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夢になるといけねぇ

学生時代の劇団の先輩に文楽のカメラマンが居た。
最もお世話になった先輩の一人だ。
でも当時特に伝統芸能に詳しかったとか好きだったとかいうことはなかったので驚いた。
学生時代ぶりに「Momo、歌舞伎とか落語とか好きやん? 大衆演劇とか。実は私今ね……」とか連絡が来て、会ったり、話を聞いたり、頻繁にお茶したりしていた。
「おじさんたちの撮るの、なんか違う気がするねん。お洒落に撮りたいねん」
ということで公演中の楽屋にも同行したりしたが、わたしはド緊張。
お会いしたうち、お一人はもう亡くなられたが80を越える人間国宝で、
人形を持たせてくれてニコニコと話してくれたもうお一人も続いて人間国宝となられた。今思うと、なんかすごい。
彼女は持ち前の愛嬌とガッツで、可愛がってもらっていて、
その日は梅川忠兵衛の梅川だの、摂州合邦辻の玉手御前だの、撮った写真を見てもらうのだと、大写しにしたものを持参し、楽屋に広げた。
師匠は一瞬くらいしか見なかった。
ちらっとだけ見て、言った。「ちゃんと撮りいな」
「梅川がかわいそうや。はい。また次また持ってき」
人形よりも、雪、背景、角度。自意識。キリトリセカイ。ファインダー越しの私の世界。
対象物を真正面からの写真じゃない。余白の多いものだった。
 
寄席を中心とした写真家である橘蓮二の写真を知ったのは
4年前に本屋で見かけたpen+が最初だったと思う。
はっとして立ち止まり、すぐに購入を決めた。純粋に、いいな、と思った。
写真もいいなと思ったが、文章も、いいな、と、素直に思った。

その後、忘れていたのだが、
少し前に、古書店にて2013年にちくま文庫から出された『カメラを持った前座さん』という1冊を何気なく手にした。

さらに先月、また同じ古書店にて2016年に河出書房新社から出された『夢になるといけねぇ』を見つけて、これが、これも、よかった。
3冊どれもよかったけれど、これが、とても、
なんだか気持ちが伝わってくるような気がしたのだ。
 
落語や演芸が輝く日が、もう「夢になるといけねぇ」。
 
写真というものは誰にでも撮れる。文というものも誰にでも書ける。
だからこそSNSが身近を通り越して当たり前となった今は
プロとそうでないものの境目がぼんやりしたり、させられたり、思われたり、ナメ……失敬、勘違いされたりも、すくなくない。わたしはそれに「うーん」となったり、なったりも、する、嫌だ嫌いだ。そして、だから、だから、そして、考える。
 
距離感と、リスペクトと、自意識のこと。
 
言葉にしてしまうと単純で、
当たり前ですらある大切なことだが、
一番ほんとうに難しいことではないか、って。
 
〝距離感〟
踏み込むこと、離すこと、離れること、
人、時、場合、同じ人への場合でもその日その時で変わるものだし変わらぬものもあるし、いい塩梅は難しい。
もしかしたら人間や対人関係において最も難しく、永遠のテーマかつ問題なのかもしれない。
 
〝リスペクト〟
「好き」なら、好きという感情の中にはきっとぜったいにあるものだろう。
でもそのリスペクトの気持ちよりも自意識が上回ったりはしていないか。
自分の中で&業界や相手を考えたときのそのバランスはどうか。
 
プロとは。プロの仕事とは。
 
この人の写真や、演者をみて自身の切り口で書かれる文は、
自意識よりもリスペクト、そして、尊敬からのいい距離感を感じる。
自意識とぎりぎりの、それ。ぎりぎりで、でも、主張せず、しずかな、それ。
写真にも文にもあらわれているように滲んでいるようにわたしには見える。例えば余白も含めて。
 
余白に罪はない。
が、余白がものやひとよりも雄弁に語ることは、ある。
いいときも、わるいときも。
対象物を引き立てるときもあれば、
対象物を越えて無駄に主張しすぎるときもある。
対象物そのものや、本質をとらえること。
まず大事なのはきっと(いつも絶対ではないかもしれないけれど)そこでそれで、その上で、「自分」は出る、出すじゃない、出る、出てしまうものだとわたしは思う。
切り口と余白はたぶん違う。似ているようで、たぶん、違うのではないか。勿論、余白とは、喩えとしての意である。余白も、逆に、無もね。
 
演者や対象物に対して、自分の表現に対しての、自意識とか想いや気持ちも、あるだろう。自意識も矜持もある。
あるけれど、あるからこそ。
甘えず、勘違いせず、リスペクトと、距離感と、自意識による〝勘違い〟をしないよう、対象物より自意識がまさりすぎることがないよう。
それらはとても難しくてもしかしたら無理に近いことなのかもしれないけれど、だからこそ。
失敗しながら、もがきながら、学びながら、甘んじることなく、媚びることも甘えることもなく、そんなことを考える。
 
「大事なことは目に見えない」

「写真を撮るために高座があるわけじゃない」
 
寄席。高座(舞台)の上に、自分ひとりというその世界は、改めて考えるとすごいことだ凄まじいことだ。
ひとりで、大勢の御見物に、物語をみせる。
数分間、自分の持ち時間の間プロとして非日常や楽しみや興奮を自分の体と自分の芸で伝える渡す覚悟と緊張、それぞれの矜持。
熱や熱狂と共に、果てしなく途方もないほどに孤独な作業でもあるだろう。
芸で食っていくということ、その果てしなく途方もないゴールもない凄味と孤独と業のようなもの。
おまえはその業と孤独に向き合えているか。
利用していないか。リスペクトはあるか。距離感はどうか。
寄席には、劇場には、何がある。何がいる。受け取れているか。
みたいものをみたいようにみるんじゃなくて、みたいようにだけみるんじゃなくて、ちゃんと受け取れているか、受け取ろうとしているか。
目の前の人が表現し伝えようとしているそれを。
おまえの目は、みえているか。過信してないか。くもっていないか。くもっていることにすら気付けていないか。酔っていないか。邪魔していないか。いつだって主権は(まずは、第一には)舞台と舞台上にある。目の前の相手に伝えるべきことをもがきながらも伝えようとしているか。もがいているか。そうして、皆が、皆で、ひたむきに、生きているか。
 
橘蓮二の撮る写真や書く文からは、それが、
橘蓮二の写した高座(舞台)の芸人たちからは、それが、そんなことすら、感じさせられるような、つきつけられているようにすら、感じられもして。
演者たちとそれを切りとったそのひとの想いが
静かにも滲み、語りかけられているような気がする。
 
冒頭で書いた先輩はその後めげずに撮り続けた。
今は結婚などを機にやめてしまったのだけれど、
文楽に出てくる登場人物たちがどんどん好きになり、
イヤホンガイドの姐さんを含めて、3人で何度か開催した「古典芸能を語りまくる女子会」はめっちゃ楽しかった。
その後、何度か、真正面から「ちゃんと」撮った写真がベテランカメラマンらと並んで使われた文楽カレンダーをくれたりした。うれしかった。
 
芸も、表現も、果てしない、業が深い。深すぎて、途方もない、果てしない。

本書から、印象深い、ある芸人の言葉。
痺れた。
 
「グズグズ言ってないで、必死にやってりゃ、ちゃんと神様は殺してくれるよ」
 


というnoteを昨日から書いていてやっとアップしようとしたのだが、びゃーっとなったり、
でも、
なんだか昨日アップしたことや、虚実皮膜の間、みたいなこととも、
ちょっとかぶるような気もしたり、しなかったり。


つってたら、めちゃくちゃ昔(6年前)にも同じようなことを真面目に書いていました。
うん、日々精進、精進。
果てしなく、途方もないからこそ、やな、やろうなあ。がんばります。うわー。うおー。笑

◆◆◆
以下は、自己紹介 。よろしければお付き合い下さい。

構成作家/ライター/コラム・エッセイスト
中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。

詳しいプロフィールや経歴やご挨拶は以下のBlogのトップページから。
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めっちゃ、どうぞ。

lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
【Twitter】【Instagram】 など、各種フォローも、とてもうれしいです。

先日、ご縁あって素敵なWebマガジン「Stay Salty」Vol.33の巻頭、
「PEOPLE」にも載せていただきました。

5月1日から東京・湯島の本屋「出発点」で2箱古本屋もやっています。

参加した読書エッセイ集もお店と通販で取り扱い中。

旅と思索社様のWebマガジン「tabistory」では2種類の連載をしています。
酒場話「心はだか、ぴったんこ」(現在19話)と
大事な場所の話「Home」(現在、番外編を入れて4話)です。

noteは「ほぼ1日1エッセイ」、6つのマガジンにわけてまとめています。

旅芝居・大衆演劇関係では各種ライティング業をずっとやってきました。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、
役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。
担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
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こちらのバックナンバーも、さきほどの「出発点」さんに置いています。

あなたとご縁がありますように。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

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