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台所は劇場 『それでも食べて生きてゆく』

人はひとりとして同じひとは居ない。
生まれも生い立ちも考え方も性格もちがう。
だからこそ、さまざまな人と共にする、奇跡のような空間と時が愛しい。
そんなことを劇場体験(長く、と、特に近年の大事な)で深く思うようになり、
だから、それぞれの気持ちやライフストーリーにも更に想いを馳せることが増えた。
元々、興味があったのだとは思う。でも、たぶん、更に。
そんなこんなで、このnoteにも長渕三昧だの、のど自慢だの、〝街は劇場〟だのと出てくるし、書いている。
(勿論、これも思うところあってというかいろんな理由や繋げる理由がある、その思考整理や色々もある)
さいきん目にとまる本や読もう当たろうとしているような本もそのようなものが多い。

でも、まさか、「誰かの台所」を切り口に、
さまざまの人生を追う方と著作の存在をわたしは知らなかった。

 最新作は昨年11月に出されていて、ひょんなきっかけで知った。
今月、通りがかりの書店の棚で「あ!」、巡り合い、手に取った。
 
『それでも食べて生きてゆく 東京の台所』(大平一枝・毎日新聞出版)


応募された人々の台所と人生をみる著者の目に、
下世話な好奇心やサブカル的覗き見目線は、一切ない。
描く文章にも、だだ漏れの自意識や「映え」狙いでの切り取りが、一切、ない。
上から目線の論評や、〝審査員〟をして気持ちよくなること、「わたしの切り口、どや」感、ずっとこれを追っている自分を誇るような感情も、一切、見られない。

10年追われ、
この目線によるルポルタージュコラムを新聞連載を経て何冊も出されている著者の本作、ほんとうに、よかった。

ひとつずつ、1章ずつ、1人の人生ずつ、ゆっくり読んだ。
時にちょっと涙が出たり、
その1人1人から、考えさせられることもたくさんあって、
立ち止まり、大事に、読み終えた。
 
誰かの台所から持ち主(と、そのひとにかかわる家族やさまざまなひと)の想いと人生を、「聞き、書く」シリーズ。
あとがきによると、1冊目は「カタログ的」、2冊目はテーマ「愛」、
そして、3冊目となる本書のテーマは〝喪失と再生〟だ。
 
読み始めて、もう最初の章から、感嘆のためいきが出た。
「うわ、文章がめちゃくちゃいい、めちゃくちゃ巧い、素敵や」
この「巧い」は上から目線ではなく、惚れ惚れの、正直な、きもち。
これが10年か。
いや、年数は関係あるけど関係ないかもしれない。
いい距離で、でもつきはなさず、「介入」もして。
事実を描くだけじゃなく、御自身の感じたことも入れる。
その距離、バランス、まとめ方、書き方、選ぶ言葉、文、最後の落とし方、
すべてが絶妙すぎるほど巧いな、と、思った。
〝巧い〟、この言葉、この一言が一番しっくり来る気がしてならない。
巧さが沁みた。
 
と言いつつ、正直、読み始めは、いつものひねくれたわたしが居たのも事実だ。
「死ぬこと、病気、別れ、その他あれこれ、うーん」
以前、このノンフィクションを読んだ時にも、同じことを言い、考えていましたね。
でもね、読み進めるうちに、「喪失と再生」、
このテーマがこのテーマだからというか、
このテーマである理由がすごく腑に落ち、沁みてきた。
「喪失と再生の人生の物語の場所としての台所」
10年追ってこられた中で、このテーマとなるのは、自然の流れで、
ここに辿り着かれたのだ、と思った。
著者が「傍観者」ではなく、時に、いや、常に(よい距離感で)立ち入ってこられたからこそ。

そう、中には以前に取材した方の「今」を2度目3度目として訪れて、の話もある。
彼や彼女らの人生はその何年かで、変わっていて。
台所やその様子、つまり、生き方や環境やまわりの人も、変わっていて。
 
場所と、時と、人と、生きてきて、生きてきた、生きてゆくこと。
 
そして、10年という年月は、社会が(すこし)変わる期間でもある。
 
台所を通じての、そこで生活する人々を通しての社会や、今の世の中の問題点も、浮き上がってくる。
ひとりひとりの生活、それを「聞いて、書いた」ルポルタージュコラム・エッセイだから、じわりと、どこか遠くの問題ではなく、「そこにある」、他人事ではなく誰しもにとってのこととして。

台所。これまで「女性が立つところ」とされていた、そこの。そこから。

ああ、いい1冊、「ここから」の。 

何か月か前に、偶然、美容院で読んだ雑誌の書評欄で知った1冊だった。不思議なめぐりあわせで、さまざまの人生と、著者の想いに、出会え、ほんとうに、よかった。

あとがきに書かれた、著者の自問自答と、覚悟と矜持のような想いにも、姿勢を正された。

このあとがきを引用しようとしたけれど、
いえ、 作者が書いた、本書を象徴すると思った部分、
本書を、書く、書いてきて書いてゆく理由をはっきりと言葉にされている部分を引用させて下さい。

本作内のコラム「台所小論」から。
 
〝台所から時代を描きたい。
 心を病んでしまう人や働きすぎの人が多いこと、ジェンダー、
 なお平等になりきれていない火事や育児の分担、
 定年後の夫婦の行き違い、
 離れた親を介護する限界、未婚キャリア女性の孤独と不安……。
 抱える痛みがどこから来るのか。
 人間の弱さも含めて、読者に提起したいという気持ちがある。
 同時に、価値観やライフスタイルの変化による時代のわずかな前進も見落 
 とさないように。
 飽きずに愚直に市井の暮らしを手のひらですくい取ってみたい〟
 
ああ、台所も、いや、台所は、劇場なんだ。


◆◆◆
以下は、すこしだけ自己紹介 。
よろしければお付き合い下さい。
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構成作家/ライター/コラム・エッセイスト
中村桃子(桃花舞台)と申します。

大衆芸能、
旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

(普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、各種文章やキャッチコピーなど)

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

演劇鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)などの鑑賞と、学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)経験などを経て、
某劇団の音楽監督、亡き関西の喜劇作家、大阪を愛するエッセイストなどに師事したり。
からの大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。

舞台と本と、やはり劇場と人間と、あ、酒も愛し、人間をひたすら書いてきて、書いています。

lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。

その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中です。
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あ、5月1日から東京・湯島の本屋「出発点」で2箱古本屋も、やってます。

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関東の出版社・旅と思索社様のウェブマガジン「tabistory」様では2種類の連載中。

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大事な場所の話「Home」(現在、番外編を入れて4話)

旅芝居・大衆演劇関係では、
各種ライティング業をずっとやってきました。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。
担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、YouTubeちゃんねるで過去映像が公開中です。
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