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警察介入が「子どもの幸せ」を担保できるわけではない件

▼前号では、2019年5月21日付の朝日新聞に載った内科医の山田不二子氏インタビュー、「性虐待が疑われる被害を打ち明けられた大人が守るべきこと」を紹介した。

▼今号は、同じ日付に載った、小児科医の木下あゆみ氏インタビュー。この木下氏は、虐待死に至った船戸結愛(ゆあ)さんの、香川に住んでいた時の主治医だった人だ。

〈昨年3月、東京都目黒区で虐待を受けた船戸結愛ちゃん(当時5)が亡くなった。児童相談所や関係機関の連携不足により、虐待で亡くなる子どもは後を絶たない。親や子への支援を途切れさせないためには何が必要なのか。結愛ちゃんが香川県善通寺市に住んでいた当時の主治医、小児科医の木下あゆみさん(45)に聞いた。〉

▼この木下氏の話は、いちいち納得できる指摘ばかりだった。見出しは

〈結愛ちゃん虐待 教訓は/張っていたネット 引っ越しで抜けた 悲しいより悔しい/診察でのSOS 職域越えた共有 隙間を埋める〉

児相の人手不足について。

「人手が足りず、数年ごとに職員が異動してしまう現状では、児相が医学的判断を正しく理解し、問題に対応できる専門家集団になることは難しいと思います。児相の問題というよりは、制度の問題だと思います

▼虐待している親が、わが子を病院に連れていくことがある。

「私も昔から不思議だったのですが、虐待したくないけどしてしまう、助けてほしいという親のSOSだと思っています。『助けて』と来るのだから、そこは大事にしなければいけないと思っています。医療者は親を責めてはいけません」

▼とはいえ、小児科医が患者を診る時間は短い。

「じっくり話を聞こうとすると、通常の診察の何倍もの時間をかけることになります。例えば育児支援加算といった形で診療報酬をつけないと、理解のある病院でしか実施できません。自治体が費用を持つといった形も必要だと思います」

▼木下氏は、香川県で先駆的な取組みをしてきた。

〈「虐待した親を検察が処分する前に関係機関と対処法を検討する『処分前カンファレンス』が全国に先駆けて始まりました」

ーー具体的には。

例えば警察は容疑者である親の逮捕が第一ですよね。でも、その子どもは『自分のせいで家族がバラバラになってしまった』と思いがちです。こうした状況を事前に共有できれば、医師や児童福祉司が子どものケアに同時に入ることができます。

虐待事件が起きると、福祉の対応が生ぬるい、警察と虐待事案を全件共有すべきだという意見も出ますが、警察も子どものことをよくわかった上で対応しなければ、子どもは幸せにはなれません。お互いの職務や動き方を知っておくこと、顔の見える関係を作っておくことが、うまく連携するにはとても大事です」〉

▼この箇所を読むと、木下氏が「子どもの幸せ」を最大の行動規範、判断基準にして、児童虐待にまつわる物事を考えてものを言っていることがよくわかる。

簡単に答えの出ない問題に、どう取り組むのか。「共感」は、感情だけでは不十分であり、理性による持続的な共感が、問題を解決する道をつくる。そう感じさせる良い記事だった。

(2019年5月23日)

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