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ねず美介護士とヤヌスの鷹


私は介護スタッフの坂口ねず美53才。
真ともな従業員と変な従業員からは"人間ねずみ講"坂口と影で言われているらしい。
(そんな騙し騙し昭和を生き抜いた女にして、支配欲に満ちた53才。何を支配するのかは…そぅ、私好みの男と全ての虫ケラ共(ただし、私以下の人間に限る)

そして今日も私は施設利用者の介護をしている。
本音はどうでもいいけど、いい顔しながらあれこれ仕事しないと…。

他の介護士(達)は手を繋いで散歩したり、入浴介助をしたり、身体を支えて世話したり…良くやってると思う。
でも私はしたくない…。
(なぜなら私より醜い人間には触れたくない、触れられたくない…)

私はこの施設で一番汚い女。そして一番可愛くなきゃいけない。(正直私自身、自分が何者なのかわからない女)

私には仕事に行く前の朝のルーティングがある。
鏡の前に立って、鏡に映った私に向かって声をかけている。
『私はねずみ…。人間…嫌い…。イケメンと食い物…大好物…。私がこの世で一番可愛い』
鏡に映る私は可愛い人間の姿をしたねず美(偽者の私)
(ケッケッケッ…)
 
仕事は正直どうでもいい、いい男からは全然相手にされないし…馬が合う男とは不貞関係がすぐに成り立つ。
(できちゃった婚で出来た男と今も一緒に暮らしてるけど、対した会話もないし、あるのは身体の関係、そして子供がいるだけ…。)

唯一の仕事の楽しみにして、それが全ての理由である伊藤所長。
所長は優し過ぎて、いつもニコニコし過ぎて、忙しいふりをしているし、仕事は遅すぎるし、誰に対しても低姿勢過ぎて慇懃無礼に思えるし…だから私は憎めないのよね(Hは激しいし…)

そして、伊藤所長のお気に入りの介護職員「西川さやか」(31)
私よりだいぶ若い。
確かに可愛い。だから憎い。

そんな彼女が憎くて、嫌がらせを仕掛けている。
先輩の立場を利用して、仕事をバンバン押し付けたり(あなたのためと言いつつ、本当はあなたと伊藤所長との絡みを失くすため)。
先輩の立場を利用して、同類の後輩達とぐるになり、あなたを孤立させたり(私は孤立が大嫌い)。
言葉では良いとこをいうけど、中身とやることが伴わないのが私。(ケッケッケッ)

そんな私をいつも視ている一人の男性スタッフがいる。
(私に惚れてるな?ふっ、チョロい。…それに不細工な男に興味はない)
その男…ただ裏で従業員からは"ヤヌスの鷹"ちゃんと言われている。
私の"人間ねずみ講"坂口より100倍恨ましい呼ばれ方だ。(人間魚雷みたいでほんと虫酸が走る)

ちなみに『ヤヌス』とは『ローマ神話の門の守護神であって、物事の始まりの神』と言われている。

確かにその男性スタッフは施設入り口の門(自動ドア)を見ていることが多い。
仕事の合間も含めて、よく見ている。
視ていたのは私ではなく、門(自動ドア…)。
(男が見ているだけですぐ勘違いするのよね…私)

しかし、なぜあの男は門を見ているのか?
"人が通るたびに開く門"
"そのときに入り込む風"
"新しい風"と"ニューゲート…"

・・・。

まっ、そんなことより、伊藤所長に好かれるために今日も一生懸命にやってるふりをしないと!
伊藤所長も忙しくないのに、忙しいふりをしていたからね!

とりあえず、今日も仕事(伊藤)、ヤるか!
(ケッケッケッ)

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