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アンティークコインの世界 〜コインと共に神話を追う〜

古代ギリシア・ローマコインには、神話に登場する神々や英雄が描かれている。当時の人々にとって、神話は先祖たち、そして自分たちの出生の秘密を知る大切なものだった。

古代ギリシアの世界観
ギリシアの神は2回ほど人間に反省のチャンスを与えたが、人間は世代が変わると全てを忘れてしまう馬鹿で無脳な者たちとわかったので、愛想を尽かして皆天界に上り接触を避けるようになった。現在は「鉄の時代」と呼ばれる史上最悪な時代であり、世界はどんどん悪い方向へ、すなわち終焉に向かって歩んでいる。これが古代ギリシア人の考えである。また、かつての人間はみんな大きかったが、時代を経るに連れてどんどん小さく、脆弱になっていると考えられていた。

ギリシア神話と五つの時代
1)黄金の時代 第一世代の神々の時代 原初の神 ティタン(巨人)族 季節は春しかない 永遠の生命
2)銀の時代 第二世代の神々の時代 ゼウスたち兄弟の新生時代 オリュンポス十二神 ハデスが冥界にペルセポネを連れ去り、悲しんだデメテルが冬を招く 季節の誕生
3)青銅の時代 先見の神プロメテウスが人間を創造し火を与える 最初の人間パンドラの創造、彼女によって憎悪、不安、苦しみ、死が世界に巻き散る
4)英雄の時代 ペルセウス、ヘラクレス、テセウス、アキレウス、オデュッセウスなど、半身半人や人間たち英雄の活躍
5)鉄の時代 人間が神々に見捨てられた時代 神々は天界に去り、人間との接触を避けるようになった

ギリシア神話に登場する英雄と神

ヘラクレス

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ギリシア一の英雄。赤子の頃から怪力を持ち、恐れられてきた。成長して妻子を持つようになるが、ゼウスの妻ヘラの嫉妬により、狂わされ我が子を自らの手で殺めてしまう。罪の念に苛まれた彼はアポロンの神殿に向かい、罪の償い方を問う。するとアポロンは、十の難行を成し遂げることで解放されると告げた。お告げ通り、ヘラクレスは難行に立ち向かうが、途中で二つの難行が追加され、最終的には十二の難行に立ち向かうことになる。無事、難行を終えたヘラクレスは新しい妻を娶り、幸せな日々を送っていたが、ケンタウロスの策略でヒュドラの毒に侵され、死去する。ヘラクレスの壮絶な人生を哀れんだゼウスは天界に彼を引き上げ、神とした。

オデュッセウス

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トロイア戦争でギリシア連合軍を勝利に導いた英雄。ペルセウス、ヘラクレス、テセウス、アキレウスなどが力によって英雄として讃えられたのに対し、知恵で成り上がったニューヒーロー。解決できない困り事があったらオデュッセウスというように軍内の信頼は厚い。変装の天才でもあるギリシア連合軍が幾度も危機に面した時、彼の知恵で困難を突破していく様が軽快である。繰り出される難問を彼がどう解決していくのか。それが楽しい。ギリシア連合軍の総大将アガメムノンがオデュッセウスを徴兵した理由もうなづける。オデュッセウスは生まれてくる息子のことが恋しく、本当は遠征に参加したくなかった。だが、武力は駿足のアキレウス、作戦は頭脳派のオデュッセウス。この二人が組み合わさることで、ギリシア連合軍は最強の軍となる。

アテナ

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戦争・知恵・職工を司る古代ギリシアの女神。ペルセウスに青銅製の盾を与え、メデューサ退治を支援した。磨きのかかった青銅製の盾は鏡になっており、この反射を頼りにペルセウスは直接メデューサの眼を見ることなく退治に成功した。『オデュッセイア』では最後までオデュッセウスの味方でいてくれた女神でもある。彼女の支援によりオデュッセウスは故郷イタケへの帰還を果たした。知恵の女神だけに頭脳派のオデュッセウスのことが気に入っていたのかもしれない。父ゼウスを説得し、オデュッセウスのイタケ帰還を保障した。

ヘルメス

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伝令・旅人・盗人を司る神。ゼウスの仕いとして度々英雄や人間の前に現れる。頭の回転が早く、難問にも対処する術を教えてくれる頼れる存在。ペルセウスに、翼付きのサンダルやダイヤモンド製の鎌を与え、メデューサ退治をサポートした。オデュッセウスには動物化を防ぐ魔法の薬を与え、キルケの罠を突破させた。

アポロン

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光明・音楽・予言・疫病を司る美男子。ギリシア一の美貌を誇るが、恋愛は苦手なようでフラれることが多い。トロイア戦争ではトロイア側に味方した。トロイアの王子パリスに力を貸し、矢を共に放ってギリシア連合軍最強の戦士アキレウスを討つサポートをした。

ポセイドン

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海を司る神。最高神ゼウスの兄にあたる。トロイア戦争ではギリシア連合軍側に味方したが、オデュッセウスが息子キュクロプスを貶めたことに怒り、彼の帰還を妨害する。ポセイドンの怒りを買ったことで、オデュッセウスは故郷イタケの帰還に十年もの歳月を費やした。


ゼウス

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古代ギリシア世界の最高神で、雷を司る神。古い世代の神々を倒し、神々の王に上り詰めた。トロイア戦争では中立的な立場に立っていたが、オデュッセウスがヘリオスの島の神聖な牛を殺し食したため、罰として雷を落とし、彼の船を沈めた。結果、オデュッセウスの軍団は彼を除き全滅。だが、オデュッセウスだけは何とか小島に辿り着き、妖精の介抱を受けて生還する。

ギリシア神話からローマ神話へ
オデュッセウスの作戦でギリシア連合軍に敗れたトロイアだったが、この時、城の裏口から密かに逃げ出した人物がいた。その名はアイネイアス。彼が命からがら脱出して辿り着いた先がイタリア半島だった。この地で彼は王国を築き、その血縁はのちにローマを建国することになるロムルスへと繋がっていく。ローマを築いたロムルスはある日失踪する。そこで隣国のサビニ人がローマの王を急遽務めることになった。ローマ人とサビニ人が交互に王となり、その後エトルリア人の王が三人続いたところで、ブルートゥスという人物により王政が崩され、共和政の時代が幕を開ける。それからローマは王の出現を禁じた。

アイネイアスとアンキセス

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アイネイアスはトロイア王家のアンキセスと愛と美の女神アフロディテの間に生まれた半身半人。アンキセスは女神との秘密を話してしまった罰としてゼウスの雷を受け、盲目となり、身体も不自由になってしまった。本貨はアイネイアスが身動きの取れない父アンキセスを担ぎ、トロイアから脱出しているシーンを描いたもの。彼れらはトロイアの対岸にあるトラキアに渡り、エーゲ海の諸島を経由しながら、クレタ島に到着。ギリシア本土に渡り、その後、シチリア等に入るが、父アンキセスはここで死去。アイネイアスはさらに北上し、イタリア半島へと辿り着いた。彼はこの地でローマの前衛となる王国を築いた。

ロムルス、レムス、雌狼

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ロムルスとレムスは双子で、雌狼に救われ育てられた。その後、羊飼いのもとで暮らす。徐々に力をつけ、兄弟は村のリーダー格へとなっていくが、仲違いし、ロムルスがレムスを殺害。その後、ロムルスはレムスの支持者たちを引き入れ、ローマを建国する。

タティウス

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ローマの隣国サビニの王。当初はロムルスと険悪な仲にあったが、最終的には和解し、ローマをロムルスと共に共同で統治する。

ブルートゥス(左から三番目の人物。他はリクトルと呼ばれる護衛官)

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七代目の王スペルブスを憎み、王族をローマから追放した人物。ブルートゥスの知人ルクレティアはスペルブスの息子に襲われ、彼女はそのショックで自害した。この事件に怒ったブルートゥスは市民を先導し、王族の追放を決行し、ローマに王政を敷くことを禁じた。もともとスペルブスは灌漑工事で市民を酷使していたため、周囲からの不満を買っていたことも要因のひとつだった。

神話から現実の歴史へ
共和政は徐々に貴族だけが甘い汁を吸う腐敗したものへ変容していった。そこでカエサルという人物が自らが王になることで善政を敷くことを試みる。だが、ブルートゥスという人物らによって暗殺され計画は失敗。皮肉なことに、かつて王政を廃した人物と同じ名前を持つ者に王となる夢を崩された。カエサルは密かに後継者を用意していた。その名はオクタウィウス。まだ十代後半の青年だったが、カエサルは彼がローマに変革をもたらす者であることを見抜いていた。彼の読み通り、オクタウィウスは数々の困難を乗り越え、皇帝アウグストゥスの地位を手にする。こうして新しい帝政ローマが幕を上げる。

カエサル

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古代ローマが誇る最大の英雄。ローマの腐敗を解決するため、帝政を試みるも、考え方の古い共和政主義者たちによって暗殺される。あらゆる分野に精通した天才でもある。ローマコインには存命中の人間の肖像を刻むことが禁じられていたが、彼がこの慣例を破り、初めて自らの肖像をローマコインに刻んだ。

オクタウィウス(改名前。改名後はカエサルの養子になったのでオクタウィアヌス。その後、皇帝に即位後はアウグストゥスを名乗る)

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カエサルが見込んだ後継者。軟弱な青年だが、頭は誰よりも切れる。カエサルの暗殺を教訓に共和政主義者を上手く欺き、何年もの歳月を経て皇帝の地位を手にした。彼によって長き内戦は終焉し、パクス・ロマーナ(幸福なローマ)、いわゆるローマの安定期が訪れた。

この全てが繋がっているギリシア・ローマの流れがたまらない。これは永久に語り継がれるわけだと納得する。ローマ神話はギリシア文明に憧れていたローマ人が既存のギリシア神話に自分たちのストーリーを繋げたものだが、それにしても繋げ方が上手い。こう繋げて来るのかと感嘆する。神話は人間の叡智の結晶と言える。そこには当時の人々の知恵が詰まっており、同時に伝えたかった思いが込められている。神話を知ることは、私たち人間、すなわち自分自身を知ることに他ならないのである。

To Be Continued…

Shell 詩瑠久

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