#36 トレーナーが考える“健康寿命”
パーソナルトレーニングジムSISEIの宮谷です。
みなさんは「健康寿命」という言葉を聞いたことはありますか?
“寿命”と聞くと、高齢者を想像する人が多いのではないでしょうか?
少子高齢化がすすむ現在の日本において、この「健康寿命」はとても重要視されています。
今回はトレーナーとして、「健康寿命について考える」をテーマにお話しさせていただきます。
“健康寿命”を知る
まずは“健康寿命”について知識を深めていきましょう。
この“健康寿命”という概念は、2000年(平成12年)にWHO(世界保健機関)が提唱し、世界各国で重要な政策目標とされて取り組まれています。
みなさんが聴き馴染みのある平均寿命が「人が生存する平均年数(0歳の乳幼児が生存するだろうと考えられる平均年数)」を意味することに対し、“健康寿命”は「日常的・継続的に医療や介護に依存しない」「自分の心身で生命維持して自立した生活ができる」とした条件があります。
日本では2013年(平成25年)から「健康日本21(第二次)」という健康づくり運動の一環として、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」というスローガンを立てて取り組んでいます。
「健康で自立した生活を送れる寿命を延ばし、社会経済状況の違いによる健康状態の差を失くす」ということです。
ただ健康寿命を延ばすだけではなく、“平均寿命との差の縮小”がもっとも重要だとしています。
ここから社会の話を織り交ぜながら、現在の日本の厳しい実状について少し詳しくお話しさせていただきます。
2025年(令和6年)には、約800万人の「団塊の世代」(1947~1949年生まれ)が後期高齢者(75歳以上)となることで、国民の約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上という超高齢化社会を迎えます。いわゆる「2025年問題」です。
その結果、大量の後期高齢者を支えるために、社会保障、主に医療や介護、年金などが限界に達し、社会全体に負の影響がもたらされると考えられています。
今でも社会保障制度の基本となる保険料だけでは支えきれず、税金と借金(公債)が穴埋めに充てがわれているのが現状です。
(※ 借金である国債残高は、2023年度末には1,068兆円を上ると見込まれています)
“平均寿命と健康寿命の差の縮小”は、こうした後期高齢者社会がもたらす医療・介護費や年金など社会保障費の増大を抑制し、国の財源を確保するためにも急務な課題であるのです。
ここまでのお話を整理すると、“健康寿命”は高齢者に対する問題のように聞こえますが、果たしてそうなのでしょうか?
“健康”がポイント
“健康寿命”は「“健康”上の問題がない生活を送り続ける期間」と言い換えられます。
“健康”な状態を維持し続けなければならないのです。
“健康”の概念はWHOの憲章で、以下のように定められています。
ただ表面上病気でなければいいということではなく、肉体的にも精神的にも、 更には社会的に見ても、全てが良好な状態でなければ健康とは言わないのです。
“肉体的・精神的な健康”とは、やはり「健康の三原則」である「調和のとれた食事(栄養)」「十分な睡眠(休養)」「適切な運動」のどれが欠けても成り立ちません。
運動習慣、食生活や睡眠の改善などに日々積極的に取り組むことにより、生活習慣病の発症やさまざまな疾病を若い世代から予防していくことが重要なのです。
“社会的な健康”とは、“他人や社会と建設的(=よりよくしていこうとする積極的なさま)でよい関係を築ける”ことです。
この健康の社会的決定要因には、「社会格差」「ストレス」「幼少期」「社会的排除」「労働」「失業」「ソーシャルサポート」「薬物依存」「食品」「交通」が関係しているとWHOが発表しています。
専門分野ではありませんので詳しくは掘り下げませんが、健康を害する要因には個人の力ではどうすることもできない経済的・社会的・環境的問題なども関係しているということです。
発展途上国や貧困国は、先進国や経済大国に比べて健康上の問題を抱えている人の割合は多く、また平均寿命が30〜20年ほど短いのもこのためです。
みなさんは、「老後2000万円問題」いう言葉を耳にしたことがありますか?
これは、2019年に金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書をきっかけとした、老後の資金に関する問題のことです。
この問題は物議を醸しましたが、現在ではすべての人に当てはまる問題ではなく、“あくまで目安”とされています。
ですがこれを機に、老後に向けた貯蓄や資産形成について考えた方も多いのではないでしょうか?
そんな身近な“社会的な健康”に関する社会問題は、事前から備えることの大切さを教えてくれています。
“肉体的・精神的な健康”“社会的な健康”、どちらの健康にも重要なのが、日々コツコツと積み重ねていくことです。
“健康寿命”とは若くからの意識的・計画的な積み重ねのもとに成り立つものだと言えると思います。
“健康寿命”を伸ばすためには?
“健康寿命”を伸ばすためには、“肉体的・精神的な健康”、“社会的な健康”である状態を維持する必要があります。
これは習慣として、積み重ねていかなければ確立できない問題です。
〈肉体的・精神的な健康〉
“肉体的・精神的な健康”においては、「調和のとれた食事(栄養)」「十分な睡眠(休養)」は日々の個々の意識で解決できる問題です。
意識だけではなかなか習慣化できない問題、それが「適切な運動」です。
下の表をご覧ください。
令和4年のスポーツ庁の世論調査では76.2%が運動不足を自覚しており、運動の習慣化が現代人にとって大きな課題であることが分かります。
年代別に見ると、30代~50代で運動不足を「感じる」とする割合は約80%と高い数値を示しています。
“運動不足”は体力や全身持久力、筋力や筋持久力を低下させ、立つ・歩くなどの移動能力の低下を招き、日常で体を動かす量(身体活動量)が減少する原因となります。
「仕事や家事に励む」「外出や趣味を楽しむ」などの身体活動量や活動機会の減少は、QOL(Quality Of Life:生活の質)に影響を与えてしまいます。
運動をやらない/できなかった人の理由は、「忙しいから…」といった時間的なものや、「面倒くさいから…」「運動が嫌いだから…」といった苦手意識からという理由が多いです。
頭では大切だと分かっていても三日坊主で終わったり、苦手だから気が進まなかったりとなかなか続かないのが運動です…。
ここで大切なのが“運動の動機づけ”です。
“運動の動機づけ”は具体的にこうなりたいという欲求があって、生活習慣を望ましいものに改善しようとする行動変容が起こり、運動習慣を持つことへとつながるのです。
運動が長続きしない人は、まずは「こんな体型になりたい」という画像を探したり、「スポーツでこんな結果が上げたい」という目標を掲げてみてはいかがでしょう。
逆に、運動を実施する頻度が増えた人が行っている種目としては、「ウォーキング(散歩・ぶらぶら歩き・一駅 歩きなどを含む)」の割合が78.6%と高いです。
もちろん日々の通勤や通学で歩いたり、階段を使って身体活動量を増やす意識は大切です。
しかし、より一層の体力向上・筋力向上を行うためには、時間を割いて運動意識を持った運動やトレーニングをする必要があります。
その理由は、「トレーニングの原則」の一部で説明されています。
ただなんとなく歩くだけではなく、「目的や意義を理解して、意識して取り組むことが必要ですよ」「いつも同じ運動の繰り返しだけでは、それ以上の向上は期待できないですよ」ということです。
「スマホ片手にただ一駅分歩いてみる」だけでは、十分な運動をしていると言えません。
少し汗ばむくらい、しっかりと手を振り大きく足を開いて全身の筋肉を使う意識を持ちながら取り組むことが大切なのです。
また、運動を習慣化させなければならない理由は、「トレーニングの原理」で述べられています。
運動やトレーニングを一時期どんなに頑張って、よい成績や肉体を手に入れたとしても、継続しないと得た能力や筋肉は徐々に失われていくのです。
運動やトレーニングをしていた期間が長いほど、失われていく速度はゆっくりになり、短いほど早く失われます。
例えば、ある人が学生時代に陸上競技でフルマラソンを走っていたとします。
その人が社会人になり、まったく走ったり運動しなくなってから5年後に、同じ距離を同じタイムで走ることはできるでしょうか?
これはみなさん、口を揃えて「ノー」と言われると思います。
“昔取った杵柄”とは言いますが、勘を取り戻すことはあっても筋肉は失われたままなのです。
若い頃と同じ強度の運動やトレーニング を年を重ねても続けることは不可能ですが、「運動をしよう」と意欲を持って習慣化させることが重要です。
〈社会的な健康〉
“社会的な健康”は、環境や経済的な背景がある難しい問題です。
「格差社会」や「ストレス社会」という言葉が象徴するように、日本を取り巻く社会環境は厳しい状況下に置かれています。
この問題に私たちはどう取り組めばいいのでしょうか?
根本的な解決にはならないのですが、面白いデータを見つけましたので紹介します。
「日常生活で充実感を感じているか」の問いに対し、週に1日以上(直近1年)行っている人は73.6%、週に2日以上(1年以上)の人は77.3%「感じている」と答えているのです。
このデータから運動の実施頻度が多く、期間が長くなるにつれて、充実感を日々感じて過ごせている人が多くなるということになります。
これは運動によってストレスが解消され、体力や筋肉、持久力が上がることから疲れにくいカラダ作りがなされた結果だと思います。
ストレスはさまざまな疾病の原因とされ、引き篭もりなどの社会問題を引き起こします。
運動をすることは“肉体的な健康”を手に入れられるだけではなく、日常生活の充実感を高めて“精神的な健康”をも高めることができるのです。
“肉体的・精神的な健康”を高めることは、病気になるリスクを軽減できる可能性が高まります。
未病(発病には至らないものの軽い症状がある)の状態で、生活習慣の改善や運動習慣を身につけることが、自分自身にできる最善のケアだからです。
不自由なく活動できる環境にある私たちが、健康であるための意識を高め実践する“未病ケア”をすることで、医療機関などにかかってしまう社会保障費は抑えられます。
それが自ずと健康寿命を伸ばすことや、平等な社会の実現につながるのだと思います。
運動習慣が重要
健康への意識は若年層(15~34歳)では低く、中年層(35 ~ 64歳)〜高齢層(65歳以上)になるほど高まります。
若年層は意識しなくてもカラダの不調をあまり感じませんが、中年層から徐々にカラダの衰えを感じ始めるからです。
ですがほとんどの病気は、若年からの悪い生活習慣の積み重ねで発病します。
さまざまな病気の原因となる「生活習慣病」が、正しくそのことを証明しています。
近年、特に注視されているのが、「サルコペニア」や「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」です。
ここで注目していただきたいのが、「筋肉の減少は25〜30歳頃から始まり、生涯を通して進行する」という点です。
筋肉量は25歳をピークに、徐々に減少すると言われています。(非運動習慣者に限る)
その結果、中年層以降に身体的な不具合が現れ始めるのです。
2019年に10〜40代の男女773名を対象とした研究調査では、この筋肉の減少(サルコペニア)の傾向は約77%の人に見られたと発表されています。
サルコペニアの若年化は、栄養バランスの偏りや過度なカロリー制限などによる栄養不足、長時間座ったままの低活動な生活習慣や運動習慣がないことが原因と考えられます。
そもそも筋肉には活動時の衝撃を吸収し、骨や関節にかかる負担を軽減させて守る働きがあります。
筋肉の低下は骨や関節に負担をかけることにつながり、将来的にロコモになる危険性を高めてしまうのです。
では、筋肉を減らさないためにはどうしたらいいのでしょう?
それには健康の三原則である「運動」「栄養」「休養」は欠かせません。
運動やトレーニングなどで刺激を受けた筋肉は、筋線維の一部が破断されます。
その後、適切な栄養と休養を与えることにより傷ついた筋肉は修復され、回復することで筋力アップにつながります。
「筋肉は付けたくない」という考えかたの人もいらっしゃいますが、適度なトレーニングでは筋肉がムキムキとはなりません。
「筋肉が嫌い」でも、いつまでも若々しく元気に過ごす“健康寿命を高める”ためには、むしろ筋肉はとても重要なファクターなのです。
また運動やトレーニングは筋肉を鍛えるだけではなく、骨密度を高めて骨を強くする作用もあります。
骨密度が低下する「骨粗しょう症」予防のためにも、運動やトレーニングはすごく有効な手段なのです。
特に閉経を迎えた女性においては、エストロゲンが激減することで骨粗しょう症のリスクが高まりますので、運動習慣を身につけることはとても重要です。
誰もが、家族や他人の手を借りないと生活ができない未来なんて望まないですよね。
「ピンピンコロリ」が全人類の望む、人生の終焉の迎えかただと思います。
みなさんで運動習慣を身につけ、楽しい「第三の人生」を迎えましょう!
長くなってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
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