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垂直少年と水平少女の変奏曲〜加納円の大いなるお節介と後宮の魔女達〜
第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 46 人格ロンダリングを施された新生夏目を“あきれたがーるず”に引き合わせる。
そんな大失態を演じたシスター藤原が、まだ自由に毛利邸へと出入りしていた頃のことだ。
是非にとお願いされて一緒に飛んだことがあった。
シスターは華奢な身体をしていたが、それなりの質量はある。
犬で例えればゴールデンレトリバーってとこ?
シスターの体積は秋吉と余り変わらないから横断面
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 45 そう言った訳で、僕たちは大昔の船みたいに海岸に沿って巡航しているのだった。
東京から遥か遠く九州に向かってね。
空の上から海岸線や鉄道、幹線道路、町の位置などを確かめながら飛行する。
いわゆる地文航法ってやつだ。
今宵の夜空は月明かりがない満天の星空だ。
僕らは沖合い1㎞、高度500m程度を保ちながら東海道を右に見る位置取りで西進している。
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 44 ロージナでの会合は女子会に於けるシスター藤原の待遇改善が主題。
僕はうっかりそう思ってしまったのだが実は違った。
あの会合は僕たち“あきれたがーるず”一味へのボランティア依頼が本来の目的だった。
シスターは公私の要件を天秤に掛けまずは私事を優先させたってこった。
静かな休日の昼下がり。
憩いの一時をロージナの珈琲に求めるお客様をギャラリーに
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 43 三島さんは古典部部長としてのシスター藤原に対するリスペクトはそれとして。
“あきれたがーるず”のメンバーとして持つ矜持とは完全に切り分けているらしい。
だからかな。
多分彼女は “あきれたがーるず”>>>>>>シスター藤原という本心とシスターに対する惻隠の情が煩わしくなったんだよ。
それで僕に丸投げと言う暴挙を思いついたのだろうね。
「暴挙
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 42 「鎮西のご隠居っていったい何様のつもりなんだろうね?」
会話が途絶えると話の継ぎ穂として、誰からともなくこのぼやきが投げかけられる。
今夜いったい何回目のセリフだろう。
夜間飛行は順調だ。
サン・テグジュペリはパイロットとしての能力は今一だったらしいよ。
だから彼が操縦桿を握るよりは、よっぽどましな僕らのフライトだったろうさ。
OFUの息
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 41
「そんなに訝し気な目で私をご覧にならないでくださいまし。
・・・『せっかくの休日に申し訳ございません!』
と思ってはいるんですヨ。
でも、雪美さんに無理を聞いていただいて。
こうしてまどか君のお出ましを願った次第なのですぅ」
シスターは唇を尖らせて上目使いを僕に向けた。
「シスター藤原ともあろうお方が折り入って僕に何の御用です?
もしや、ボランティ
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 40 梅雨入り前に吹き渡る初夏の薫風は、深みを増した空とまみえてもまだまだ爽やかだ。
水分少なめの南風は、やがて来る湿気と熱気の季節を予感させつつも今日はことさらに。
僕の胸の内に澄んで透明な気分をもたらす。
ご機嫌ってことさ。
その日三島さんに呼び出された僕は、大学通りをゆっくり歩きながらロージナに向かっていた。
国立には少し早目に着いたので散
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 39 「なかなかに!
雰囲気の良いカフェですねっ!
あたしったら同じ年ごろのお友達が今までいなかったでしょ?
みなさんとのお付き合いが、何だか楽しくってならないんですぅ」
ココアのカップを置くと、シスター藤原が微笑んだ。
僕は思わずコーヒーを吹きそうになったよ?
一言言ってやろうかと思ったけどね。
隣に座る三島さんに『駄目よ』と無言でたしなめ
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 38 夏目は某有名大学への推薦入学が決まっていた。
だが、彼は日本での進学を取りやめて現在グラスゴーにいる。
例の人格ロンダリングの名匠に預けられて修業の毎日らしい。
夏目のメンターを引き受けた名匠は、中世からの生き残りだとシスター藤原が言っていた。
イギリスやスコットランドの歴史を考えてみればだよ。
元はと言えば戦争が原因で傷付いた夏目の心を教導するのに
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 37 なんとなればシスターは、同窓の諸姉を僕から遠避けたい。
そんなおおべらぼうな“あきれたがーるず”の内輪な意向を果たす。
ただそれだけを目的として、ガードの為に送り込んだ手下の教師を動かしたんだよ?
有る事無い事こき混ぜて、僕の悪評をふれて回ったってわけさ。
どいつもこいつも、僕の事をいったい何だと思ってるんだろう。
シスターを脅し上げる余勢を駆って
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 36 異能を持つ人間達のドタバタなど意に介することなく季節は進んでいく。
先輩は最高学年に進級し僕と三島さんは二年生になった。
色々な力が働いて三島さんとは同じクラスになり今は僕の隣の席に座っている。
荒畑や上原、朝倉まで同じクラスだった。
やはり色々な力が働いたのだろう。
先輩は僕の隣に座る三島さんを『けん制しなくちゃ!』と思っているのか。
毎日、一緒に
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 35
それにしても夏目のドッペルゲンガーはどうして中年男なんだろう。
「アキは変態中年さんにお会いしたことはないのですけれど。
ドッペルゲンガーって言う生き物はどの子も老けて見えるものなのですか?」
秋吉が「私どうしてなのか知りたいです」と身を乗り出した。
秋吉はドッペルゲンガーを珍獣か何かの様に理解しているみたいだ。
それにしたって、いくらなんでも変態中
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 34 ドッペルゲンガーを過去に送り込む夏目の能力は、話半分だとしても驚くべきものだと思っている。
だけど変態中年が実は夏目のドッペルゲンガーだったなんて、びっくりを通り越してもう訳が分からない。
シスター藤原に教えてもらうまでは、そんな可能性をまったく考えもしなかった。
変態中年が夏目に似ていると思ったふーちゃんの直感は、ドンピシャだった訳だ。
想定の斜め上
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 33 ヒッピー梶原のとりなしで“あきれたがーるず”はとりま一旦矛を収めた。
事と次第によってはプランAもあり。
そんな含みは残したままってことは僕の目にも明白だけどね。
橘さんがベレッタをしまうと仕切り直しという事になった。
シスター藤原はヒッピー梶原に肩を抱かれヨロヨロと退出した。
シャワーを浴びてお色直しだろう。
流石にシスターも修道服が濡
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第19話 秘密結社と少年と後宮の魔女達 32 僕はただのアンプリファイアなので自分の言葉を多く持たない。
だからとりま三猿に徹しているってこった。
夏目事件を乗り切ってからと言うもの“あきれたがーるず”は何事につけ過激で容赦がない。
橘さんと僕が殺され先輩が陵辱の憂き身にさらされる所だったってのが大きい。
夏目は僕ら同様にドナム保持者だった。
そこが森要の時とは決定的に異なる要素だろう