記事一覧
【散文詩】湿度零パーセントの逆夢
掠れた頬に五月の緑色の汗が墜ちる
赤く色づく整数に挟まれた黒い整数が裏がえる
アスファルトに干乾びた両棲類の天麩羅が黒塩の皿
愛も絆も後ろ手に兇器を潜める
見過ごされる薄色の痣を隠すように角度をつける
丸ごと愛しく包み込む絡みつく表層の皮膚の接触は月蝕に飛び出す骨
甘美な唯物論に現実界が命の灼熱
行為主体を越える構造的暴力は止揚を拒絶する
不貞腐れた幸福は偽善に充ちる水銀灯下に佇む
【散文詩】好きではなくても
好きですといった。好きではないといわれた。
次の日も手を繋いで家路を歩いた。
二ヶ月後に好きだといった。好きですといわれた。
反復を反復して、手を離し、さようならと。
さようならといわれた。
好きではなくて怖かったのだ。本当は。
【散文詩】敵はいますか
単刀直入な憎悪で刺す
言質の取り合いは
身柄を攫って埋めればいい
瞬間に気化する衝撃と
簀巻きの海底で喰われるか
思い通りにさせないことが肝要
誰かを褒めると背後から刺突
夜襲にそぐわない態度表明
潮の干満に砂浜の首が頬にかかる
命乞いをする相手も去り
闇夜の波音に混入する呼気
【散文詩】赤色の霧雨
雨降りにまた逢えるかな
似合わない心模様
赤いパラソル
くるくると
名前も知らない
揺れ動く心の居場所に
スキップは虹色
水たまり避けて
まっすぐな瞳に
揃えた前髪が揺れて
いきをのむ
どうすればせいかい
なにがまちがい
本気で死にたくなるほどに抱きしめたとしても
夢のなかの亡霊
【散文詩】空飛ぶ好奇心
団栗眼で見入る先には大きな空が広がって、ぼくの手元を飛び去るのは夢を掴むために地を蹴り翼を羽ばたき上昇気流に乗るだろう。
小さな身体の密度は可能性の塊でどこにでも行ける。
だから、いっしょに飛べる。
人生の主役を降板しても苦にならない「人」がいなかったのに二人目が君だった。
河川敷で空を駆ける飛行機雲を指差し振り向く君を肩車して帰り道。
橙色の西の空に「空斗」の顔が染まって迎えに駅によって三人
雨はいまだやまず濡れる
枯れ葉を踏む音でわかるほど何もかもわかっていたのは独り善がりの自己愛だった。
どんなに抱きしめても心まで掴めないこと。
終わったのは愛でも恋でもなく生命の鼓動。
人生の選択肢はないんだと、思い通りに喜怒哀楽をみせるのが思いやりだと勘違いしていたと今更の後悔。
立ち上がるのは誰のため。
負い目は弱さか、謙虚さか、それとも思い上がり。
苦しまなくてもいいことに打ちのめされては傷が増えて、愛さ
【散文詩】空模様はサバティカル
人間が降ってきた。
そうとしかいいようがなかった。
内面の動揺とは無関係に「雨が降ってきた」と比べて言葉の重みは変わらなかった。
雨なら傘をさすか雨宿りをすることで対応可能だが、人間が降ってきた場合の対処法は残念ながら持ち合わせがなかった。
身体器官は活動を停止したように、立ち尽くすだけであった。視覚だけが機能して雨粒にしては巨大過ぎる人体が数珠つなぎに炸裂していく様子を目玉から脳内に電送して
【詩】物理的本能による拒絶
さらさらと蝉の命が溶ける陽炎
あくびを誘う汗が首すじを濡らす
青い舌先に汗が交ざり
押し返された隙間に読み取れる嫌悪
思案に倦ねる距離ではなく本能の拒絶
【散文詩】泣き虫ピッツ
泣いてばかり
白くカラカラな心に
オアシスを
汀に消える
境界線
素足に刺さる
硝子片
流れる赤い糸
裂けた皮膚の色彩
肩をかして
駐車場
逸らせない
傷口に反射する光彩
水晶を洗い
きれいだと
交差する告白
相殺された嘘
【散文詩】奈落の四季(春)
満面の幸福に焦燥の奈落
笑顔に隠す嫉妬そして無意味な抵抗
春は心機一転
好機の季節
狂気の蠢動が芽を吹く
禍福の交差する路上に悲喜劇が敷かれて
誇大妄想が跋扈し人をニ種類に分断する季節
【散文詩】後悔できない
後悔なんてしてない
前向きに生きてるから
そんな嘘は見え透いて
はっきり嫌いと言いたかった
後悔しないように
心に偽りを許さない
そんな告白は誰に誓っているのか
傷つけたこと悔やんでないし
感情は移り気で
人は変わっていくから
裏切りは罪じゃない
許すとか理解するとか
蜜のような瞳で
甘い思いで生きて欲しい