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人生は、良質の長編小説であるべき理由

長く建築・不動産の世界に居ました。

一般庶民にとって家、土地は、手に入れる際には生涯で一番高価な買い物である場合が多いと思います。

それだけに、色んな人間ドラマが生まれることも少なくありません。

喜ぶ人にも触れますし、怒る人にも接します。

土地の入手から建物の竣工まで、数年に渡ることは珍しく無いので、

ドラマもトラブルも有る訳です。

預貯金や収入まで全部さらけ出す必要がありますから、隠し事が出来ませんし、

大きな金額が動く時は、人の本性が現れる場面が少なからずあります。

売り手と買い手は、相対する立ち位置で商談し、工事に入る頃には、同じ方向を向いて進み、トラブルが有ればまた相対する立ち位置に戻り、解決すればまた同じ方向を向き、

その付き合いを短くて一年、長いと数年続けるので、

隠し事が出来ない状況でもあり、

仲々外に出さない本音が出る場面もある訳です。

勿論、出来る限り間違い、行き違いが無い様に心掛けますが、不可避な問題も現れる場合があります。

たとえば、基礎工事に取り掛かったら、地中に障害物が現れたり、

遺跡が現れたこともありました。

天候の乱れで、工期が遅れることだってあります。

全部あげつらうことは出来ませんが、建物は工業製品とは違うので、

綿密に打ち合わせても、調査をしても、予め細かく説明をしても、避けられないトラブルはある、と思います。

そういった窮地に立った時、人の本質が問われる、と思うのです。


それは、売り手にも買い手にも当てはまると思うのですが、

その人が、自分という存在に安心感を持っているか否か、という事に尽きる、と思います。

自分に安心感が有る、ということは、自分の価値に疑問が無い、ということと同じ意味だと思います。

自分に価値が有る人は、自分の人生を大切に感じています。

だから人生を丁寧に扱います。

売り手側ならば、このくらいのミスは大丈夫だろう、という判断が少ないのです。

その小さなミスを認めることで、批判されたり、面倒くさいリカバリーが発生したとしても、

それを必要な対処と思うことが出来ます。

そして、重要なのは、その必要な対処をすること、もっと言うなら、トラブルの中に、喜びや、面白味を、その人は見つけ出しています。

窮地にすら、喜びや面白味を感じるのは、自分の人生に価値を感じているから、だと思うのです。

他人事じゃ無いし、無関心ではいられない、大切な自分の人生に起きたトラブルだから、解決する行動は面倒くさくても、

どこかに、自分の人生を守る喜びが有るのだと思います。


買い手側で言うと、売り手の担当営業任せにはなりません。

契約約款も意味を知ろうという目的を持って読み解きますし、疑問が有れば担当に質問しますし、自分で調べることをします。

これも、自分の人生を丁寧に扱っている現れだと思います。

約款の言い回しは難解で、調べることは手間ですし、細々と質問するのも面倒ですが、

自分の人生に何よりも興味があり、それを守る為の手間や面倒にも、喜びや面白味が生まれます。


自分に安心感が無く、自分の人生に雑な接し方になる人は、

売り手側だと、小さなミスを、大丈夫だろう、と判断し、細かな対処を怠ります。

自分の人生を大切にすることよりも、目の前の人から批難されることや、面倒なリカバリーの労力を避けます。

買い手側だと、約款にはまともに目を通さず、質問もせず、調べることも余りしません。

自分の人生が他人事の様に思えているので、手間と面倒が先に立ち、

担当営業任せになってしまいます。


自分に安心感があり、自分に価値を感じている人にとっては、

人生は大切な長編小説であり、その中に、第一章としての幼少期があり、

第二章としての幼稚園に通う時代があり、

第七章としてのマイホーム建築があります。

第一章から最終章まで連なっていて、ひとつのテーマが貫かれています。


自分に安心感が薄く、人生が他人事の様に思えてしまう人は、

人生が超短編小説なのです。

言葉は悪いですが、取り敢えず一冊の本に色々詰め込みました、といった感じで、

一貫性の無い、出来があまりよろしく無いオムニバス形式です。

大切なテーマが無いので、どうしても一話と二話がブツ切りです。

二話と三話も繋がりません。

結果として、極めて近視眼的にならざるを得ません。

人生全体に繋がりを見い出せないので、全体の仕上がりよりも、今目の前に居る人にどう思われるか、が気になります。

良き仕上がりにすることよりも、今の手間や面倒を回避することを求めます。


誰にとっても、本当は大切な自分の人生の筈なのです。

丁寧に生きられたらいいな、と思います。

大切なのは、自分という存在に対する安心感、
大事なのは、自分には価値があるという感覚です。

それが有れば、

人生は興味深く、愛すべき、

良質の長編小説になる筈なのです。


読んで頂いてありがとうございます。
感謝致します。


伴走者ノゾム







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