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『Shall we デカダンス?』本編を振り返る

同人サークル【文売班 白黒斑 / Boolean Monochrome】は2022年9月開催の文学フリマ大阪にて『Shall we デカダンス?』を発表・発売いたしました。本記事ではサークルメンバーが本書の内容について振り返った記録を掲載しています。
なお、本書の核心部分に関する言及はありませんが、軽微なネタバレを含みます。


文学フリマ大阪10 出店時の様子

水 (= 水述 諦)「あの、それでは座談会を始めていきたいと思うんですけども」
彩 (= 彩田チエ)「よろしくお願いします」
水「よろしくお願いします。
【文売班 白黒斑】として、我々は9月末に本を一冊出したわけですけれども。まずは我々頑張ったねということで、おめでとうございます」
彩「頑張りました」
水「よく頑張った。『Shall we デカダンス?』というライトノベルを出しました。ボリュームもね、けっこうあって、何ページ? ……えっと、452だ」
彩「すごい。ボリューミーですね」
水「この小説は元々、僕が学生の時──高3の時と浪人の時と大学生の時に書き溜めたやつなんですけど、原稿がある状態で彩田さんに絵を追加してもらって作ったという感じなんですね。
……えー、何だろうな、どうする?」
彩「何の話します?」
水「一章ずつコメントする?」
彩「一章ずつ!? 良いですよ。笑」
水「一生続いちゃうよ」
彩「長いな。一章だけに」
水「そう。──まあという感じの言葉遊び小説なんですけど、っていう入りは変……?」
彩「上手いこと纏まっているなと」
水「大丈夫かな」

目次とプロローグ

目次

水「全体構成としては、目次のところがフレンチになってるんですよね。Indexって書かずにMenuって書いてるんですけど。フランス料理の絵があって、Aperitif, Digestifっていうのはそれぞれプロローグとエピローグ、つまり食前酒と食後酒。そして本編が第一部から、間に休憩でGraniteを挟みつつの第五部まで。第一章、第二章と書かずに第一部、第二部としているのは、この物語が5つの部活動にスポットを当てる話なので、こういう表現にしています。
どういうお話かと言いますと、望月さんというね、ちょっとね、なんて言ったら良いんだろう……。斜に構えボーイ?」
彩「確かに、斜に構えボーイ」
水「斜に構えボーイが、部活どこ入ろうかなーという、よくある『何がしたいかわからなくて入る部活無いなぁ』状態の時に、廃部っていう変な、得体の知れない部活を見つけて、そこのヒロインである……あ、ヒロインって言っちゃった、部長。笑」
彩「ネタばれ」
水「急に物語を俯瞰して神の視点で語っちゃった。
えっと、ヒロインかどうかはわかんないんですけど、部長の方にね」
彩「磨鳥さん」
水「磨鳥さんにお話をして、じゃあ入部しましょうかーとなったけれど、その廃部がどういう部活かというと『色んな部活を見て回る』という部活で。
何故見て回るのかは本編参照なんですけど、色々な部活を見ながら自分の趣味を探すことができる、というWin-Winな関係であるということに望月さんが納得して、廃部に入りましたと」
彩「うんうん」

第一部 (ミステリ同好会)

水「本編を順番に見ていくんですけど、第一部でミステリ同好会に見学みたいな形で遊びに行きますと。そこの部のキャラクタ……」
彩「……」
水「……」
彩「……」
水「……どうですか、好きですか?笑」
彩「好きですか?笑 ……んー、キャラ濃いなぁと」
水「いやぁ、あのね、初っ端からキャラを濃くした方が、引きの関係もあって物語的には良いかなと」
彩「濃いめ」
水「濃いめの。というかこの小説、キャラ濃い人多すぎるんですけど。まあ、最初は特にこうしておいた方が良いかなと思って、変な人たちを集めてます」
彩「最初読んだ時に思いました。なんやこの部長って」
水「そう、ちょっとね、部長がね、ミステリ同好会は部長がすごい変人なんで、変であることも含めて物語を楽しんでほしくて、こういう感じにしています。
第一部からちょっとずつ、言葉遊びが始まっていまして。この本の裏のテーマが言語遊戯なので、序章(Aperitif)は言葉遊びがあまり無いんですけど、この部からちょっとずつ言葉遊びを入れていますね。例えば、登場人物の名前とかかなぁ」
彩「ああ、そうですね」
水「ミステリ同好会には金指くんっていう子がいるんですけど、57ページで『早咲き・速書きのゴールドフィンガー』なんて異名を持つとか言われていたりして。ゴールドフィンガ―って金指のことですね。それから、部長は仙諏部長って言うんですけど、58ページで『抜群のセンス』と揶揄されているみたいな。そして二人は扇子と簪にそれぞれ音が通じているというのもある。
あと、本編でけっこう登場人物が書いた小説のタイトルが列挙されるシーンが60ページにあるんですけど、この辺もかなり言葉遊びが多い作りとなっていますね。作品タイトル『雅なる邪推』とか」
彩「うんうんうんうん」
水「雅っていう字が邪推の邪の偏と邪推の推の旁で構成されているっていう」
彩「すごいなぁ」
水「あと『薔薇して紅』が『バラしてくれない?』とかかっているというのと、その感想に『酸鼻賛美主義』って表現。これは言いたかっただけ」
彩「ははは。酸鼻賛美主義」
水「酸鼻賛美主義。声に出して読みたい日本語。語感が良すぎて。
『ひらがなむらさつじんじけん』っていうのもありますね。これ『二人の共謀者まで現れて……』って書いてあるんですけど、つまり同じやつがあと二個あるってことなので、これはまた、ななぞなぞということで考えてみてください」
彩「そういうことだったんですね。知らなかった」
水「それから『サンチョパンサとドンキーコング』っていうのは、セルバンテスの『ドン・キホーテ』の相棒の名前がサンチョパンサなんですけど、ドン・キホーテの相棒を主人公とする物語で、何故かドン・キホーテじゃなくてドンキーコングと組んでるっていう謎の物語で。笑 これはこれでちょっとだけ別でシナリオあるんですけど」
彩「あるんだ」
水「あるけどそれはお蔵入りです、一生世に出ることはありません」
彩「あっ、そうなんだ」
水「『檻の中の天魔』──これは別に言葉遊びじゃないんだけど、その続編の『地獄のサタンも金次第』は沙汰ですよね」
彩「うんうん」
水「この『安楽死探偵シリーズ』ってやつ、読みたいよね。僕すごい読みたいんですけど。自分で書いてて」
彩「気になる」
水「気にはなる。面白そうなんだよな。……安楽死探偵シリーズ、誰か書いてくれませんか?笑」 
彩「なんで。笑 書いてくださいよ」
水「いやでも、そういうのあるよ。筒井康隆が、あの人はSFの巨匠なんだけど『ビアンカ・オーバースタディ』っていうラノベを書いたことがあって」
彩「ほうほう」
水「それの続編を、タイトルだけは考えておる、みたいな言い方をしていて。タイトルは発表してて、中身は無いっていう。そしたら、そのタイトルと1作目の内容を踏まえて、続編を筒井康隆と全く関係の無い人が書いて、新人賞に応募して、通って、本が出版されたっていうパターンがあるんですよ」
彩「えー! すっご。そんなことあるんだ。すっご」
水「そう。そういうことがあるので、安楽死探偵シリーズ『檻の中の天魔』よろしくお願いします! 誰か書いてください」
彩「あっはははは」
水「売り上げは折半ということでね」
彩「そこはちゃんとしてるんだ」
水「原作者にも入ってほしい、やっぱり。原作者が搾取されるみたいな風潮は是正していかないといけないのでね。
あと『衝動どうしよう殺人』とかありますね」
彩「衝動、どうしよう」
水「語感が良いですね。──などなど、色々な言葉遊びを、第一部から入れています。
この部、すごい長い台詞が意図的に挿入されていて、70ページの台詞とか、73ページまで続いていて」
彩「なっがいなー」
水「こういうのをわざと作ってます。変な小説ではあるので、こういうところで読者をふるいにかけてます。笑 こういう荒業をする人間だけど付いてこれるか? っていうのを、確認として」
彩「最初の方で」
水「ここの台詞は金指くんがそうしているように、早口で読んでください。早口で読むって日本語、ちょっと意味わからんけど。早口で言われているかのように、意味を雑にスキミングしながら急いで読んでみてください。臨場感が生まれます」
彩「なるほど。そう言われたらもう一回読みたいな」
水「朗読会とかもね。……しないか」
彩「します? めっちゃ時間かかりそう」

第二部 (囲碁茶道部)

水「第二部は、和風な感じで。囲碁茶道部っていう……囲碁茶道部って何だ? って感じなんですけども。囲碁と茶道をフュージョンさせた特殊な部活に、望月さんが行きました。
本来、この話が第一部に来る予定だったんですけど、変わりました。一番最初にこの囲碁茶道部の話を書いて、最初はこれにしてたんですけど、いくらなんでも初手にこれはおかしいだろと。存在しない部活スタートはおかしいだろと」
彩「なるほどね」
水「ということがあって、色々な細かい設定が変わりつつ、第二部に移りました。まあこれは裏話なんですけど」
彩「第二部は楽しい感じですね」
水「そうですね、明るくて良いですね。第一部は、うーん……。変人ばっかりでちょっと嫌な気持ちになるけど」
彩「はははははは」
水「第二部は明るい女の子がいっぱいいて、楽しいです。まあ、ちょっとね、ぼちぼち問題児がいますけどね。笑
この部にはクロイツっていうドイツの女の子がいるんですけど、その子の台詞に注目して読んでほしいなと思っていて。たとえば『すきなコトバは『わび・さび・わさび』ですネ!』とか」
彩「それ好きなんですよ」
水「言っちゃうような、女の子ですね」
彩「良いですね」
水「あと囲碁の説明する時に、ニギリというハンデがあるんですけど、六目と半分のニギリで『ニギリはロクモクハン』って言った直後に『オニギリはゴモクゴハン』って呟くという謎のくだりがあるんですけど……」
彩「かわいい」
水「そう。あと、コミに反応してコミケの話をしだすとかね」
彩「ちょっと天然ちゃんな感じなんですかね。かわいい」
水「まあオタクなんだろうね、たぶんね」
彩「確かに」
水「119ページで『センテヒッショウ、ユダンタイテキ!』とか言ってますからね。これポケモンのオープニングなんでね、昔のオープニングの歌詞」
彩「あー、そういうこと」
水「アニメのオタクなんでしょう」
彩「よく知ってる」
水「よく知ってるわりに、侘び寂びとわさびを同等のものだと思ってるけど。どっちも味わい深いものだとしか思ってないから。鼻を刺すと胸を刺すの違いがわかってないから。
──123ページと124ページが個人的にはすごく気に入っていて、クロイツが望月さんに対して『アッソウ』ってすごい突き放すシーンがあるんですけど、これドイツ語で『アッソウ』は『はい』っていう肯定の意味なんですよね」
彩「あー」
水「これは通じなかったっていう話」
彩「そういうことだって今、知りましたわ」
水「それから、ドイツの歌を歌い出して聞く耳を持たなくなるクロイツに対して望月さんが『これが本当の『独語』だ』って言ってるところが……」
彩「上手い」
水「独り言かつ独の言語ってね。望月さんもなかなか言語感覚が愉快なので。笑」
彩「愉快。笑 愉快ですねぇ」
水「あと、第二部の見どころは、138ページの……アクションシーン。笑」
彩「アクションシーン。笑」
水「アクションシーンなのかわからん。これをアクションシーンと呼んで良いのかわからないんですけど、気になる方、是非、読んでみてください」
彩「是非」

幕間

水「ここで閑話休題という感じで、グラニテの章が挟まりますね。タイトルは『趣味は曖昧』です。ここで初めて我らが! 桃谷愛子ちゃんが登場するんですけど」
彩「我らが愛子ちゃん」
水「我らが愛子ちゃんが、登場するんですけど。愛子ちゃんが出てくる章だから、曖昧っていう字に愛が入っているんですよね。まあ、指差しているんですけど。愛子ちゃんが、タイトルの愛の部分を。メタですね。
それにしても、愛子ちゃん──好きなんだよなぁ……」
彩「もう、好きさが溢れ出てる」
水「愛子ちゃんに肩入れしすぎて、一章分作っちゃってるもんな」
彩「愛子ちゃんの章が出来ています」
水「もちろん物語の要請上、この話は必要だよねっていうので差し挟んではいるんですけど──実質的に、愛子ちゃんの章です。この章は」
彩「好きすぎて」
水「好きすぎて。作者の職権乱用と言いますか。……創造主なんでね、神なんで、好きにさせてください。愛子ちゃん、読者的には人気は無いらしいけど、僕は大好きです。
愛子ちゃんが、もっとも言葉遊びをよくする女の子なんですけど」
彩「すごいですね」
水「わかりやすくはないんだよね。わかりやすくはない言葉遊びをよくするので、読んでいる人を置いてけぼりにしている節もあるかもしれない」
彩「気付けばすごい」
水「でも気付けないかもしれない」
彩「私もまだ気づけていないところ、たぶんいっぱいあります」
水「望月さんも言ってたもん。笑 本文中で『こいつは何を言っているんだ?』って最初はなってたけど、最後には『もしかしてめっちゃ色々な言葉遊びしてるぅ!?』って気付いた瞬間があるっていう」
彩「そうそう、ありますね」
水「挨拶のところ、初っ端の登場から変なことをいっぱい言ってますよね」
彩「言ってますねぇ」
水「153ページで『趣味は目配せ、特技はいち・にの・さん・しで語呂合わせ! 『言葉は刃』の合言葉でお馴染み──スーパーラブリーガール・愛子ちゃんの登場なのでアール・デコ!』と言いながら登場していまして。趣味は目配せって意味わからんだろ、みたいな感じなんですが、アイコンタクトのことなんで、愛子……とかね」
彩「あぁ」
水「合言葉って言葉にも、愛子って入ってますしね」
彩「本当だ」
水「この英語バージョンの台詞が後に出てくるんですけど、英語バージョンにも愛子って入ってて。合言葉に対応する部分がアイコニック・ワードなんですよ」
彩「すごいなぁ、もう」
水「これもう、愛子ちゃんの渾身の挨拶なんだろうね。たぶん愛子ちゃん、夜な夜なベッドで考えてる、自分の登場シーンのフレーズを、日本語版と英語版で。それをここぞという時に使ってるに違いない」
彩「そう思うと愛しいですね」
水「そう」
彩「『な、何だこいつ』って言われてますね」
水「そりゃ言われるでしょ」
彩「間違いない」
水「それから、154ページの『よろしくHomesick!』って言う台詞も、単純だけどなかなか深くて」
彩「ほうほう」
水「後に続く『素数だから孤独ってことだよー』って返答が、後に素数の話をすることへの伏線になっていたりだとか。Homesickってそもそも孤独ってニュアンスの言葉なんですけど、よろしくの後に言っているので4649をHomesickとも読めるよねって話をしていたりだとか。素数だからっていうのは、4649そのものが素数だからって話でもあったりだとか。色々とここはかかっている。でも、これら全ての前提をすっ飛ばして、ほとんど説明せずにばしゃばしゃと喋ってくるのが桃谷さんというキャラなので……」
彩「そうですね」
水「桃谷さんのそういうところが好きすぎて、今回5年越しに加筆した部分のだいたいは愛子ちゃんの台詞で。たとえば155ページの『優秀なキャビンアテンダントみたいに的確なレスポンスに謝謝!』とかは新しく追加しました。これはシエシエがCACAってことなんですけど。
それから、156ページの『襷が怯えるくらいに長いよ』。帯に短し襷に長しの帯と怯えるがかかっていて、帯よりも長い襷、よりもさらに長いってことを表現しています。
162ページ『メーメーはストレイトなシープの特権だよ』も新規追加ですね。文脈が無いとわからないのですが、鳴き声のメーメーは命名とかかっていて、迷える子羊は真っすぐな子羊と言い換えられています。何が真っすぐなのかは本文をご参照ください」

第三部 (英会話部)

水「続いて第三部ですね。こちらは打って変わって、ありがちな『英会話部』になりました。英会話部はメンバーが少ないんですよね」
彩「2人」
水「本当は3人いるんだけれど、諸般の事情により出てきません。
──英会話部と言いつつ、英会話部に行くまでの流れで、日本語の小説の校正チェックを読者がさせられるという謎コーナーがあります。」
彩「そうだ、そうでした」
水「後半で英語の話がずっと続くので。本文中に英語がばんばん出てくるので。日本語が恋しくなるかなと思って、一回、日本語に触れる時間を入れています」
彩「そういう理由だったんですか。笑」
水「まあ、それだけではないんですけど」
彩「まあ、それはそう」
水「外国語を学んで母語の良さを知るという話もありますので、対比という意味でも、日本語に向き合う機会を設けています。
作中作のこの小説も、第一部と一緒で金指くんの作品なんですけど、タイトルが良いんだよなぁ……」
彩「なんでしたっけ?」
水「182ページ。『ダンディータンテイ・大隈太陽』」
彩「はっはっはっはっは」
水「これ、めちゃくちゃ良いんだよなぁ。字面がね」
彩「字面ね、良いですね」
水「大隈太陽も良いよなぁ、大隈太陽。大隈太陽めちゃくちゃ良い。これも是非、誰か続編をお願いします」
彩「さっきと同じように」
水「白いリノリウムの床に銀色の小さな針が落ちていて、それを元にトリックが氷解するような感じでお願いします」
彩「むず。笑 要望多い」
水「英会話部の名前がSECって言うんですけど。187ページ」
彩「うんうん」
水「『通称、セック』『端午の?』『むしろ、単語の?』っていうこの流れ、好きです。このSECが何の頭文字であるのかっていうのは本文中でちょっとした謎になっていて──大した謎ではないんですけど──訳語っていうのにテーマを当てて書いていますね。
この章の言語遊戯の特徴は何といっても、日本語と英語を跨いだボケ。何て言ったらいいかな……。穴をホール、みたいな」
彩「ははははは。すご。ぱっと出てくるのすごいな」
水「っていうような言葉遊びを、意識的にやっています。
たとえば222ページ。『不一致? Which? どっち?』『俺はどうすれば良かった? ──Doすれば良かった?』『応答無しなんだな。応答nothingなんだな』辺りですね。あるいはその直後の『お前の言い分がなきゃ、この話もEVEN』ってところ」
彩「ここ良いですよね。ここけっこう好きですね」
水「こういうのはこの章でしかできないことなので。僕は日米言語交流って呼んでいるんですけど」
彩「すごいそれっぽい。笑」
水「日米言語交流はこういう設定の下でしかできないので、自分が執筆中の段階でできるありとあらゆる日米言語交流をここで行っています」
彩「交流しまくってる」
水「そう。後は、前の章──第二部の章が日本をテーマにしていて、この章はそれとの対比の側面もあるんですけど、第二部の末尾のくだりと第三部のくだりが対応関係にあります。142ページと238ページ。これも言語と章を跨いだ形での日米言語交流の一つです」

第四部 (吹奏楽部)

水「続いて第四部。吹奏楽部ですね。ある意味、この章が一番クレイジーかもしれん」
彩「これはすごいですよ」
水「ここは彩田さんが良いイラストを挙げてくれたので。笑」
彩「一番頑張りました」
水「こんな学生いていいのかっていう」
彩「完全にチンピラ」
水「このチンピラを御してる部長、ヤバくない?」
彩「ようこんなん従えてますね」
水「怖いでしょ。この暴れ馬と虎を従えてるのさ」
彩「猛獣使いだ。見た目そんな強くなさそうなのに」
水「全然吹奏楽部っぽくないというか、読んでいて吹奏楽部であることを忘れちゃうんだよね。そんなことがどうでもよくなってしまうような。
ただもちろん、吹奏楽部だからこそできることっていうのも含まれていて、これは実験小説的な取り組みなんですけど、288ページから293ページの6ページに渡って歌の歌詞を載せるという謎の取り組みをしています。
ここでは演奏が行われるっていう場面なんですけれども」
彩「いやでもけっこう良いですよねこれ、歌詞も良いですよねこれ」
水「確かに歌詞は韻をたくさん踏んでいるので読んでいて楽しいかもしれないですよね。
歌ごとに作詞者の名前も併記されているんですけど、キャラごとにこういう作詞しそうだなっていう内容になっていて」
彩「めっちゃ思います」
水「キャラソンかもしれない、もしかしたら。笑」
彩「確かに。笑」
水「──余談。288ページのSET LISTのところなんですけど、ちょっとした小ボケが挟まれていて」
彩「ほう」
水「『SET LIST for SUNSET LISTENER』ってあるんですけど」
彩「はい」
水「SUNSETのSETとLISTENERのLISTでSET LISTになってるっていう」
彩「はぁ~。全然知らんかった、ほんまや、すご」
水「こんなん誰も気づかんよ」
彩「色々散りばめられているんですね、こういうのが」
水「この章はラッパーが終始ラップしてるだけなので本質を見失いがちなんですけど、なかなか物語全体としてもシビアな章ではあって」
彩「意外とね。笑」
水「核心とまでは言わないまでも、謎が提示される章ではある。物語の構造を示唆する重要なヒントが隠されていて、ラップにばかり注目していたら後でとんでもないどんでん返しを食らうかもしれません」
彩「竹山のキャラが濃すぎてそっちに気を取られちゃう」
水「竹山は生まれた時から全ての台詞で韻踏んでるらしいです」
彩「異常者やんマジで。笑」
水「保育園に入る前から韻を踏んでたらしいです。笑」
彩「韻踏みデビュー早っ。笑」
水「そういえば全然関係無いんだけど、この間Youtubeで爺と爺が病室でラップするっていうアニメの動画があって」
彩「なんやそれ」
水「それがめちゃくちゃそれが面白くて。『40年後の竹山だ!』って思って」
彩「ほんまや! 将来やってるかもしれない、病室で」
水「それか耄碌して韻が踏めなくなってしまってすごい無口になるか」
彩「なんかありそう」
水「自分の中でポリシーがあるから。韻踏めない言葉は喋れないっていう」
彩「それはある」
水「梅田さんと松原さんが病室に来てやいのやいの言って帰るんだけど、竹山は踏める韻が無くてずっと黙ってるっていう」
彩「なんか寂しくなってきましたね」
水「寂しいなぁ」
彩「あんな煩かったのに」

第五部 (オカルト部)

水「続きまして第五部ですね。オカルト部なんですけど、サブタイトルが『カルト的オカルト愛』ということで……。まあ、そういうことです。笑」
彩「お察し。笑」
水「お察しください。未読の方には楽しみにしておいてほしいので詳しくは言わないんですけど、そういうことです。
もちろんこの章にも言葉遊びはたくさんあって、でも他の章とはかなり毛色が違うというか、学術チックな話が多いですよね」
彩「確かに」
水「あんまりこういうのを読んでいて楽しい人は少ないかなと思って、でも一応、自分の中で書きたいのはこういうものなので……」
彩「ほうほうほう」
水「自分は好きなんだけど読む人はしんどいかなと思ったので、わざと最後の章にしています。
しかもここは本筋に関わってこないので最悪は無くても良いような章なんですけど、どうしても入れたくて」
彩「良いですけどね、面白いけどな」
水「330ページ。『黒衣アンド刻印』『白衣アンド博識』って良い言葉だよなって」
彩「韻踏んでる」
水「『清潔、誠実、正義の象徴』である白の話をしてるね」
彩「してますね。笑 個人的にこの章の最後の展開で、めっちゃ笑ったんですけど」
水「最後は度肝を抜きたくて。えへへ。
最後の方で出てくる問題児いるじゃないですか。親一郎くん。なかなか、なかなかなんですよねぇ」
彩「なかなかなんですよねぇ。だいぶ濃いな」
水「第一部の部長もそうなんですけど、この……こやつもなかなかよのう」
彩「なかなかよのう。笑」
水「まあでも、ここまで読み進められたあなたなら、耐えられる。笑 カルチャーショック死は防げる」
彩「いきなりここから読んでしまったらカルチャーショック死しちゃいますね」
水「これを第一部に持ってきて死人が出てたら嫌でしたね」

エピローグと総括

水「最後の、食後酒としての章」
彩「Digestif」
水「この章は『退廃する青春』というタイトルが付いているだけあって、本編を締めくくるにふさわしいオチとなっております」
彩「個人的には衝撃のオチ。笑」
水「まあまあ。ハードルは上げんでほしいが。
ここまで意図的に伏線を少しも回収せずにいておいて、最後の章で急に色々わかりだすという構造をしているんですが──まあ、フェアではないんですけどね。ミステリだったらこんなことをしてはいけないんだけど」
彩「あー、なるほど」
水「別にそういうジャンルの小説でもないので、最後に一気に氷解した方が面白いかなと思って。あとは、読み通してくれた人へのご褒美っていう意味も多少はある。
この章は内容メインで書いたのであまり言葉遊びとかは無いんですけど、その分、驚いてくれるところは多いかなと思っていて」
彩「そうですね」
水「是非、順番に読んでいってもらって、ここまで辿り着いてほしいなと」
彩「順番に読むの大事ですね」
水「意味がわからないんでね、この章だけ読んでも。
──449ページの最後の二行、めちゃくちゃ馬鹿だよね。中身は言えないんですけど」
彩「出たー!」
水「ここは内輪ですごい盛り上がったんですけど、すごい馬鹿なんだよな。唐突なお笑いっていうか」
彩「急にどうしたっていう」
水「これ面白いんだよな。加筆・修正の段階でさすがに消そうかなという話が出たんですけど……面白かったので残しました」
彩「これは絶対、残した方が良いですよ。あった方が良いと思います」
水「あった方が良いは言い過ぎよ。笑
是非この、なんとも言えぬ読後感を一人でも多くの人に味わっていただけたらと思います。また、読み終えた方を対象としたアンケートを用意していますので、お手数ですがお答えいただけると幸いです。
既に何件か回答が来ていて、すごく励みになる言葉がいっぱい書かれていました」
彩「嬉しいですね」
水「創作意欲が上がるよね」
彩「上がりますね」
水「今はもう次回作に向けて動き出しているので、こういう応援はありがたいです。次回はね、これとはまた違ったものがね……」
彩「全然違う」
水「この本が好きだったっていう人は──来ないでください。笑 欲しいものは手に入らないです」
彩「そんな。笑」
水「逆に今回、この本は興味無いかなって思った人は、そもそもこの本を読んでないんですけど……文学フリマ大阪へ来てください。ECサイトでも販売しています。是非興味があれば見てみてください」
彩「お願いします」

座談会実施日:2022/12/17
参加者:水述 諦 (【文売班 白黒斑】文章担当)
    彩田チエ (【文売班 白黒斑】イラスト担当)