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鴨の生涯 【短編小説】
出汁の多い生涯を送って来ました。
鴨田という名に生まれた私は、カモとか鴨ネギとか呼ばれるうちはまだマシなもので、終いには鴨田氏から鴨出汁に変じると出汁が濃いとか薄いとか言われるようになりました。恋愛体質という言葉を聞きますが、あれは自分のことだろうと思います。兎も角、私は身近に異性がいないと落ち着かない性格でした。それで度々トラブルに巻き込まれることもありましたが、だからといって何かを変
「機会があれば」は実現しない話
耳の痛い話ですが、備忘録も兼ねて。
それは私がまだ研修医の頃のことです。移植手術の第一線で活躍する名医と数人で食事をする機会に恵まれました。今振り返ってみてもアレは稀少なことだったと、背筋の凍る思いがします。
雑談の中で、ふと訊ねられました。
「渡邊君は国外留学するつもりはあるのかい?」
咄嗟に「機会があれば」と応えた私を、先生は渋い顔で見てから視線を外し、手元のグラスを傾けてグイ
「死」の恐怖と不眠の話【漢方医放浪記】
もうすぐ自分は死ぬのだ、と彼は項垂れました。齢90を越える老人の痩せた手は僅かに震えながら、その眼差しは私を刺しました。
とにかく具合が悪そうだと救急車を呼んだ家族のことを、私は咎める気になれませんでした。
医学的には緊急性のカケラもありません。血液検査も画像検査も心電図も何もかも、異常らしい異常はありません。元々の心疾患の影響はあるものの、それが急激に悪化した様子はみられず、腎硬化症な
超訳/論語と孔子のロックンロール
冠省
昨今の世相をみると、巧言令色な著名人が崇拝されていることが少なくありません。
例えば、豊富な知識を分かりやすく伝える動画配信があったとしましょう。まるで大学の講義のような、或いは予備校の授業のような雰囲気を醸しながら効率的に伝えられる情報の、真偽は如何程でしょうか。
今日日基本的な読解力と記憶力があれば、あらゆるジャンルの知識を身につけることができます。専門家でなくとも情報にアク
スイッチオフした脳のスイッチをオンにする法が見当たらない朝。易を立てますと六十四卦は『天雷无妄』の初爻変、天地否。然らば成り行きに身を任せるべし。思考を捨て先ず体を動かすのが吉と出て、無目的に外出。これが功を奏したのか心身の不調は吹き飛び、根源的な問題のひとつが解決いたしました。
脳が疲れたのでスイッチオフ。
でろーん。軟体動物。こちらにいただいたコメントには脳の緩まる返しをいたしましょう。
医学は一問一答ではない話
「ほんと信じられないんだけどちょっと聞いてくれる?」
そういって彼女はフスーと鼻息を荒げました。曰く、新しい職場の同僚が最悪で、尻拭いをさせられたりマウントを取られたり、精神的に参っていると言うのです。
彼女の名はマリア(仮名)。
縁あって研修医時代から数年間、同じ職場で働いて親密になった友人です。産休育休の最中に「このまま家の中に居たら発狂しちゃう!」と猛スピードで復職したバリキャリ
『ホスピタリストのための内科診療フローチャート』第三版を購入して、本日午後に通読しました。よくまとまっていて素敵。自分の専門外でも一般内科レベルの診療は出来て然るべきですから、嬉々として知識を更新します。東洋医学も西洋医学も、きっと最終目的地は同じなのだろうと想像します。