見出し画像

カメラを向けても気づかなかったあの子


家に着く直前の道の曲がり角。

その横に今はもう手入れされておらず草が伸び放題の畑がある。
道を曲がる瞬間、ふとその畑を見るとなつかしい記憶がよみがえる。

腰をかがめて作業をしていたおばあさん
丁寧に草取りをし、太陽の光をいっぱい浴びて成長する野菜たち。


もうあの景色は見られないのか、と思いながら畑をもう一度見ると、何か小さくて黒い影が見えた。


しっかり目をこらしてみるとそれは一匹の小さな黒猫だった。

こちらに背を向けて畑の中に座っている。



あっ



私は小さく声を上げ、黒猫のはかなく今にも消えてなくなりそうな小さな身体を写真におさめた。


かしゃっ


シャッター音がいつもより大きく鳴り響いた。
黒猫が逃げないうちに、ばれないように、と焦っていたからかもしれない。


私の心臓のスピードなんか知るわけもなく、黒猫はこちらに全く気が付かないままただそこに座り込んでいた。


少しだけ黒猫の後ろ姿を眺めてから、「だれかにごはん、もらえるといいね」と心の中で話しかけ、その場をそっと後にした。


人間同士の出会いや生活もこんなもんなのかもしれない。
誰かにとっての自分と、自分にとってのその人は同じ価値観であるとは限らない。
自分がだれかを思っていても、相手は自分の名前や顔すら知らない。



スポーツ選手、モデル、俳優


ファンにとって彼らはかけがえのない、たった一人の人間。人生を変えてくれた人かもしれない。
しかしスポーツ選手たちはファン一人一人を認識しているわけではない。


私が思うあなた
あなたが思う私


私と黒猫のように、時に片方は誰かの人生に登場し、もう片方は登場人物にすらならない。
それでもいつかどこかで誰かがふと自分のことをなつかしんだり、思い出してくれたりぽんっと連絡をしたくなるような、そういう人になりたい。


頂いたお礼は知識と経験を得て世界を知るために使わせていただきます。