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これまで来た道、これから行く先

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旅がどこまでも続くように。1000字エッセイ。
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#コラム

女子高生とアイスクリーム

女子高生とアイスクリーム

先日、日帰りの予定の仕事が翌日まで続くことになった。

寝場所を探すと、駅前のビジネスホテルが約4000円と案外低価格であった。宿泊費は会社持ちなので、夕食は宿から少し離れた高級レストランで贅沢をした。ワインを片手に、華やかな店内でリブステーキを口へと運ぶ時間は、出張中とは思えない優雅な気持ちにさせてくれる。食事は宿泊より高くついたが、十分満足できた。

帰りにコンビニに立ち寄った。会社帰りのくた

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手と声と愛と

手と声と愛と

耳が聞こえないらしい。母親と一生懸命に手話で会話している。職場から帰る電車で偶然そんな親子の真正面に立ったとき、私は動揺してしまった。

——こういう光景を見て、かわいそうだと思ってはいけない。たとえ耳が聞こえなくても、現に手話で楽しそうに話しているではないか。障害を障害と思ってしまうことが、いわゆる「健常者」との壁、すなわち障害を作ってしまう。今とるべき適切な行動は、行動をとらないことなのだ。気

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「学生のうちに遊ぶ」という蜃気楼

「学生のうちに遊ぶ」という蜃気楼

間もなく、社会人になって1年が経つ。昨年の今頃は何とも言えない緊張感と高揚感に包まれながら過ごしていたものだ。配属も同期の人数も全く知らされていなかった当時の私には、一年後にこうして毎日神経をすり減らして顧客の対応をしながら、PCに向かってぶつぶつと不平を漏らしていることなど思いもよらなかった。「光陰矢の如し」とは言い得て妙である。

平日5日間のほとんどを会社で過ごし、週末はその疲れをわずかに癒

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花瓶に注ぐ雨を乞う

花瓶に注ぐ雨を乞う

目の前を電車が行き交う。通勤ラッシュを一歩引いた位置から眺めると、ベルトコンベアーに載せられた無感情な機械の移動のようにさえ思えてくる。かくいう私も乾ききった街へと毎日出勤し、神経をすり減らして生きている。そのことを自分の中では何ら気にしたことはないし、あるいはそれを気にすることができるほどの余裕はないのかもしれない。日々の生活をひたすら懸命に過ごすのみである。ゴールのないマラソンを走っている。

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ふと見上げれば空

ふと見上げれば空

空。これを何と読むか。

——塾講師のアルバイトをしていた時、ある話の流れの中で、ふと生徒にこんな質問をしたことがある。その場にはおそらく15人程度いたように記憶しているが、その全員が「そら」と答えた。小学生に聞いても、高校生に聞いても、同僚の講師に聞いても、初めは必ず「そら」と読む。非常に興味深い。いくつか読み方はあるにも関わらず、答えはただ一つと言って過言ではないだろう。単にそれが訓読みである

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身体に心を支配される彼女を傍観しつつ思う

身体に心を支配される彼女を傍観しつつ思う

高校2年生の頃に古文に目覚め、今に至るまで折に触れて原典に触れてきた。家の本棚には『徒然草』をはじめ文庫化された古典が並んでいるし、図書館で借りて読んだものも含めればかなりの量を読んでいるものと思われる。

そもそも古文に関心を持ったのは、興味本位で友人とともに読んだ『好色一代男』がきっかけだった。その後も『好色一代女』『好色五人女』と進んでいったが、男子高校生の性的関心と結びついて「好きこそもの

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