなかです ヒロシです 行列があると並びとうなります こん前は寒空に豚骨ラーメン店のところに50人並んどりました 店が閉まりました あと3人やったとです💢 ヒロシです 公園に行列のできとったです 昭和リモコンって看板の立っとったです 寒かったばってん並んだとです 1時

独裁者の統治する海辺の町にて(23)

え、もう一冊の手帳?ああ、安倉雅子が永川に託したやつね、まあ、それについて述べるのは後にしよう。おっと、昨晩空けたビール缶が床に落っこちた。また揺れやがった。窓が痙攣でもするように小刻みに振動している。6月は7回、そして7月は・・・12回だった。明らかに地震の頻度は高くなっていった。そして、不規則だが中に変な横揺れが混じるやつがある。漁師町だから誰もがこの異変に気づいているはずだ。なのに誰も口にしない。不安と恐怖の天秤で恐怖が勝ってるって事だ。この頃には、党ににらまれたらおわ

独裁者の統治する海辺の町にて(22)

話は戻るが、5月に凛子とおれが殺った記者の永川謙二は手帳を持っていた。そこには主に中央電力と党との密約について記されていた。彼が独自に調べたこともあったが、有益な情報は彼の血のつながりのない姉(実際は恋仲)の安倉雅子から入手したものだった。安倉雅子は党の工作員として秘密裏に中央電力の幹部と交渉していたので、色仕掛けや買収も含めて密約の内容が具に記され、その上、原発建設のタイムスケジュールまで載っていた。そして、末尾に、調査中案件として、多良崎町長が県会議員の息子を使って東越電

フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン/38年目のクリスマス[台にアニバーサリー]

フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン どうしてかしら 急に身体が軽くなって自然に足がお台場に向かう そういえば今夜、中秋の名月だわ え、誰、この人 「月からお前を迎えにきた お前の刑期は了った さあ戻るぞ かぐや」 「ちょっと待って、私悪いことしてないわよ」 「月の世界の記憶は消されるんだ 3年前より昔のこと覚えてないだろう」 「そういえば・・・でも待って 娘はまだ2歳なの」 「心配ない 後のことはお前の夫に頼んでおいた」 あら、どうしてかしら、自然に足がお台場に そういえば

こんと カニばさみしちゃいました

あ、コーチ どうした、トリンドル美鈴、元気がないな 実は、恋しちゃったみたいなんです なるほど、練習に身が入らんはずじゃ しかして相手は誰だ 一般人です そうか、分かった、それならカニばさみで攻略するんだ ダレノガレさゆりも狙ってるんですが勝てますか 大丈夫だ 一般に男はカニばさみが好物だ ほ、本当ですか  ああ、おれもワイフのパイパイでか美のカニばさみで毎晩ノックアウトさ なるほど、愛にカニばさみというわけっすね で、どこでやるんですか そうだな、お前のアパートで振る舞え 

創世記異聞 快楽の起源 [肋骨貸す魔法]

「どうしたアダム」 「胸がシクシク痛むです 何とかしてくんろ神様」 「よし、口を開けろ」 神はアダムの口から手を突っ込み、胸から肋骨を一本折り取りました 「貸してもらうぞ」 神はその肋骨に魔法のちちんぷいぷいをしました そうしたらあ~ら不思議、肋骨はナイスバディの女の子に変わりました 「神様、そのザクロのようないちじくめいたものは何じゃい」 「これは、チブじゃ」 神はイブと宣ったつもりですが、出身のアッシリア訛がでてしまいました アダムはなぜか体が熱くなりました でもイブはい

神々の黄昏 [白骨化スマホ]

〈part 1〉 「なんだ、枯葉か」 「何かお探しですか」 「さて、何だろうね」 「じゃあ、分からないまま探してるんですね」 「まあね、それで君は?」 「ぼく?そうですねえ、強いて言えば管理人というところかな」 「管理人?」 「この公園、最近探しものをする人が多いんですよね どれどれ」   管理人はしゃがみこむと落ち葉をかき分けた すると落ち葉の中からス   マホが、まるで白骨化した遺棄死体のようにでてきた 「あ~あ、またこれか、これでしょ、あなたのものは」  「そんな

未来からのテロリスト[白骨化スマホ]

みなさん、レポーターのブリジットです いま、井の頭公園で真っ昼間に変なやつが変なことをやってるので突撃します あ、あれです ぼく、ドラえも~んっていってるようです あ、集まってくる人たちをスマホで撮って・・・ワア~、大変です、撮られた人が次々に白骨化しています みんなパニくって逃げ惑っています なんてことするんでしょう ブリジット、突撃しまーす あなた、何者? ぼく、ドラえもん3世、ネコ型ロボット 未来から退治に来た~ 退治って、この人ら普通の人よ 有権者だ~ ? お前ら

独裁者の統治する海辺の町にて(21)

百合みたいに開いた河口から鉛色の水が湾内に流れ出て漏斗状にひろがっていた。おれはバイクを飛ばし、党の本部に向かった。平良貴子(「主席」のことだ)に呼び出されていたのだ。指令を直接出すということは傍受を警戒してのことだ。彼女の九鬼書記長に対する猜疑心が深まっていることは明白だった。6月も中旬になっていた。 党の本部は2階建ての洋館だが、造りは要塞化していて、そこへ行くには長い桟橋を渡らなければならなかった。入り口の両端にはいつものように警備兵が立っていた。おれはそいつらにバイ

🎵中央フリーウェイ🎵[助手席の異世界転生]

🎵中央フリーウェイ🎵 この曲を聴きながらよくドライブしたなあ 今でも助手席で合わせて唄うお前の声が聞こえる 🎵調布基地を追い越し 山にむかって行けば  黄昏がフロント・グラスを 染めて広がる🎵 もうすぐ来る頃だ ほら来た いやだぁ またちがっちゃった 残念でした 次はちゃんと彼氏に巡り逢うんだよ は~い あなたもね 🎵中央フリーウェイ🎵 今夜もだめか また、来週だな 🎵愛してるって 言ってもきこえない  風が強くて🎵 え!その声は? やっと逢えた 80人目で

世襲税理士 [木の実このまま税理士]

あたしね 木の実っていうのよ こ・の・み、よ とってもかわいいの それでね パパがね 自分は愛人と別荘で暮らすから、税理士になれっていうの あたしね 初音ミクのコスプレにはまってたんだけどちょとあきたところだったんでいいわよっていったの え? ばかそうだけどだいじょうぶかって もんだいないわ だってこの国は世襲制よ あたしで5代目になるわ 木の実このまま税理士ってわけよ そいでね パパが契約してた商社に挨拶に行ったのね そしたらね いきなりよ 社長さんが今晩一緒にどうかって

昭和の恋 [着の身着のままゲーム機]

メルカリで5百円 送料は無料 男は怪しいと思ったが、妙に懐かしさにつられて注文した まるで昭和のブラウン管テレビのようなそれは「着の身着のままゲーム機」という装置だった  フンフン、着の身着のままか、今のおれのままでいいってことだな 男はつぶやきながら、いそいそとレトロな筐体を書斎の机に置き、スイッチを入れた  おおお、テレビに吸い込まれる 逆貞子だあ! いったい、どうしたんだ、ここはどこだ あ、あの海辺だ 季節は初夏のようだった 波打ち際をポメラニアンを連れた白い