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[書評] 空から降ってきた男 / 小倉孝保

本当に面白いノンフィクションを紹介する。

この本で紹介されるのは、黒人青年の恋と死にまつわる哀しい実話だ。

イギリス・ロンドンオリンピック閉会式の日に、ロンドン郊外の閑静な住宅街に、突然空から黒人が降ってきて墜落死する。

墜落死した黒人男性の名前はジョゼ・マタダ。
アフリカ・モザンビーク出身の26歳の男性で、アンゴラからロンドンに向かう飛行機の車輪格納庫に隠れて密航を企て、墜落死した。

なぜジョゼは無茶な密航を企ててまでヨーロッパに行こうとしたのか。
その生涯を追うことで、ヨーロッパとアフリカの経済格差やアフリカの汚職体質など、ヨーロッパへの難民・移民の流入が後を絶たない背景の一端を垣間見ることができる。

普段はルポルタージュやノンフィクションは読まない、という人ほど是非読んでみてほしい。
中途半端な解説書を読むよりもリアルに、グローバルで起きている事象や世界の歪みを感じることができるはずだ。

以下、特に印象に残った言葉を抜粋して紹介する。

「この村にいれば、収入は不安定で微々たるものだが、町に出れば月50ドルの手当てになる。それが南アフリカでは週50ドルになる。ロンドンに行けば50ドルは日給にもならないはず。同じ労働力を提供しても、モザンビークの町とロンドンでは、およそ30倍の格差がある——。」
「南部アフリカの人間はヨーロッパの豊かさを知っている。電気の届いていない村でさえ、衛星放送受信用のパラボラアンテナはあるんだ。そして、バッテリーで衛星テレビを観る。そのテレビを観ていると、多国籍企業のCMを通して、先進国の生活に触れることができる。その意味では、アフリカ人にとって欧州はすぐそこにある。そして、その欧州はいつも明るく輝いているんだ」
「アフリカの若者が欧州に渡る場合、その殆どが同じ理由だ。かなりの奥地であっても、今のアフリカ人は衛星テレビを楽しみ、携帯電話を使っている。物質的豊かさとはどんなものか知ってしまったんだ。テレビやインターネットの中には、こんな豊かで便利な世界があるのに、そのスイッチを切って、自分の周りを見れば、相変わらずの貧しい世界が広がっている。それに我慢ができなくなるんだ」
「白人女性が黒い肌をした自分に愛情を示してくれたとき、ジョゼはどう感じたかわかるかい?手の届くはずのない存在がどんどんと近づき、まさに目の前にあるんだ。冷静でいられるはずがない。そういう一種の狂乱状態で、ジョゼは生きていたはずだ」

この本に興味を持たれた方は、こちらの書評が素晴らしい完成度なので一読することをお薦めする。
http://kangaeruhito.jp/articles/-/1714


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