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友と呼ばれた冬~第15話
カーテンを開けると外は薄暗かった。目覚ましで起きたはずなのに一瞬今が何時なのか分からなかった。タバコを吸い熱い珈琲を腹の中へ流しこむとようやく体と頭が機能し始めた。
一晩中充電をしておいたノートパソコンの電源は今朝になっても入らなかった。新品で購入したコードが原因だとは考えにくく、かといってパソコンを修理できるほどのスキルは持ち合わせていなかった。
そもそも何故このパソコンに電源コードが繋
友と呼ばれた冬~第14話
梅島との電話を終えタバコに火をつけて肺深く吸い込むと、寝不足からなのか眩暈を感じ、ソファーに横たわった。
このまま眠ってしまいたかった。余計なことに首を突っ込んだ自分を罵りたい気分だった。
ふと千尋の顔が思い浮かび俺は偽善者なのか?と声を出して尋ねてみた。千尋が答える代わりに、何もないモノクロームのアパートに母親と千尋の写真だけが色彩を帯びて浮かび上がった。
吐き出した煙が霧散した思考と
友と呼ばれた冬~第13話
もし故意にSDカードの記録が消されていたのなら、大野の失踪時の記録を消したかった以外の理由は無いように思えた。
「走行記録は残っていましたか?」
「そっちはあった。簡単に書き換えられるものでもないからな」
確かに、走行記録を消すとなるとSDカードの抜き差しのようにはいかない。
「実はな、大野の走行記録を見てみたんだがどうもおかしいんだ」
梅島の声のトーンが落ちた。
「大野は芝浦ふ頭
5/9 This morning's music~はじまりはいつも雨
おはようございます。木曜日。
今日はまた気温が下がってどんより。
このまま梅雨に入っちゃったりしないよなぁなんて心配になります。
梅雨はまだいいけど、すっかり猛暑を億劫に思うようになってきた。
夏だけ東京離れたい。
今朝の一曲は、
はじまりはいつも雨、とみさんと言う方が歌うバージョン。
この方、私はもうかなり昔からYouTubeで見ているのですが、ASKAのモノマネをする方はたくさんいますけ
友と呼ばれた冬~第12話
電話は梅島からだった。今日はアルコールに縁がない。
「もしもし」
「真山か?梅島だ。面倒なことになったぞ」
梅島の言葉に背中が強ばる。
「なにがあったんですか?」
「大野の車の記録なんだが。無いんだ、何も」
「無いって……。どういうことですか?」
梅島の言うことが理解できず、思わず声が荒くなる。
「車内カメラにSDカードは入っていたんだが記録が全て消えているんだよ。俺にもどういうこ
友と呼ばれた冬~第11話
「西口まで」
俺と同じ年くらいの運転手は返事もしなかったが、文句を言う気力もなかった。新宿駅西口の家電量販店に行き、大野のノートパソコンに合う電源コードを買った俺は朝から何も食べていないことに気づいた。普段持ち歩くことの無いノートパソコンの重さがきつくなってきた。
甲州街道沿いのハンバーガーショップに入ると、店内では新宿らしい雑多な言語が飛び交っていた。カウンターに座り薄い珈琲で味気ないハ
友と呼ばれた冬~第10話
「梅島さん、大野は芝浦辺りでも営業していたんですか?」
俺は大野の車が芝浦ふ頭に放置されていたことが気になっていた。
「いや。あいつはいくら注意しても新宿で仕事をしていた。銀座まで客を乗せて行ってもまっすぐ新宿に戻ってきていた。誰かさんみたいにな」
最後の一言は余計だったが、俺は軽く流した。
「大野は芝浦ふ頭で何をしていたんでしょう?」
「それは、あれだ。芝浦ふ頭まで客を乗せたのかもし
友と呼ばれた冬~第9話
第二章 真山、調査開始
午後になると雪はもうすっかり止み電車も通常運転に戻っていた。西早稲田で電車を降りて、歩道に残った雪を踏みしめながら諏訪通りへと歩いていった。新宿営業所は明治通りから早稲田の方に少し入った場所にある。乗務中に何度も前を通っていたので迷うことなく着いた。他の営業所に比べると車の保有台数も少なく、こじんまりとしていて整備工場もない。車庫の奥に一台止まっている以外には車両は見当
友と呼ばれた冬~第8話
阿佐ヶ谷辺りで千尋が後ろで動く気配があった。
「起きたか?」
「すいません、わたし、いつの間に」
「疲れたんだろう。無理もない」
千尋から詳しい場所を聞き、他の車の流れに乗って目立たないように走り続けた。
千尋と祖母が住む家は天沼陸橋の手前を東に入って行った邸宅街の一画にあった。「肥後」と表札の出ている立派な門構えの家の前で
「ここです」
と千尋の声が車を止めた。大野のアパートと
友と呼ばれた冬~第7話
コンビニのイートインスペースに座る千尋の姿が確認できると肩の力が抜けた。店内のここから見える範囲では、レジで精算をしているホスト風の男が一人居るだけだ。
制服の胸から名札を外してポケットに入れコンビニに近づいていくと、千尋が俺に気づき席を立って自動ドアへと向かった。ホスト風の男は一瞬目を向けたが、子どもには興味ないと言った目付きですぐに視線を反らした。
店の外に設置された灰皿に近づき自然に
友と呼ばれた冬~第6話
玄関を出ると雪は変わらず降り続いていて、外廊下の手すりに3cmほど積もっていた。パーカーの上に黒色の薄手のダウンジャケットを羽織った千尋が先に降りていく。からだの大きさには不釣り合いなリュックが不格好に左右に揺れ、リュックに縫い付けられているペンギンのマークが踊っているように見える。俺は後につきながら気になる路地の方を見たがここからでは何も見えなかった。
「税務署通りのコンビニでなにか温かい飲