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金木犀(詩)

金木犀(詩)



私は偶然男に生まれ、偶然体格がよく、偶然声が野太いです。

偶然母性よりも父性を持つとされ、偶然家事よりも仕事をこなせと世間から言われ、偶然出産の苦しみを得ない性別に生まれました。

偶然性のなかで与えられたことをすべて放り出してしまいたくなることがあります。特に、偶然苦しみを与えられた人々を前にしていると。

詩を作るのが難しくなってきました。正解がわかりません。

唯(詩)



最近のボカロの曲を良く聴きますが、ボカロ流行り出しの頃と比べて歌詞の内容が移り代わってることに驚きます。直接的な言葉ではもはや語れない領域にまでボカロの音楽が踏み込んでいるのだなあと。

今まで書いてきた自分の詩、実のところあんまり好きじゃなくて。小説と比べるとそこまで詩という表現に確信を得て書けてるわけではなくて。
でも、歌詞のつもりで書くと、どこか好きになれるなあと最近思いました。

いつ

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水脈(詩)



母が父と別居を始めたとき、私は3歳だった。兄は6歳。阪神・淡路大震災の朝だったと聞いている。母方の祖父母の車に乗せられた私は、遠ざかっていく父の姿を泣きながら見つめていた。

先日、私の息子が4歳になった。私の父が見ることのなかった年齢の私。もちろん息子と私は違う。息子氏には父親のいない家庭があるなどということは想像もできないことだろう。それでも、ここまでそばにちゃんといられたというそのことだ

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階段(詩)



イメージはウンベルト・エーコ「ヌメロ・ゼロ」のある語りから。タルコフスキーの映画を思い出すとき、私は「希求」ということについて深く考えさせられます。「サクリファイス」で世界の救済を担うのは魔女ですが、主人公の男は正当な対価を払わなければいけないという意思に突き動かされ、最終的に家を燃やしてしまいます。私はあのシーンを見ると憧れに近いものを感じるのです。きっと私にはあそこまでの強さがないからなの

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縮図法(詩)

 おまえの目を覗き込んだとき
 虹彩と水晶体に滲んだ
 火花の煌めきにだけ興味があった

 弾けてふるえるいくつもの光が
 青白く閉じられたおまえのまぶたに隠されるとき
 あの知覚していたはずの空虚がひずみのように
 やわらかな口蓋の奥のほうからやって来る
  (オレンジジュースのにおいとともに)
 硬く、厳かな冷たさを持つそれは
 まるで無謬のように
 掬いあげた砂粒のひとつに投影された春の日の

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無題

かつて人々がみんな詩人だったあの頃に
わたしの祖母は産まれ育ち
宝石のようなことばを
その口の端からこぼす

彼女のことばは
常にわたしの意識を
鮮烈に苛む
極彩色の粒だった

(蜻蛉の羽のように綺麗な布
 骨のように白い百合
 夜の蜘蛛の仏性
 鬼の角
 供花
 柊)

手のひらを合わせるとき
かみさまなんて糞くらえだと云ってのけた
祖母の渋面を思い出す

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トンネル(詩)

 目に見えない力があることをおまえは知らない
 いつまでも トンネル状の遊具から出ようとせず
 肩口に振り向いて爆笑したおまえも
 トイザらスで買った ゴムボールが
 思わぬ軌道を描いて 芝の上を跳ねまわったことも

 私と私の妻とおまえの祖父母と
 おまえに重なり合う者どもは
 老いはじめている
 すぐにでも大声をあげて
 私たちは
 生きることから脱出したいきちがいのなかで
 それができず
 

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薄氷集(散文詩)

 薄氷のうちに閉じ込められた枯れ葉を、ネイルの先で葉脈のちぎれないように取り出す。叔母は短い言葉と白い息を吐き出し、街灯の明りにその小さな桜の葉を透かして見る。雪に覆われて機能を失った貸駐車場の上。ダウンジャケットを着た彼女は、葉を持つのと反対の手で、幼い甥の手を引いている。葉は、静かに指先で回転した。叔母は身をこごめると、冬枯れを閉じ込めたその葉に口づけ、そして少年に口吻する。それから甥は、ひと

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眠り(詩)

わたしはいま、あなたの隣に
沈黙のまま伏して
あなたの、ついばむ
詩の断片を聴いている

やすらかな吐息に
死に向かう眠りと
生への静かな待機が

どうかあなたに
わたしではない
だれかのことばが
降りかかればいい

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12/24生後半年になる子のそばに寝転がって、彼の穏やかな寝息を耳元で感じていると、私は父親でいられるのか不安になっ

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彗星(詩)

芯からこの部屋を満たしているのは
お前の頬に満ちた
やり直しのきかない
現代の無謬と

朝陽の瓔珞と
後れ毛
耳の中に生まれた、黒子
開けようのない
無の
内蔵

(南無妙法蓮華経
南無妙法蓮華経
南無妙法蓮華経)

お前ひとり彗星となり
俺はその下でcrawlする烏

(南無妙法蓮華経
南無妙法蓮華経
南無妙法蓮華経)

然り