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麻利央書店

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高島麻利央による、短編小説~無料版~
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2017年11月の記事一覧

文化祭の想い出

文化祭の想い出

 ある辞書によると、文化祭とは『生徒・学生が研究発表・演劇・音楽会・講演会・討論会などを企画実行する文化的な催し』であると説明されている。しかしそんな高い志を持って文化祭に臨んでいる人間がどれだけいるのであろうか。ほとんどいないだろう。むしろ、好きなクラスメイトと急接近できるとか、付き合ってる男女が一緒に出店を回るだとか、そんな浮かれ切ったイベントにしか思えない。

 私の通う女子高では、他の学校

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ある本屋で、コーヒーと。3

ある本屋で、コーヒーと。3

続きものです。
2からお読みください。

 それから1ヶ月ほど、彼がカフェで仕事をしている毎週水曜日は勤務終わりに一緒に読書をすることが二人のルーティーンになった。彼と会うと幸せを感じられたが、彼の気持ちを確かめたいという衝動に駆られることも増えて、自分の気持ちを処理するのが困難になってきているのを自覚していた。

 私はこんなに欲深い人間だったのかと自己嫌悪に陥った後、しばらくしてから、約束もな

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ある本屋で、コーヒーと。2

ある本屋で、コーヒーと。2

続きものです。
1からお読みください

 私はカフェのレジで注文していた。ホットのカフェモカMサイズを頼んだ。レジを打っているのは、彼だ。お釣りをもらう時に手が触れると、彼は優しく微笑み、慣れた手つきでカップに注文を書いてドリンクを作るスタッフに手渡した。蒸気が上がり、トントンとミルクの泡を整える音が響いて、手際よく私のカフェモカが仕上げられていく。「カフェモカMのお客様」と呼ばれ、スタッフから渡

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ある本屋で、コーヒーと。1

ある本屋で、コーヒーと。1

 私の日課は仕事終わりにカフェの併設した本屋で読書をすること。その本屋はカフェを利用すれば、席に好きな本2冊まで持って行って読んでいいことになっている。私はこの日読むと決めていた好きな作家【待津野ひまわり】の本と別の作家の本、2冊を持って、カフェカウンターでホットコーヒーのSを注文した。
「マグカップとフタ付き、どちらになさいます?」男性店員が訊ねた。
「フタつきで」私は即答した。
理由は二つある

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死神の疑い③

死神の疑い③

死神シリーズ最終章。
ようやく天気が回復したところを見ると、
死神さんもお仕事が終わって、落ち着いたんでしょうね。

話が分からない方はコチラをご確認下さい。
死神の疑い① 死神の疑い②

つい先日の話。
 ある漫才師Tさんのお葬式に参列した。芸人さんの葬儀に行くのは初めてで、式場に、いや式場への道すがらから、同じ方向へ進む人たちを見ては「あ、あの方は確か…」「あの先輩も来られてる...」と緊張し

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乾杯の挨拶を提案します。

乾杯の挨拶を提案します。

友人(新婦)の結婚式の二次会の乾杯の挨拶を頼まれた。
仕事上、司会はよく頼まれて、務めさせて頂くのだが、乾杯の挨拶は初めてだったので、色々と試行錯誤した。

友人代表のスピーチではないので、思い出などをつらつら語ってもしょうがない。また乾杯前なのでコンパクトにする必要がある。しかし、曲がりなりにも「しゃべり」を生業にしているので、笑いは取れなくても、ひねりというか、ちょっと粋な挨拶にしたいなという

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死神の疑い②

死神の疑い②

今年入っての二度目のお葬式は、祖父だった。

 7月の舞台本番の1週間ほど前に父から「容態が良くない、そろそろかもしれない」と連絡があった。

 父の父、つまり、父方の祖父はもう5年も入院していて、しかも意識がない状態。散歩中に脳が出血し(脳溢血?)意識が戻らないままだった。この5年祖母は毎日意識のない祖父の元へ通っていた。私も帰省した際には会いに行った。はじめのうちは何となく反応があるような、笑

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