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「一万円選書」当選物語:#3『昨夜のカレー、明日のパン』

 私が「一万円選書」に当選するまでとその後、選んでいただいた10冊の本について紹介していくシリーズ物note。今までのnoteはマガジンにまとめていますのでよろしければどうぞ。

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 3冊目は木皿泉著『昨夜のカレー、明日のパン』。2014年、本屋大賞第2位。NHKでドラマ化もされています。ドラマの出演陣も豪華。仲里依紗、星野源、鹿賀丈史などなど。

 ちなみに「木皿泉」というのは夫・和泉勉、妻・鹿年季子による夫婦脚本家の名前だそう。夫婦で何か一緒に作品を作るって、いいなあと思うのです。リンクコーデで話題の共白髪夫婦、bon・ponご夫婦みたいに。「共白髪」という日本語も美しい。

 さて、本の話に入るとしましょう。この本は、25歳にして伴侶・一樹を失ったテツコと、共に暮らす義父−ギフ−が周囲の人物と関わりながらゆるゆると一樹の死を受け入れていく物語。

 何か劇的なことが起こる訳ではなく、それぞれの日常のふとした出来事、それでいて、その人その人にとっては大きな出来事が、淡々と優しく描かれます。テツコや、ギフ自身のこと、亡くなった一樹、一樹の幼馴染、一樹のイトコ、テツコの現恋人…。この本は一人一人の物語でもあり、一樹という存在を媒介にした人間模様の集積でもあります。

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 重松清さんによる解説も秀逸だったので、一部を要約してご紹介します。

木皿泉さんが描き出す物語の愉しみは、その中にちりばめられた、大小軽重さまざまな「そうか/それでいいじゃないか」の瞬間を見つけること、そして、それを自分自身の「そうか(=発見)」へと、さらには胸の深いところまでじんわりと染みる「それでいいじゃないか(=解放)」のよろこびへと繋げていくこと。
ただし、「発見」と「解放」を、「解決」だなんて早とちりしてしまうのは厳禁。「そうか/それでいいじゃないか」のよろこびは、あくまでもつかの間のものにすぎない。僕たちは皆、一瞬の解放で肩の荷を下ろしたあとも、また新たな肩の荷を負ってしまう。みんな、また、何かに囚われてしまうのだ。だからこそ、ほんのつかの間、ほんのうたかたの「そうか/それでいいじゃないか」が、たまらなく愛おしい。

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 有川浩著『阪急電車』といい、映画『Love Actually』や『New Year's Eve』といい、いろんな人の人生が重なり合って描かれる作品が私はすきです。

 ここ数年は周りで訃報が比較的に多く、心構えができていたものもあれば、突然のしらせも。数年かけて、やっとご挨拶に伺えた方も。「もう会えないんだなぁ」という寂しさもあり、「会えてよかったなぁ」と思い出に支えられる部分もあり。死も変化も「ゆるゆると」受け入れていきたいものです。




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ありがとうございます。いつかの帰り道に花束かポストカードでも買って帰りたいと思います。