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離別

不倫や浮気は決してお勧めしない。

それは、私が幾度となく繰り返した常習犯だからである。

9年続いた同棲生活の中で、仕事も含めると数え切れないほどのセックスをした。

対価を得るため
憂さを晴らすため
流れにのっただけ
言い訳の数も数多。

相手がどれだけの人柄でも
入る場所と入れられるものは変わらない。
些か躰が湿るだけの、極めて退屈な時間なのである。

強いて言えば
“悦んでいただければ結構”

小瓶に入った変な液体を呑まされた事もあれば
2時間ひたすら足の指を舐めさせられた事もある。

ある時は酔って私に暴言を吐き、乱暴に抱いた男のスーツを綺麗に掛け
シャツと下着を畳み、お水と気の利いた置き手紙をしてホテルを出た。

男の酔いが醒め、少しずつ記憶を辿った後
私の盛った媚薬は爆発的に効きだす。

再三の謝罪とお誘いを無視し続け、私の軽い報復は終わる。

何が愛で、何が罪かも解らなくなっていた。

こんな私だが、一途に想った事もある。
長らくの同棲が終わると、妻のある男性とお付き合いをした。
始まりに
『キミの望むものを与えられない。それでもいいか』
と釘を刺された。

意とすることは解る。
それでも涙する日があり、悶える事もあった。

どれぼと熱い四肢が絡み合っていようと、彼の携帯が鳴ると私は暫く部屋を出る。
夜が更けると引き止めず帰宅を促し、私からは一切連絡をしなかった。

それは、私が聞き分けの良い女だからではない。
彼に、彼の心に私を選んではしかったからだ。

騒いで泣き喚けばもっと傍に居てくれたかも知れない。
でもそれでは意味がない。
愛故に選んでもらえたとは到底言えないのだ。

数年が経ち別れを切り出した。
愛してはいたが、気付いたのだ。

歪なりに、夫婦の歯車は微かに噛み合い回り続けているのだ、と。

水を射しても錆び付かない強靭な歯車に、入る隙はない。

立つ鳥跡を濁さず。
静かに去りたかった。

最後に笑顔で席をたった私に思いがけぬ一言だった。
『外に好きな女性がいると話した』

彼は泣いて喜ぶ私の顔を想像しただろうか。
私が黙ったのは嬉しさからではない。

客の居るバーの店内で湧き上がる怒りを
必死で押さえ込んでいたのだ。

男らしさと礼節を重んじてきたでしょう?

唯一のワガママを許してくれるならば、最後まで貫き通してほしかった。
「アナタの望むものを与えられない。それだけ」

もう精一杯。

立ちはだかる大阪駅を目の前に、泣きながら横断歩道を渡った。

すべてが雑踏にかき消されることを願いながら。



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