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文藝春秋

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『男ともだち』(千早茜 文藝春秋)

『男ともだち』(千早茜 文藝春秋)

始まりもせず、終わりもしない男女の関係が、これほど覚悟を必要とするなんて思わなかった。
ギリギリの緊張感で近づいていく距離を淡々と抑えた文章が描き出していく。
皮膚一枚下をざらりと撫でられたような官能。もう完全に千早茜にやられた。

単行本発売時応援ペーパー用コメント
『男ともだち』(千早茜 文藝春秋)

『ふれられるよ今は、君のことを』(橋本紡 文藝春秋)

『ふれられるよ今は、君のことを』(橋本紡 文藝春秋)

まずは橋本紡さんの『ふれられるよ今は、君のことを』。

淡々と毎日を過ごしてきた中学教師が、不思議な運命にある恋人と出会い、自分の殻を脱ぎ捨てていく物語だ。

作中に出てくる古今和歌集の一首が耳に残る。

自分を守る壁の扉を開いた存在への焦がれるような希求を胸に秘めながらも、別れの痛みを未来に見ながらも、今そこにある瞬間の幸福に満たされようとする主人公の心情は、最後には覚悟を伴ったものになる。

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『うつくしい子ども』(石田衣良 文春文庫)

『うつくしい子ども』(石田衣良 文春文庫)

この本は、始まりに読者すべてを当事者にした。

あなたは殺人犯の同級生で、先輩で、後輩で、隣人で、警察署に集まった野次馬で、捜査員で、マスコミ。

リアルでさりげない描写は作中の人々を描いているはずだが、私たちの心の中を覗いているようで、うろたえてしまう。

そして物語が進むにつれ、読者は次第に主人公に添っていく。最初に感じさせられた後ろめたさに背中を押されるようにして。

主人公は、殺人犯の兄だ

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『若冲』(澤田瞳子 文藝春秋)

『若冲』(澤田瞳子 文藝春秋)

日本画の異端児・伊藤若冲の半生を描いたフィクション。池大雅や円山応挙など、同時代を生きた画人たちが入れ替わり立ち替わり登場する、日本画好きには嬉しい、そうでない人にとっても当時の雰囲気を臨場感たっぷりに感じて楽しむことのできる大作。

伊藤若冲といえば、西洋画に親しんだ現代人からしても、写実に溢れた緻密な構図、絢爛たる色彩に非常な個性を感じる画人。彼の絵は一体どのようにして生まれたのか、彼の絵は当

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