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【今日のnote】「言語化を諦める人とは良い仕事ができない」というお話。


 どうも、狭井悠です。

 毎日更新のコラム、119日目。


 昨日、仕事をしながらtwitterを眺めていたら、ちょっと気になるツイートがあったので、零細フリーランスライターの観点で小話をしてみましょう。

 これこれ、これです。

 この文章は、デザイナーさんにデザインを依頼する、とあるディレクターから発信された依頼文の文面のようなのですが、ちょっと文字起こしをしてみましょう。


超かっこいいのを望んでるようです。
デザイン料、考案料が足りない場合はお支払しますが、
クライアント様が気に入るまでお付き合い願いたいです。
途中で辞めますと言われるとお金払ってる意味が無くなるので。
まとめますと、こだわりがかなり強い方です。


 みなさま、一読して、どうでしょう。

 控えめに言って、ヤバくないですか?


 フリーランスでクリエイティブの請負仕事をやったことがない人は、なぜ、どのように、この依頼文がヤバいのか、ピンとこない部分があるかもしれません。

 でも、同業種の人であれば、この依頼文が如何にヤバいかは、一読してわかると思います。これは、ちょっとひどいですよねえ。

 そして、この文章は、典型的なヤバい依頼の例文としては、非常に優秀です。いくつかのヤバい事柄が、総合的に内包されている文章だからです。

 それでは、なぜ、どのようにヤバいのかを、以下で1文ずつ分解して解説していきましょう。


①ヤバい依頼の例:クライアントの要件を一切、言語化できていない

 まずは、先ほどの文章の1行目から、由々しき問題が発生しています。

超かっこいいのを望んでるようです。 

「超かっこいい」って、具体的に何でしょうか?

 それは、たとえば、どのようなかっこよさなのでしょうか?

 こんなかっこよさに寄せていきたい、という事例はないのでしょうか?

 このように、この依頼主はクライアントが求める「超かっこいいデザイン」をまったく言語化できていません。

 本来、こうしたディレクションを行う人は、クライアントの意図を正確に言語化してクリエイターに伝えることが仕事です。

 模範であれば、クライアントが望む「超かっこいいデザイン」とは何かを箇条書きなどで首尾よくまとめたうえで、参考URLを複数添付し、視覚的にも認識のすり合わせができるようにして然るべきでしょう。

 この依頼主は、その仕事を完全に放棄しているように見えます。

 つまり、この一文を読むだけで、この人はまったく仕事ができない人だということがはっきりとわかります。

 あと、これは細かい話ですが、ビジネス文章のやりとりで一文目から「縮約形(望んでる→望んでいる)」を用いているのも、ちょっと気に入りません。

 縮約形は口語で用いるものであり、書き言葉ではないですよね。以前から仲の良い関係性があるならば、話は別ですが、これが初見の依頼文章だった場合、僕なら100パーセント不信感を覚えます。

・意図的に縮約形を用いている→初見で使ってくるならば、距離感のおかしい人

・意図せずに縮約形を用いている→自分が縮約形を用いているということに気づけない細部にこだわりが持てない人

 このように、どちらもアウトですね。


②ヤバい依頼の例:無限に修正が発生する可能性を示唆して、しかも承諾を得ようとしてくる

 次の文章も、かなり香ばしい臭いを放っています。

デザイン料、考案料が足りない場合はお支払しますが、
クライアント様が気に入るまでお付き合い願いたいです。

 これは、要するに「自分にクライアントの要望を通訳する能力がないから、何度も修正が発生すると思うんだけど、お金はまあ、余分に払う余地は持っておいてやるから、クライアントが納得するまで何回でも修正しろよ」ということです。

 そして、お金を支払うことを盾にして、この時点で、すでに「お金を払うほうが依頼を受ける側よりも偉いんだぞ」というマウンティングが始まっているのです。

 依頼主は、この2〜3行目で、自分が無能であることを棚に上げておいて、無限に修正が発生することを示唆したうえ、その事実を承諾しろと告げているわけです。ヤバいですよねえ。


③ヤバい依頼の例:自分に問題があることを理解せずに、とにかく「お金払っている」マウンティングをしてくる

 すでに3行を分析しただけでヤバいことが目白押しのすごい依頼文なのですが、ヤバさの棚卸しはまだまだ続きます。以下の文章を読んでください。

途中で辞めますと言われるとお金払ってる意味が無くなるので。

 まだ案件が始まっていないのに、まるでこれから先に「途中で辞めます」と告げることを予見しているかのような文章です。この依頼主は、預言者か何かなのでしょうか。非常にオカルティックな文面ですね。

 これはつまり、過去にすでに何人かのクリエイターが根を上げて、案件を途中で辞退していることを意味しています。

 しかも、依頼主はそれが自分のディレクションのいい加減さに起因していることを理解しておらず、「お金を払ってやったのにあいつらは辞めていった」と、過去に案件を途中で辞退したクリエイターたちを恨んでいます。

 なので、いきなり無粋な雰囲気のこんな文章を「お金を払っている」というマウンティングと共に送ってくるわけです。

 ヤバさマックス!!!この案件は非常に危険です。今すぐ逃げてください!!!というアラートがビンビンにおっ立っています。 


④ヤバい依頼の例:自分ではめちゃくちゃ仕事している気になっている

 この依頼主が如何にヤバいかということは、ここまでの4行の分析で、もう、業界の方以外にも十分に伝わったと思うのですが、ここでトドメの一撃がやってきます。以下を、よく読んでください。

まとめますと、こだわりがかなり強い方です。

 なんなん?

 まとめますと、と言いつつ、「こだわりがかなり強い方です」って。

 何一つ、まとまってないやん。サイコパスか。

 もはや、声も出ないほどに、恐ろしい文章ですねえ。

 クライアントの要望の言語化を完全に諦めた依頼文を送っておきながら、「まとめますと」という文言を恥ずかしげもなく使うということは、この依頼主は自分ではめちゃくちゃ仕事した気になっているということに他なりません。


 そのうちに、以下のような顛末になることは目に見えています。





 以上。

 この世の終わりのような依頼文を、零細フリーランスライターの観点で、ちょっと辛辣に読み解いてみました。なんだか偉そうにすみません。

 このnoteで最後にお伝えしておきたいことは、「言語化を諦める人とは良い仕事ができない」ということです。

 とはいえ、同時にお伝えしておきたいのは、案件のすべてを1から10まで正確に言語化できる必要はないということです。

 クリエイターは、ディレクターの方が言語化しきれない細部までを、クリエイターならではの観点で推察したうえで、パフォーマンスを出す能力が求められます。

 逆に、1から10まで説明されなければ全く理解ができないというのは、クリエイター側に問題があるかもしれません。1〜3くらいを聞いて、8〜10を返すことで、クリエイターは他のクリエイターとのパフォーマンスの差別化を狙うことだってできます。

 僕がここで言いたいのは、ディレクターとクリエイターは、言語化するための努力をお互いに諦めてはいけない、ということです。

 案件を言語化する気持ちを諦めたら、永遠に理想のアウトプットには到達できない。だから、言語化することを大切にする気持ちだけは、どうか捨てないでほしい、と思うわけです。


 少々、長くなってしまいましたが、いかがだったでしょうか。

 もしも、言語化を諦めている節があるという自覚をお持ちの方は、ぜひとも意識して、言葉の重要性を振り返ってみていただければ幸いです。

 僕自身も、言語化の能力を磨くために、今日もこうして、毎日更新のコラムを書いているところです。精進してまいりましょう。


 今日もこうして、無事に文章を書くことができて良かったです。

 明日もまた、この場所でお会いしましょう。

 それでは。ぽんぽんぽん。

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