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『アステロイド・シティ』、『バービー』
2023年には感染症と隔離をテーマにした二本の映画でマーゴット・ロビーという女優が印象的な役を演じたというささやかなメモを残しておきたい。
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一本目は、ウェス・アンダーソンの『アステロイド・シティ』である。1955年、宇宙人到来事件をきっかけに世界から隔離された荒野の小さな街アステロイド・シティの群像を描く劇中舞台劇と、これを完成させようとする劇作家と俳優たちの紆余曲折を描く二段階構
Stranger 「ぶっ放せ! ドン・シーゲル セレクション」(1/24〜)
「第十一号監房の暴動」(1954)
活劇かと思えば、メロドラマだった。
刑務所と聞くから、アクション・暴力・猟奇・脱獄など期待して見るがそのどれも見当たらない。気になるのは、暴動の首謀者らしきダンといういかにも恰幅のいい、悪ガキがそのまま成人しただけのようなジャイアン風の男が、まず四人の看守を人質として獲得するとき、独房の並ぶ廊下を手前から奥に向かって一直線に駆けるショットがやたらと長く艶っぽい
『ケイコ目を澄ませて』短評
耳の聞こえないプロボクサー小河恵子を育てた荒川ジムの会長に取材する中盤のシークエンスに、おそらくこの映画唯一のジャンプカットがあって、はっとする。実際の撮影現場がどうかは知らないが、ばっちりキマったショット、ショットで組み上がるこの映画に俳優の演技が仕上がるのを待つゆらぎに満ちたシークエンスはほとんど似つかわしくない。飾り気のない、たとえば「ボクシングは闘う意志がなくなったら続けられないんだ」と
もっとみるホラー以外のすべての映画(7) 災と再現
再現された災害はいかにして到来するのだろう。
それは必ずしも計算によって構築された爆撃や暴風雨が実在する観光名所や政府機関を次々とモニュメンタルに倒壊させていく記号的なシミュレーションであるわけでもなく、多くのドキュメンタリー映像のようにそれを被っていくばくかの月日が流れた瓦礫を背景に実際にその被害にあった当事者たちへの聞き取りを通じて撮影者が決して直接そのレンズに写すことの叶わなかった出来事を事
オールタイムベスト(26.03.2022)
①「めまい」(1958,アルフレッド・ヒッチコック)
②「素晴らしき放浪者」(1932,ジャン・ルノワール)
③「アワーミュージック」(2004,ジャン=リュック・ゴダール)
④「丹下左前 百万両の壺」(1935,山中貞雄)
⑤「サンライズ」(1928,フリードリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ)
⑥「幌馬車」(1950,ジョン・フォード)
⑦「NOVO」(2002,ジャン・ピエール・モリザン)
⑧「ロ
アピチャートポン・ウイーラセタクン『メモリア』から(1)
始まるや否や真っ暗闇に人影、それからバンッ! 心臓に悪い破裂音は、心地いいとも神秘的とも言い難い。はっきり言って不快な「ノイズ」。しかし、残念。重要な舞台装置であるこの音がいつどこから鳴るのか、あと2時間半おびえつづけなければならない。
どこからともなく聞こえるこの大きな音にある日突然苛まれ始めたのは、コロンビアのメデジンで花屋を営むジェシカ(ティルダ・スウィントン)。はたしてそれへの対処法な