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【書評】最強の消極的主人公降臨!『書記バートルビー』は、やる気がない人におすすめ!

ロッシーです。

メルヴィルの『書記バートルビー』を読みました。


日本のサラリーマンのやる気は低い

いきなりですが、従業員のエンゲージメント調査で、日本企業は145か国中でなんと「最下位」です。つまり、それだけやる気がないということです。

そんな状況でも仕事は続けないと生活できませんよね。ではどうするか?

ヤフーニュースに「静かな退職」を選ぶ若者が増えているという記事がありました。やりがいやキャリアアップは求めずに、決められた仕事を淡々とこなすという働き方です。

それもひとつの対応策なのかもしれません。

最強のやる気なし人間バートルビー

さて今回は、そんな低エンゲージメント・サラリーマンにおすすめの短編をご紹介します。

それが、『白鯨』で有名なメルヴィルの短編小説『書記バートルビー』です。

この本はおすすめです。結末がスッキリとはしない不条理小説的な内容ですが、フランツ・カフカほどのメダパニ度はないので、丁度よく楽しめるでしょう。

主人公のバートルビーのやる気のなさは、おそらく世界最強でしょう。日本の低エンゲージメント・サラリーマンなんて、勝負になりません。

本書を読んでバートルビーの生きざまを知れば、

「自分のやる気のなさなんて、ちっぽけだったなぁ・・・もっと努力してやる気を減らすぜ!」

「上には上がいるんだな。オラわくわくすっぞ!」

「あれ?バートルビーに比べれば、私ってやる気あるほうじゃん!」

となり、各人が勇気を与えられるでしょう(笑)。

あらすじを簡単に

さて、本書のあらすじを簡単に紹介しましょう・・・っていちいち自分で書くのも面倒なので、光文社古典新訳文庫から引用します(笑)。

ウォール街の法律事務所で雇った寡黙な男バートルビーは、決まった仕事以外の用を言いつけると「そうしない方がいいと思います」と言い、一切を拒絶する。彼の拒絶はさらに酷くなっていき......。

書記バートルビー/漂流船(光文社古典新訳文庫)

いかがでしょうか?

これだけ読んでも面白そうでしょう?

バートルビーの口癖は「そうしないほうがいいと思います。」です。
(※英語だと、”I would prefer not to.” となります。)

彼は、雇用主から何を言われても、このお決まりのセリフで返します。


※以下、ネタバレにご注意ください。


彼は、とある法律事務所(今でいうところの司法書士的な仕事をメインにしている)で、書類の写しを作成する仕事のために雇われます。

当時はコピー機がありませんから、複写は手書きでするわけです。大変ですよね。 

最初のうちは、バートルビーは真面目に仕事をするのですが、彼の雇い主がちょっとした業務を頼んでも

「そうしないほうがいいと思います。」

の連発。

そのうちに、彼の本来の業務である書類の写しの作成を頼んでも

「そうしないほうがいいと思います。」

という始末。

いやいや、その仕事をするために雇われているのに、おかしいでしょ!

と思いますが、バートルビーは何を言ってもうんともすんとも言わず黙り込むか、お決まりのセリフを言うだけ。埒があきません。

結局は、何もしないで事務所でずっと座っているようになります。そして、なんと事務所で寝泊まりまでする始末。

なんちゅう鋼鉄のメンタルでしょう(笑)。

もう雇い主も「これではアカン!」と思って事務所を引っ越しして、別の事務所に行きますが、彼は旧事務所にずっと地縛霊のように居続けるのです。

最終的にどうなるのかは、ぜひ小説を読んでみてください。短編なのですぐに読めると思います。

何を言いたいのか?

一体この小説でメルヴィルは何を言いたかったのか?
バートルビーとは一体何者なのか?

そこは、色々な解釈が可能です。だからこそこの小説は面白いのです。

例えば、バートルビーは「神の象徴」だ、という風に解釈することもできるでしょう。ちなみに、欧米の小説においては、困ったときは「神」で解釈すればなんとかなる説を発明したのはこの私です(笑)。

つまり、彼の行動を人間側の常識でジャッジしようとすることは人間の傲慢さであり、彼のありのままを受け入れるべきなのだ、という見方もできるのかもしれません。

他には、「資本主義システムに対する批判の象徴」という見方もできるでしょう。結局のところ、私達のほとんどは働かないと生きていけませんので、「何かをやらない」「それをしたくない」という風に言える選択肢がそもそもないわけです。

バートルビーのような態度をとり続けたら、最終的には職を失い、お金を稼げずに生活に困るわけです。バートルビーは「そんな社会システムってどうなの?」と一石を投じる存在なのかもしれません。

そんな風に、色々と解釈してみると面白いですね。

バートルビーの捉え方

バートルビーに対して、普通の人はどんな反応をするでしょうか?

本書に出てくる同僚と同様に、おそらく否定的なのではないでしょうか。

「全然仕事しないでおかしいだろ!」

「仕事なんだからちゃんとやるべきだ」

「サボっているのはダメでしょ」

という風に。

しかし、本当にそれでいいのでしょうか?

バートルビーは単なるおかしな奴、異常者、ということでよいのでしょうか?

『書記バートルビー』は1853年に発表されました。いまから約170年前ですね。

当時よりも、現代に生きる私達のほうが、もっと真剣にバートルビーのことを考えないといけないように思うのです。

現代こそ重要性を増すバートルビー

この記事の冒頭で、「静かな退職」を選ぶ若者が増えているという記事を紹介しましたね。

「ブルシット・ジョブ」という言葉もバズワードになりました。
「FIRE」を目指す人達も昔に比べると増えました。
「ワークライフバランス」を重要視する人も多くなりました。

これまでよりも、仕事というものに対する考え方が大きく変わっているように思います。

仕事を単に長時間頑張れば成長できる時代ではありませんし、そもそも仕事を担う労働人口も減る一方です。

これまでと同じ働き方ではいけないのです。通用しないやり方でいくら頑張っても意味はないのです。

日本は、OECD 加盟 38 カ国中 30 位の労働生産性です。ボロボロです。

その事実しっかりと見据え、私達は働くということについて、根底から考えを変えないといけないのではないでしょうか。

これまでと同じ働き方をもしも求められたら、

「そうしないほうがいいと思います。」

と言うことが、むしろ正しいのかもしれません。

いまこそ、バートルビーの精神を見習い、もはや通用しない働き方に関しては非暴力・不服従の精神で「そうしないほうがいいと思います。」とやんわりと拒絶していきましょう。

それにより、旧態依然とした働き方は崩壊し、新しい日本人らしい働き方が生まれるのではないでしょうか(多分)。

もしそうならなかったら、みんなでバートルビーになればいいのです。

"Let’s be Bartleby !"


最後までお読みいただきありがとうございます。

Thank you for reading!

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