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猪木の粋な息づかい:アントニオ猪木「猪木詩集『馬鹿になれ』」

猪木の粋な息づかい:アントニオ猪木「猪木詩集『馬鹿になれ』」

「そのまんま」の猪木

 昨年10月1日、アントニオ猪木の訃報に接した際、「あの猪木さんでも、最期にはやっぱり天国へ行ってまうんだ」という風に感じた。一度生で目にしたことがあるにも関わらず、どこかマンガのキャラクターのような、我々一般人とは明確に一線を画す存在のように感じていたのだ。あの「猪木」に「死」なんて似合わない。心のどこかでそんな風に思ってしまっていた。

 私が大学生だった10年前、西武

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孤独な野球人が語らなかった8年間の物語:鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたか』

孤独な野球人が語らなかった8年間の物語:鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたか』

 作中にも少し触れているくだりがあるが、中日新聞には創業家が二つ存在する。「新愛知」と「名古屋新聞」という二つの新聞社が1942年に統合されて誕生したため、新愛知の大島家、名古屋新聞の小山家がそれぞれ創業家となっているのである。
 新愛知は名古屋軍と大東京軍、名古屋新聞は名古屋金鯱軍と、かつてはそれぞれが球団を保持していた。

 この「ツーインワン」の構造はそのまま派閥争いとして残り、<歴代監督人

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江分利満氏の静謐なる職業野球論/山口瞳『昭和プロ野球徹底観戦記』

江分利満氏の静謐なる職業野球論/山口瞳『昭和プロ野球徹底観戦記』

 山口瞳の直木賞受賞作、『江分利満氏の優雅な生活』は文学というジャンルの奥深さを柔らかく指し示す小説であった。「every man(普通の人)」から命名したであろう、著者の分身たる江分利満(えぶり・まん)氏が送る戦後のサラリーマン生活は、家庭も仕事もどこか不完全で欠けている印象であるが、そんな日常も悪くはない。そもそも戦争で死ぬはずだったのに、「普通の人」となったのだから……。敗戦を「僥倖」と表現

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激戦区もチャンスに変える、伝説のゴーラーの「リアルサカつく」以上のもの:望月重良『全くゼロからのJクラブのつくりかた サッカー界で勝つためのマネジメント』

激戦区もチャンスに変える、伝説のゴーラーの「リアルサカつく」以上のもの:望月重良『全くゼロからのJクラブのつくりかた サッカー界で勝つためのマネジメント』

 神奈川県はズバリ、Jリーグ激戦区だ。Jリーグ創設の時点で川崎V、横浜F、横浜Mと既に3クラブ存在している。吸収合併による消滅や移転したクラブもあるが、現在も6クラブがひしめき合う、他の都道府県には見られない多さだ。国際色豊かな土地柄や、「王国」静岡と東京の中間地点であるなど、この理由はいろいろ深掘りが出来そうである。
 そんな激戦区に挑むのは望月重良が創設したのSC相模原だ。00年のアジアカップ

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「コンプレックス」の国のスーパースターがもしも:ピーター・レフコート『二遊間の恋ーー大リーグ・ドレフュス事件』

「コンプレックス」の国のスーパースターがもしも:ピーター・レフコート『二遊間の恋ーー大リーグ・ドレフュス事件』

 アメリカ合衆国は「complex」の国と聞いた事がある。人種、宗教、思想などが複雑に「複合」している国であり、一方で、そうしたあらゆるものが大陸からの“借り物”であり、そこに「劣等感」を抱いている国という意味だという。だからこそ、合衆国の国技たるアメフトや野球といったスポーツに熱中し、その頂点に立つものはアメリカンドリームを得た者として賞賛を浴びる。
 『素晴らしいアメリカ野球』、『ユニバーサ

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