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秋、芋を煮る。〆はカレーうどん。

長く料理の仕事に携わってきた理由にはやはり「好き」が前提にあって、もともと料理をすることへの心理的なハードルが低かったから、私にとって仕事以外でも料理をすることは日常。
ただ、仕事で料理を覚えていくほどにいつしか「できることをやるのは当たり前のこと」そんな考えが頭から離れなくなり、日常の料理に苦しさを覚えるようになっていた。それは「できることが増えれば増えるほど際限なくやることが増えていく」ということだった。

それをある時ふと思い立って、あれもこれも結果として持っているだけで満足していただけになっていたスパイス類や、調味料、食材などを一度きれいにリセットして、「できる/できない」ではなくて「作る/作らない」という自分の意思で日常の料理を分けることにしたら途端に気持ちが楽になった。
あくまで基準は自分だから、他の人が当たり前に作るもので私が作らないものもたくさんあるし、その逆もあると思う。

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そうして残った調味料の一つに赤い缶のカレー粉がある。タンドリーチキンとまではいかなくても、鶏肉の下味に塩とオイルとカレー粉を揉み込んで焼くだけで立ち込めるあの匂いがおいしいし、鍋をしたら残った煮汁にカレー粉を入れてカレーうどんに。蕎麦屋で食べるカレー南蛮とは違う、家で作る料理ならではの込み入ったおいしさがある。

直径6メートルの巨大鍋で里芋や牛肉を大型重機を使って煮込む「日本一の芋煮会フェスティバル」が毎年ニュースで取り上げられるようになって、今や全国に知られる山形名物の芋煮鍋も、〆の定番はカレーうどん。
もちろん芋煮は重機がなくても作れるから、〆カレーうどんまで込みで毎年この季節になると家で楽しみに作っている。

◾️山形芋煮(内陸風)の作り方◾️

【使った材料】
●里芋…400g〜
●牛肉…280g〜
●こんにゃく…1丁
●ごぼう…1/2本
●きのこ…1パック〜、しめじ・舞茸を半々で使用
●ネギ…1本
●薄めの出汁…1ℓ〜
●酒…60g
●みりん…60g
●砂糖…30g〜
●醤油…90g〜

火が通るのに時間のかかる里芋を一番に煮始めて、他の具材は用意しながら順次足していけば自動的に時間差ができてうまく煮える。牛肉入りで甘辛の醤油味、河原でなくとも家で静かに煮たって格別のおいしさ。

①里芋の皮をむきます
里芋は水洗いして泥をよく落として皮をむきます。
山形では季節になると芋煮用にあらかじめ皮をむいてパック詰になったものが売られていて、河原の芋煮会でも家でも手軽にそれを使うことが多い。東京だと皮むきのものは冷凍か水煮か。今回は生の芋を丸めたアルミホイルでこすって皮をむいた。取りきれない色の悪いところなどは包丁で削って。

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お芋が新しいとこうしてこするだけで皮がむけてきます。
皮だけむけて実が削れないから無駄もないし、芋そのまんまの形にむけるのも可愛らしい。なんて面白がっているうちに、手がチクチクと痒くなってきた。酢を手によくすりこんでから水で洗い流して、しばらくすると治まります。

②芋を煮始めます
鍋に皮をむいた里芋とひたひたくらいの出汁を入れて火にかけます。
とりあえず里芋に熱を与える分だけの汁気があればいいので少なめの汁で煮始める。

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普通里芋は皮をむいて煮る前に、塩で揉んだり下茹でしたりでぬめりを除くことが多いけど、それは強いぬめりが味の含みを妨げたり、煮ている間に泡立ってふきこぼれたりするのを防ぐため。
こうして皮をこすってむくとぬめりも芋の旨みも溶け出しにくくなる。そうはいっても煮れば出てくるとろみはそれも含めて里芋のおいしさなので下茹ではせず、今回の芋はちょっと大きかったけど切らずに丸のまま煮ていきました。
煮汁はほのかにとろみが付いているくらいできれい。

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もともと煮込み料理はなんでも大きめのまま煮るのが私の好みで、それは食べ応えや見た目の豪快さと、鍋の中がぎちっと満員の方が具材がやたらと動かず崩れにくいという効果があるから。
こうして柔らかくなるのに時間がかかる芋を先に煮始めておいて、その間に他の具材を準備すれば効率もいい。

③他の具材を準備して、次々鍋に投入します
こんにゃくは一口大にちぎり、沸騰したお湯に入れて2~3分茹でて湯切りします。スプーンを使ってかくようにすると、早くて大きさも揃え易く気持ちいい。それでいてきちっとしすぎない形で鍋の景色の馴染みもいい。

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ごぼうはささがきにして、さっと水に浸け水気を切って鍋に加えます。まな板の上でごぼうを安定させながらやるとやりやすい。
よく「鉛筆を削るように」と言うけど、この表現は今でも伝わるのだろうか。
泥付きなら芋のついでにアルミホイルでこすって洗っておくといいです。

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きのこは石づきをとって、適当に手でほぐしながら投入。近頃の栽培品はほとんど石づきが無いようだけど、根元に固そうな感じのするところがあれば切って除く。火が入るときのこは痩せるのでほぐし方はやや大ぶりに、旨味があるから量は多めがおすすめです。

きのこの種類は好みですが、私はしめじだけか舞茸も入れるかあたりが定番。
具であると同時にその香りで全体の味わいを下支えするイメージなので、旨味といっても個性が強すぎないものの方が馴染みがよくていいと思っています。

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こうして他の具材の準備をしている間も、一番手の里芋は段々と煮えてきている。
次々に具材を加えたら、全部を煮るのに足りるだけの出汁を足して、下味的に醤油少々を入れて引き続き静かに煮ていきます。

④牛肉を入れて、味付けします
具材に火が入って馴染んできたら、牛肉を切って加えます。
肉のアクが浮いてくれば軽く除いて、酒、みりん、砂糖、醤油で味付け。この際甘さも醤油もしっかり効かせた強気の味付けと、脂は多めの肉がおいしい。
牛肉の旨味と甘辛醤油味が最大の特徴の内陸風芋煮だから、ここでひるんではいけない。

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⑤で、完成です
青いところまで大ぶりに勢いよく斜め切りにしたネギを加えて、しっとり煮えれば完成。
芋も崩れることもなくうまく煮えてる。大きいし煮え立てだから味が中まで染みてる訳ではないけど、芋を食べてそれを牛肉の旨味で追いかけて甘辛の汁をすすれば、それでいい。

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今日の友は、山形生まれのオリジナル米・つや姫100%で造る[東の麓酒造 つや姫 なんどでも]を冷やで。冷めてもおいしいつや姫ごはんの特徴をお酒でもと、酒蔵と東北芸術工科大学とのコラボで生まれた何℃で飲んでもおいしいがコンセプトの純米吟醸酒。
しっかりとしたお米の甘みとおいしさが、芋煮の甘辛味と当たり前のように馴染んですいすい入ってくる。

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芋煮の国山形では〆は定番のうどんから、さらに発展して近頃はルーを入れてカレーうどんにするのが人気。

私は残った煮汁に、カレー粉と茹でうどんを入れて水溶き片栗粉でとろみをつける。ルーではなくてカレー粉が好きなのは、カレー粉には塩分が入っていないので、こういう味がしっかり付いている料理をアレンジするときにしょっぱくならずに使い易いから。

それにしてもカレー味に負けない甘辛力がすごい。もうお腹いっぱいです。

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秋、おいしい芋を食べるために煮る。そういう自然な動きこそ料理と教えてくれるような季節の味。
豚肉と厚揚げが入ってほんのり酒粕を効かせた味噌仕立ての庄内風芋煮も食べておきたい。

それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。

[山形芋煮のおいしい作り方]の動画をYouTubeに投稿しています。合わせて見てもらえたら嬉しいです。


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