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【ショートショート】『真面目が肝心』

「毒蝮兄弟め!俺様のシマで好き勝手やりやがって!」

鬼瓦組の組長、鬼瓦三郎は、そう叫びながら、事務所のテーブルに拳を叩きつけた!
置かれていた、高級ワインが入ったグラスが倒れ、ゆっくりとテーブルを赤く染めていく。
子分のテルが、なだめる様に声をかける。
「親分!落ち着いて下さい..もう手は打ってますんで」        
「なにぃ!あの凶暴な、毒蝮兄弟を始末出来る奴がいるってのか?」
「はい、お任せください。もうすぐ、ここに来るはずですぜ」

「もう、来てるぜ」

声につられ、鬼瓦とテルが同時に顔を向けた先には、スーツ姿の男が分厚いペーパーバックを読みながら、事務所の隅の壁にもたれている。
「なんだ、てめえは!」
「い、いつの間に..親分!この男です!」
「なに~、普通のリーマンみてえじゃねえか!おい、テル!こんな奴が毒蝮兄弟をやれるってのか?」
男は、ペーパーバックに目を向けたまま鬼瓦に言い放った。
「中尾だ。報酬分の仕事はキッチリやるぜ!真面目が肝心だからな」
鬼瓦が中尾を睨みながら吐き捨てる。
「おい!ずいぶんキザな野郎だな!」
「親分、まあ、落ち着いてください。こんなナリでも腕は確からしいんで」
「そうかい!おい、テル!コイツがしくじったら、てめえもタダじゃすまねえぞ!」
「お、親分、そんな、殺生な..おい!中尾!てめえ、大丈夫なんだろうな?」

中尾は、ゆっくりと視線をペーパーバックからテルに向けて答えた。

「能書きはいいんだよ」

「くそっ、てめえ、しくじるんじゃねえぞ!」

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「てめえ...よくも四太郎を..」
廃墟と化したホテルの中で、中尾は胸に銃弾をうけ、拳銃を握ったまま気を失った様に倒れている..
近くには、中尾の弾丸を額に受けた毒蝮四太郎が横たわっている。
「ド頭、吹っ飛ばしてやる!」
四太郎の兄、三四郎は怒りに燃えた目で、横たわる中尾の側まで歩み寄り、頭に銃を向けた!

その瞬間!中尾はバッと目を開き、弾丸を三四郎の眉間に撃ち込んだ!

これが極悪非道な鬼二人、毒蝮兄弟、最後の瞬間だった...

中尾は、怒りの形相のまま息絶えた毒蝮三四郎を、冷めた眼で見つめながら起き上がり、上着の内ポケットに手を入れた。
そして、弾丸がメリ込んだペーパーバックを取り出し、語りかけた。

「お前のお陰で命拾いしたぜ...」

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「いや〰️、中尾さん、ご苦労様!よくぞ、あの毒蝮兄弟を始末してくれた!」
満面の笑みで迎える鬼瓦に、中尾は、少し疲れた表情で答えた。
「仕事はキッチリやるって言っただろう...真面目が肝心だからな」
「さあさあ、ここに座ってくれ」
鬼瓦は、満面の笑みを浮かべながら、テルに向かって言った。
「おい、テル!中尾さんに、一番高いワインをご用意しろ!」
「ちぇっ..判りましたよ」

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鬼瓦が上機嫌で、テルの用意したワインを中尾の前に置かれたグラスに注ぎながら語りかける。

「中尾さん!このワインは、俺のコレクションの中でも...」

突然、中尾がその鬼瓦の言葉を遮った!

「能書きはいい...飲めば分かる」

「てめえ、親分に、なんて口ききやがる!」
立ち上がろうとするテルを鬼瓦が手で抑える。
「おい、まあいいじゃねえか、テルよ。中尾さん、どうだ、この後、銀座で飲まねえか?キレイどころも揃えるぜ!」

中尾はワインを口の中で転がし、ゆっくりと味わってから答えた。

「悪いな...今日中に、図書館に本を返さないといけないもんでね」

「クッ...」
「そんな訳ねえだろうが!てめえ、親分にふざけた口ききやがって!」

そして、中尾はいきり立つテルに目をやりながらゆっくりと立ち上がり

「真面目が肝心だからな」

と、一言残し、鬼瓦とテルを横目に部屋を出て行った。

「クッ..」

「親分!」

「クッ..」

「親分をコケにしやがって!ただじゃ、すまねえぞ、あの野郎!」

「クッ..」

「親分!あの野郎、どうします?」

「クッ..クックックック、ガッハッハッハッ、図書館に本を返しにか!
こりゃあ傑作だぜ!ガッハッハッハッ 、気に入った!面白い野郎だぜ!」

「お、親分...」

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「ちょっと、何なのよ!これ、穴あいてるじゃないの!」

カウンターから図書館中に、美人司書、伊井野カナの叫び声が響き渡った。
全ての来館者が、カウンターの中尾とカナを見ている。
「すみません...今日、撃ち合いがありまして」

「何なのよ!撃ち合いって!」

「はい。毒蝮兄弟との一騎討ちです」

「何よ!毒蝮兄弟って!」

「はい。極悪非道な非人道的行為を行っていた凶悪な兄弟です。ワタクシは、その兄弟を始末する為に雇われたんです...でも、一瞬のスキを突かれて撃たれてしまったんですけど、丁度、うまい具合にこの本がワタクシの命を守ってくれて...」

「何、訳の分からない事言ってんのよ!仮に本当だったとしても、そんな所に本持って行かなきゃいいじゃないの!」

「いえ、今日が返却期限だったんで、仕方なかったんです..真面目が肝心なんで..」

「真面目な人が、そんな見え見えの噓つく訳ないでしょうが!」

「いえ。正真正銘、本当の話です」

「じゃあ、あなた、警察に出頭しなさいよ!」

「いや、それだと、まだ読んでない本の返却期間が過ぎてしまうんです..真面目が..」

「そういう問題じゃないでしょう!」

この時のカナは、後に、自分がこの男に仕事を依頼する事になるとは、これっぽっちも想像もしていなかった...

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「ガッハッハッハッ、これはシリーズ化の予感がするぜ!ガッハッハッハッ」

「お、親分...」

【完】

監督、脚本/ミックジャギー/出演、中尾役.中尾アキオ、鬼瓦組長役.九名信夫(極悪商会)、テル役.亀野興毅(極悪商会)、毒蝮三四郎役.ダミアン芳賀(極悪商会)、伊井野カナ役.町マチ子


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