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キミはボクの年下の先輩。第6話「キミは、ほかの女の子に抱きつかれたことはないのかい?」

  *

 放課後になった。

 部室に入ると、彼女は既にいた。

「やぁ、ショタくん」

「はい……」

「放課後のシチュ活はね……私がキミに抱きついてあげるっていうシチュ活だよ」

「そう……ですか」

「それじゃあ、遠慮なく抱きつかせてもらうよ」

 彼女は椅子から立ち上がり、ボクの後ろから抱きついた。

「っ……」

 ボクの喉から、声にならない声が出そうで出ない。

 背中に彼女の体温が伝わってくる。

 後ろから抱きつかれると、やっぱり先輩のほうが身長が高いため、お姉さんに慰められているような感覚になってしまう。

「どうしたんですか?」

「ちょっと、緊張しているだけさ」

「……ボクもドキドキしています」

「それは、どうしてだい?」

「だって、先輩が……いや、なんでもないです」

「へえ、焦らすね」

「ただ、抱きつかれることって、今までなかったので」

「キミは、ほかの女の子に抱きつかれたことはないのかい?」

「はい。はじめてです」

「へぇ……」

 彼女はボクの耳もとで囁いた。

「私も、はじめてなんだよね。男の子に抱きつくの」

「……そう、なん、です、か……」

「ふふっ……」

 彼女が、ちょっとだけ笑ったのがわかった。

 そのときだった。

「うりゃっ」

「ひゃっ!?」

 ボクは先輩からほっぺたを突かれた。

 その突いた場所がちょっと気持ちよかったけど、年下の彼女に感じたことを悟られたくなかったため、ボクは必死に隠す。

 しかし、そんなことを先輩が許してくれるはずがなかった。

「あれ? どうした?」

「な、なにがですか?」

「顔が赤いよ? もう、キミは正直になったらどうだい?」

「なっ……!?」

「ほら、言わないと、もっと突くよ?」

「……や、やめてください」

 ボクは諦めた。

「そ、その……」

「うん」

「先輩って……いい匂いがするなって……」

「当たり前だよ。女子なめんな」

「いや、そういうつもりで言ったんじゃなくて……」

「ふふっ。わかっているさ」

「もう……」

「それよりも、ショタくん」

「なんですか?」

「もっと、私にドキドキしてくれてもいいんじゃないかな?」

「それは……」

「もしかして、女の子慣れしてないの?」

「……そんなこと、ないと思いますけど……」

「そう?」

 彼女はボクのほっぺたをぷにっと押してくる。

 それさえも、なにか心地いい感覚を覚えてしまったボクだった。

(なんなんだ、これは……)

 この気持ちの正体はわからないけど、ボクの心臓はドキドキしている。

「もう、離していいですよ……」

「遠慮するな」

「遠慮なんかしていませんよ……」

「だったら、さらにギュッと抱きついてもいい?」

「ダメダメッ! ダメに決まっているでしょうが!」

「どうして?」

「だって、ボクたちは、ただの先輩と後輩の関係じゃないですか……」

「ねえ、ショタくん」

「……はい?」

「私って、そんなに魅力がないかな?」

「……えっ?」

「だってさ……」

 彼女の声が低くなった気がする。

 耳元で囁くように言う彼女。

 吐息が耳にかかる。

「どうして、そんなにそっけない態度をするのかな?」

「そ、それは……」

「私がキミに好意を抱いているのを知っていて、そんなに冷たい態度を取るのかな?」

「せ、先輩……?」

「ねぇ……答えてよ」

「いや……あの……」

「前を向いて、私を見て」

「えっ?」

「私って、そんなに魅力がないかな?」

「そ、そんなことないです」

「じゃあ、どうして、前を向かないの? 私の顔を見てくれないの?」

「そ、それは……」

 ボクは顔を真っ赤にしながら言う。

「……先輩の顔が綺麗すぎるから……」

「…………」

 彼女は、なにも言わない。

(ボク……変なこと言った!?)

 年下の先輩に引かれてしまったかもしれない。

 ボクは急に恥ずかしくなってしまった。

(は、恥ずかしいっ!)

 そんなことを考えていると、先輩は口を開いた。

「ふふっ……」

 彼女は、そのまま静かに笑いだす。

「どうして笑うんですか!?」

「いや、ね……キミの口からそんなことが聞けるなんて思っていなくて……」

「うっ……それは、その……」

 ボクは言い訳を考えるが、なにも思いつかない。

 そんなボクを先輩は優しく抱きしめてくれる。

「ありがとう」

「えっ……?」

「私のことを綺麗だって言ってくれたことが、とても嬉しい」

「先輩……」

 彼女は、いつもの明るい感じの声ではなく、落ち着いた口調で言う。

「ごめんね。ちょっとだけ、からかってみたかったんだ」

「からかうって、なんで……?」

「キミに意識してもらいたくてね」

「どういうことですか?」

「そういうことだよ」

 彼女はボクの耳元で囁くように話す。

「……だから、またシチュ活しようね」

「えっ……?」

 ボクが彼女のほうを向くと、彼女はいつもみたいに無邪気な笑顔を見せる。

 その笑顔は、ボクからすると、かわいいとしか思えなかった。

(でも、やっぱり……)

 ボクは彼女を見つめながら思う。

(この笑顔は反則だ……)

 ボクは彼女のことが嫌いではない。

 むしろ、好きなのだと思う。

 そして、ボクは、この瞬間から彼女のことが大好きになっている。

 だけど、ボクは彼女を好きになるべきではないと思っている。

 なぜなら、ボクと彼女は、あくまで先輩と後輩の関係で、ボクに関して言えば、もう成人年齢になろうとしている。

 ボクは、彼女よりも年上なのだから、しっかりしないといけないと思う。

「ボクだって……」

 ボクは小声で呟く。

「なにか言った?」

 彼女は首を傾げて言う。

「いえ、なんでもないですよ」

「そう?」

「はい」

 ボクは彼女に笑顔を見せる。

「先輩、これからもよろしくお願いしますね」

「うん! こちらこそよろしくね!」

 ボクと彼女は笑いあう。

「あっ、そういえば」

 彼女は、なにかを思い出したかのように言う。

「どうしたんですか?」

「いや、私も……なんでもないよ」

「えっ?」

「気にしないで! そんなことより、そろそろキミの創作活動の時間だ! 今日の昼休みと放課後のシチュ活をまとめて文章化してくれ!」

「えぇ……」

「嫌そうな顔をするんじゃない! 私だって恥ずかしかったんだからな! キミは契約の対価を支払うべきだ! こんなこと、誰にだってするわけじゃない! むしろ美少女である私とのシチュ活だ! キミにはご褒美だろ?」

「自分で言うか」

 でも、今日も羞恥心ばかり感じてしまっていた。

 それを正直に文章化することは先輩に気持ちが伝わるってこと。

 どうしてボクばかり、こんな恥ずかしい思いをしなければいけないのだろうか?

 少しだけ先輩がズルい気がする。

 先輩といえど、ボクからしたら人生的な意味では一年後輩なんだよ。

 それを隠しているボクが悪いのかもしれないけど、先輩が恥ずかしい思いをする顔を見たい。

 そう思ったボクは一般的な男性が抱くような性的嗜好を文章化していった。

 そして、その文章を読んだ年下の先輩――加連京姫は、このボク――四戸祥汰を見て、こう言った。

「これはセクハラだろ」

「否定できません」

「おっさんショタ」

「否定、できません……」

 結局、ボクが恥ずかしい思いをする結末になってしまう。

 ボクは彼女より年上だけど、きっと彼女には敵わないことを悟ったのだった。

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