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麻利央書店

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高島麻利央による、短編小説~無料版~
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#短編小説

人生ガチャ③

人生ガチャ③

続きモノです。まだの方は先にお読みください。
人生ガチャ①
人生ガチャ②

ヤバ。

アカツキが目を落とした時計は、倉庫作業のアルバイトまであと30分であることを表していた。方向感覚は失われていたが、ガチャがあった道に背を向けてダッシュした。しばらく走っていたら見慣れた通路にぶち当たり、駅めがけて引き続き走った。

その後ろ姿を眺める男がいた。彼はアカツキが投げ捨てたカプセルと紙切れを拾ってポケッ

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人生ガチャ②

人生ガチャ②

人生ガチャ①はコチラ

アカツキはその道を進んだが、分岐点はなかったのに、人影に追いつくことはなかった。気のせいだったかと何故か少し落胆して視線を落とした先に、ひとつ、赤いガチャの機械が、佇んでいた。

あれって機械か?正式名称はなんだ?

出ない答えを探すのにいくら時間を費やしてもムダなのに、目の前にある物体の名前を知ったところで明日には忘れちゃうくらいの蘊蓄なのに、どうして人間は答えを求めるの

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人生ガチャ①

人生ガチャ①

薄暗い路地に入って、指示通り右に1回、左に2回曲がると、どういうわけか全部の道が細い五差路に出た。そこでアカツキは再びスマホを見た。画面には道案内が表示されているが、次の指示はこうであった。

アカツキは選ぶのが苦手だ。うどんかそばの2択だって少なく見積もって15分はかかるのに、5つのうちから1つを選ぶなんて、途方もない重労働だ。しかもこの道には特徴がない。全部同じ幅で同じ色で、一寸先は見えない。

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あの子はあに子⑤褒め天才

あの子はあに子⑤褒め天才

続き物の短編小説。読み切り可。
前話☟

世間はゴールデンウィークに突入した。あに子はコロナ云々関係なく、毎年取り立てた予定も入れない。実家にも帰らないし、旅行もしない。ここ数年はダラダラとNetflixを見ている。あに子は「Netflix以前はどう過ごしていただろう」とふと思い、記憶を遡ってみた。あぁそうだ。テレビに付属されたHDDに撮りためた映画やドラマを見ていた。見てはデータを削除、見ては削

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あの子はあに子④「ネモフィラこわい」

あの子はあに子④「ネモフィラこわい」

「あに子さん、ネモフィラ見に行きましょうよ」

唯一今も付き合いがある高校の後輩の梨乃から突然LINEが来た。
とは言っても定期的に連絡するでも会うわけでもなく、梨乃の気が向いた(ふと思い出した)時や、誰も誘う人がいなかったから、という理由で声を掛けてきている、とあに子は思っている。

それより。

ネモフィラってなんや。

何か聞いたことあるような無いような、何を指しているのか分かるような分から

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あの子はあに子③「ニート」

あの子はあに子③「ニート」

あに子はぼんやり考えた。

「会社、辞めようかな・・・」

少し前に唯一の同期だった美奈代が辞めた。彼女は結婚しようと考えている相手がいる。両親との顔合わせ、ふたりで住む家、入籍や式のこと、なにも決まっていないけれど、このままの流れで行くと、大方結婚する方向になると言う。そんな曖昧な決め事だったのか、結婚というものは。30代も半ばを過ぎると結婚なんてものは、紙面上の契約であって、ロマンスではないと

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脱毛サロンの女「アザのある客」

脱毛サロンの女「アザのある客」

これは、脱毛サロンに勤める女・毛利悠里(26)の日常を切り取った妄想エッセイです。事実とは大きく異なる点があるかもしれません。妄想ですのでご了承下さい。

ビィーーーーーン。

『今日はこれで3人目か』

ムダ毛を処理する電動シェーバーの音が鳴り響く中、私は目の前に横たわるタオルに包まれた裸体を前に夢中に…というよりも無心にシェーバーを動かしていた。今やっている右足の太ももが終われば、除毛作業は臀

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文化祭の想い出

文化祭の想い出

 ある辞書によると、文化祭とは『生徒・学生が研究発表・演劇・音楽会・講演会・討論会などを企画実行する文化的な催し』であると説明されている。しかしそんな高い志を持って文化祭に臨んでいる人間がどれだけいるのであろうか。ほとんどいないだろう。むしろ、好きなクラスメイトと急接近できるとか、付き合ってる男女が一緒に出店を回るだとか、そんな浮かれ切ったイベントにしか思えない。

 私の通う女子高では、他の学校

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ある本屋で、コーヒーと。8(終)

ある本屋で、コーヒーと。8(終)

続きものです。
7からお読みください。

「あとでね」

 すっかり冷めてしまったコーヒーを両手で握り締めていた。彼の言った4文字を額面通り捉えていいのか、ずっと頭の中でグルグル考えていた。考えても答えが出ないという答えにたどり着くまでそんなに多くの時間は必要ではなかった。

『おまたせ』

 柔らかで、私の鼓膜を細かく振動させる、あの人の声が届いた。
 夢だ、反射的にそう思った。
 目を強く閉じ

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ある本屋で、コーヒーと。7

ある本屋で、コーヒーと。7

続きものです。
6からお読みください。

 本屋のイベントスペースはカフェと反対側にあった。小さなステージと、20名ほどが座れる長椅子が並べられていた。サイン会だけではなく、ちょっとしたトークも行われるらしく、ステージには2つ高いスツールが準備されていた。本屋の店員が行ったり来たりしているだけでまだ誰も来ていなかった。サイン会の場所を確認した後、私は【待津野ひまわり】の特設コーナーへ行くと、2人ー

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ある本屋で、コーヒーと。6

ある本屋で、コーヒーと。6

続きものです。
5からお読みください。

 それから1ヶ月、私はその本屋のあるカフェに足を運ぶことはなかった。それどころかどのカフェにも行かなかった。仕事が終わったらすぐ家に帰って、部屋で一人、自分で淹れたドリップコーヒーを飲みながら、本を読む。そんな毎日を過ごしていた。
 私はカフェに行かなくとも、本とコーヒーのインスタ投稿は地味に続けていた。今読んでいるのは【待津野ひまわり】の一番新しい本。初

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ある本屋で、コーヒーと。2

ある本屋で、コーヒーと。2

続きものです。
1からお読みください

 私はカフェのレジで注文していた。ホットのカフェモカMサイズを頼んだ。レジを打っているのは、彼だ。お釣りをもらう時に手が触れると、彼は優しく微笑み、慣れた手つきでカップに注文を書いてドリンクを作るスタッフに手渡した。蒸気が上がり、トントンとミルクの泡を整える音が響いて、手際よく私のカフェモカが仕上げられていく。「カフェモカMのお客様」と呼ばれ、スタッフから渡

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ある本屋で、コーヒーと。1

ある本屋で、コーヒーと。1

 私の日課は仕事終わりにカフェの併設した本屋で読書をすること。その本屋はカフェを利用すれば、席に好きな本2冊まで持って行って読んでいいことになっている。私はこの日読むと決めていた好きな作家【待津野ひまわり】の本と別の作家の本、2冊を持って、カフェカウンターでホットコーヒーのSを注文した。
「マグカップとフタ付き、どちらになさいます?」男性店員が訊ねた。
「フタつきで」私は即答した。
理由は二つある

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脱毛サロンの女「減らない客」

脱毛サロンの女「減らない客」

これは、脱毛サロンに勤める女・毛利悠里(26)の日常を切り取った妄想エッセイです。事実とは大きく異なる点があるかもしれません。妄想ですのでご了承下さい。
1話完結シリーズものです。「アザのある客」「100%の客」

ウチのサロンは回数でコースが分かれている。8回、15回、22回、無制限と回数によって値段が設定されている。ほとんどのお客様が8回コースからスタートするが、理想の肌まで近づかず、回数を追

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