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そのタイトルに 『教誨』

ひとりだと、ひとり。でもそれが群れや集団となると、別だ。
集団は、時にとてもこわい。
〝個人のはっきりした言葉や意見よりも集団としての和〟
〝集団の中で波風を立たせずに生きることが美徳〟
〝空気を読め〟
そうして集団で「YES」となったことは時に絶対的に間違ったことであっても「YES」となることがある。
そうさせられてきたり、そうすることそのことを疑いもしなかったり、
いや、そうしないと排除されたりするから黙ること。
そんな暴走や暴力や沈黙が他者の尊厳や命さえ直接的にも間接的にも奪いかねない。
この〝ムラ社会〟が沁みついた国においては、特に。
でも、それって?
 
という話を、先日、歴史上の事件などいろんな話と絡めて、その道のプロの方と、していた。
きっかけはとある映画。まだ観に行けていないのでタイトルは伏せる。
けれどきっと皆おわかりだろうあの話題作だ。
そこからの「っていうことは、コロナ禍を経た今、より考えさせられますよね」とおっしゃったことから、更に話は広がり、短い時間では足りないほどだった。

わたしの頭の中には読みかけのある小説も浮かんでいた。
あまりに興味深いエピソードが出すぎて、
話題にはあげられなかったのだが、ちょうど読んでいて、読み終えた1冊だ。
そんなことで帰り道、ちょっと震えた。より、考えさせられたりした。
 
『教誨』(柚月裕子)
 
自分の幼子と、近所の幼子、2人を殺した死刑囚。彼女は最期に言う。
 
「約束は守ったよ、褒めて」
 
誰に? なにを? 何故?

柚月裕子さんは、最近はもしかしたら「エンタメ作家」のイメージも大きいのかもしれない。
 
この春、天海祐希主演でドラマ化された『合理的にあり得ない〜探偵・上水流涼子の解明〜』。
(原作は出てすぐに読んだけれどドラマは観ていないので偉そうなことは言えない)
人気シリーズとしてパート2まで公開されたヤクザ映画『孤狼の血』。
(これも原作はすぐに読んだ、痺れた、でも第一弾の映画を観て「えー」&「まあ、でも、そうする(なる)わなあ、「現代の仁義なき戦い」、まあ、そうする(なる)わなあ」の気持ち)
検事・佐方貞人シリーズもずっと前に上川隆也主演でドラマシリーズ化されたんだっけ。
(これらは読んでいないし観てもいないのでさらに偉そうなことは言えなすぎる)
 
でも、わたしの中ではかなり骨太な社会派ミステリーの人で、
その作品を定期的に手にとりたくなり、読んでいる。
中でも、印象深いのは
『盤上の向日葵』(これもドラマ化されたらしいが観てない観たくない)と
『慈雨』。
どちらもかなり重厚かつ考えさせられる内容で全力で皆に薦めたい。
 
善とか悪(を思い込みなどから決めつけること)って?

正とか義(皆が言うところの)って?

思い込みや価値観に「なんで?」を突き付けてくる。
 
ページをめくらざるを、得ない。
目を背けたいようなことやものをつきつけられても、つきつけられるのに。
 
昨年11月に出された新刊(ということになるのかな)『教誨』も、
考えないといけないのに考えることから目をそらしたくて、でも、そらしてはいけない内容の1冊だった。

罪と、罰と。それを決める、それに至る、冒頭に書いたようなこと。
 
読み始め、読み進めるうちに、わかった。
このモデルは秋田で実際にあったあの事件。
そんなことはどうでもいい、よくない、けれど、どうでもいい、いいけど、よくない。
似てないけど似ていて、似ているけど似ていない作品として、
これもまたわたしの好きな作家である早見和真の『イノセント・デイズ』『八月の母』のことも思い出した。
そんなこともどうでもいい、よくない、けれど、どうでもいい、いいけど、よくない。
 
「約束は守ったよ、褒めて」
 
フィクションだけど、きっと、フィクションじゃない。
フィクションじゃないけど、フィクション。
 
さいきんの、いや、元々の癖か、うん、癖だ。
わたしは作者が「どういう気持ちでその作品を書いたか、気持ちを込めたか」を知りたい。
だから、読み終えたら、SNS上のインタビュー(や、読んだ人の感想)をなるだけ探して読むようにしている。
本作について、あるサイトで、著者が語った言葉にドキリとした。
 
「こういう事件では、私も含め多くの人が『分からない』と理解を放棄すると思います。
自分とは違う、と切り離すことで安心したいんです。
でも、香純が謎を追う過程を書きながら、本当にそうだろうかと思うようになりました。
少し運命がずれれば、誰にでも起こり得ることなのでは、と」
 
「一つの答に辿り着いたと思った先にまだ別の面があるのが人間。
『分かった』気になるのは、身勝手なことでもありますから。
私は作家として“事実と真実は違う”ということをテーマにしてきました。
その隙間にあるものを、これからも書いていくのだと思います」
 
文中の登場人物の台詞にも印象的なものがあったので引用したい。
 
「誰もが目に見えるものだけで決めつけて、その裏にある事情なんて考えもしない。目に見えないものにこそ、大事なことが詰まってるのにさ」
 
皆、しあわせになる、生きる権利があるし、そうなりたいだけ。

せやのに。せやけど。なぜ?
 
救いって? 真実って? 事実って?
 
読み終えて、タイトルを付けた作者の想いを、願いや祈りを感じて、ならなかった。

教誨。
 
わたしもまた、見、考え、見、を、していきたい。

ほんとうの意味で「皆で生きる」を考え、できるよう、考え続けたい。


omake
今回のとは関係ないけど、『孤狼の血』に併せて語った記事も。


◆◆◆
以下は、すこしだけ自己紹介 。
よろしければお付き合い下さい。

構成作家/ライター/コラム・エッセイスト
中村桃子(桃花舞台)と申します。
大衆芸能、
旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。

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