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キミはボクの年下の先輩。第1話「文芸部に興味はあるかい?」

  *

 ボクの名前は四戸祥汰しのへ・しょうた。今からボクは、ある出来事をキミたちに共有していきたいと思う。これはボクの身に起こった、ある彼女との様々なシチュエーションの話だ。

  *

 彼女との出会いは、ある高校の、ある文芸部に所属したことがきっかけだった。

 ある高校に入学して、ある文芸部に所属するまでのボクは病気がちで、いつも病院に入院している病弱な子だった。

 その病気が治って、やっと病院を出たときには、もう年齢が十七歳になっていて、まだ高校に入学していなかったボクは次の年に高校に入学するときには、十八歳、つまり、二年遅れの高校生になることが確定していた。

 ボクの見た目は病気のせいか、普通の人より幼く見えやすく、もう十八歳になろうとしているのに、身長が百五十五センチしかなかった。

 だから、だろうか。

 ボクは、これから入学している同級生に自分の年齢のことを告白する気なんて起きなかったし、結局、ボクは自分の年齢が今年、十六歳になる年齢であるとウソをつくことにしたのだった。

 それでも問題はなかった。

 ボクの住んでいる場所から、少し離れた場所の高校を選んだので、どの同級生にも自分が十八歳になることを疑われなかった。

 だから、高校を卒業するまでに二十歳になって、ずっとボク自身が同級生である、みんなと一緒に卒業することをボクは選ぶことにしたのだった。

  *

 高校に入学してからの行事を終えたボクは、部活動の勧誘の時間に、ある文芸部に所属している彼女と目が合った。

※あくまでイメージ画像です!

「やあ、キミ、文芸部に興味はあるかい?」

「文芸部?」

「そう、一緒に、この私と創作活動したいと思わないかい?」

 文芸部とは、誌、小説、随筆、論評などの執筆を主な活動とする部活の一つだ。

 彼女は文芸部の部長のようだった。

 創作活動をしているからだろうか? 

 彼女からは、なんだか独特のオーラがあるように感じられた。

 肩にかかるまである漆のような黒髪に、黒曜石みたいに黒い眼をしていた。

 対して、肌は絹のようなきめ細やかな純粋な白色に近い肌をしており、その顔は、ほぼほぼ丸っこく、まるでお人形のようであり、どこか幼い印象も感じられた。

 でも、そんな見た目なのにスタイルの良さが際立っていた。

 身長はボクより五センチ高い、要は百六十センチくらいだろうか。

 普通の人からしたら、そんなに身長が高いわけではないのだが、ボクからしたら、ボクより五センチ高いだけでも十分に背が高いように感じる。

 体型は、とても引き締まっており、でも、出るところは、ちゃんと出ている。簡単に言うならば、ちょっとボン・キュッ・ボンの体型ってこと。

 だけど、彼女のブレザーの制服は、ちゃんと彼女を高校生であるとボクに認識させてくれていた。

「ねえ、キミ、ちゃんと聞いてる?」

「はい、でも、どうして?」

「キミからは、なんだか只者ならぬ雰囲気が感じられるんだよね」

「はぁ」

「キミ、絶対なにかあるでしょ?」

「なにかって、なんですか?」

「うーん、要するに、キミは普通じゃないってこと」

「普通、じゃない?」

「だからさ、入ろうよ、文芸部。キミにピッタリだと思うんだ」

「でも、ボク、文芸部らしい創作活動なんて、したことないですよ」

「大丈夫! この私、文芸部の部長である加連京姫かれん・みやびが手取り足取り隅々まで、ちゃんと教えるから! 私を助けると思って! オ・ネ・ガ・イ!」

「えぇ……」

 可憐で雅という意味がありそうな名前だけど、可憐ではあると思うけど、ちょっと雅からかけ離れていそうである彼女――加連京姫にボクは、このときから心が奪われていたのかもしれない。

「わかりましたよ」

「ありがとう! じゃあ、入部決定ってことで! よろしくね! えーっと……」

「四戸祥汰です」

「しのへ・しょうたくんね……ふへへ、ショタくんって読んでいい?」

「ショタくん?」

「なんか、そういう感じがしたの! いいでしょ!」

「はぁ……まぁ、いいですけど、それでボクは、かれんさんをなんて呼べばいいですか?」

「そうだね……じゃあ、私は、お姉さん……いや、それは、まだ早すぎるか……先輩とでも読んでくれ! 加連先輩だぞ! 一応、高校二年生、つまり、一個、年上だから……ということで、よろしく頼むぞ、ショタ後輩くん!」

「はい、よろしくお願いします……先輩。…………」

 ボクの心の中が少しだけズキリと感じられた。

 ボクは先輩にウソをついている。

 そう、ボクは彼女より一つ年上なのだ。

 だからから、だろうか。

 ボクは、この先、彼女に真実を伝えることができるだろうか。

 いや、まだ始まったばかりだ。

 だから、今は流れに身を任せよう。

 そう思ったのだった。

  *

 ボクは一年時に所属したクラスより文芸部の部室に入り浸ることが多くなった。

 なんでって、そりゃあ、馴染めなかったんだよ。

 やっぱり、どこか同級生との感覚が違っていて、うまく表現できないけど、「違う」って感じがしたんだ。

 でも、そういう意味では加連京姫も「違う」人間であるのかもしれない。

「ショタくんショタくん」

「なんですか加連先輩?」

「やっぱりキミは変わってるね」

「いきなりなんですか失礼ですよボクに」

「自分で言うか。まぁ、なんでキミってば、この貴重な昼休みの時間を使ってまで文芸部の部室に来ているんだい?」

「ボクがいちゃダメなんですか。その発言は加連先輩にも言えることなんじゃないんですか?」

「私は文芸部の部長だからいいんだよ。文芸部そのものだからね。私イコール文芸部! オーケー?」

「まぁ、いいですけど……ボクが、ここにいるのを許してくれるなら」

「学校に馴染めないショタくんを受け入れてる私って女神様じゃね? 文芸女神・加連京姫……ついに、そこまでの域に達してしまったか……!」

「なんの話ですか?」

「私はショタくんの女神だって話だよ!」

「女神は女神でも残念女神かもしれませんね」

「女神であることは認めるのね」

「正直、加連先輩がいないと、この学校にボクの居場所なんて、なかったでしょうし……」

「そうかぁ……私がいて、よかったね、ボッチく……ショタくん!」

「今、言ってはならないことを言おうとしたな!」

「さぁ、なんのことだか〜?」

 先輩はニヤニヤと笑いながらボクを見つめる。

※あくまでイメージ画像です!

「でもさ、私も、よかったよ。キミが文芸部に入ってくれて。キミがいなかったら、私は孤独だったよ」

「先輩が、孤独?」

「ああ……昔、ちょっとね」

 加連先輩は窓に視線を移す。

 その眼は、なんだか哀愁を漂わせていた。

 ボクは、そんな先輩の姿に、少しだけドキリとした。

 本来なら先輩ではない年齢差だけど、彼女になら「先輩」という言葉を言ってもいいような、そんな気分にさせてくれる。

 そうだ。

 たとえボクのほうが生まれてきたのが早かったからといって、それだけで序列が生まれるわけではない。

 年功序列なんて言葉は今の時代では通用しないだろう。

 少なくとも今のボクは、先輩より一年あとに入学してきた後輩なのだ。

 それは絶対に忘れてはならない。

 だから、この文芸部の部室で、先輩がいてくれること、文芸部を残してくれていたことでボクが、この場所に要られること、このことに感謝しなければいけないのだ。

 でも、先輩が、どうして、そんなに孤独ぶる理由を知りたくなった。

 ボクは、そのことを聞くために口を開いていく。

「昔、なにか、あった……ん、ですか?」

「聞きたいのかい?」

「ええ、まぁ、はい……先輩が一人で孤独を抱えるより、ボクに言ってくれたほうがスッキリするんじゃないかと思って……どう、ですか?」

「そうか、じゃあ、その話、乗ろうじゃないか」

※あくまでイメージ画像です!

 先輩は座っていた部室の椅子から立ち上がった。

 少しだけ制服のスカートがヒラリと舞う。

 先輩の黒いニーソックスに、うっかりと視線を移してしまったボクは、すぐに目をそらした。

 見えそうで見えない感じが、現在の成人年齢に達しようとしているボクの頬を熱くする。

「実は……」

「はい」

「過去に文芸部に所属していた部員たち全員に『短編小説執筆活動千本ノック計画』を発動しちゃってな……みんな、いなくなったんだよ」

「はい……はい?」

「私も悪かったと思ってる。文芸部にいた過去の部長と部員たちが、どれくらい創作活動に向き合ってるか知りたかったんだ。だが、私の考えは甘かった。甘かった、というか、私自身が甘くならなければいけなかったんだ。私は自分に厳しいから、短編小説を千の数量産するくらい朝飯前なんだけど、ほかの部員たちはついてこれなくて、そのことがトラウマになって、やめた。本当に申し訳ないと思ってる。だから、ショタくんには、ものすごーく感謝してる。ホントホントホントだよ。このままだと文芸部の未来はなく、私で幕を閉じることになっていた。だから、ありがとうショタく――」

「――そんな深い理由だったんですね〜」

 気になるから聞いてみたけど、なんだか損した。

 ボクの年下の先輩――加連京姫との日常は、まだ始まったばかりだ。

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