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「戦争を取材する」 山本美香


「戦争ってなんだろう、そのことをみんなに考えてほしいという願いをこめて、私はこの本を書きました。」


「戦争を取材する」 山本美香



2012年8月20日


この本の著者・ジャーナリストの山本美香さんはシリアのアレッポで取材しているとき、凶弾に斃れました。(享年45)


まだ山本さんが生きておられたときの映像を、僕はテレビで何度か目にしたことがありました。なので、山本美香さんの死は衝撃でした。ショックでした。(その日の新聞の切り抜きを何枚か、この本に挟んでいます。)


山本さんの著書を読み返しました。録画していたNHKの番組を何度もくりかえし見ました。


山本さんは私たちに、何を伝えたかったのか?


紛争は未だなくならず、今まさに、ウクライナで尊い命が失われています。連日のニュースを見て愕然としています。悪夢を見ているようです。


ロシアがウクライナに侵攻する前に読んだ小説「同志少女よ敵を撃て」。第二次世界大戦・独ソ戦を描いた小説ではありますが、ナチスドイツがソ連に侵攻したのと同様に、今度はロシアがウクライナに侵攻している。


その小説を読んでいると、目の前に戦場がありました。目の前を弾が飛び交いました。爆弾が落ち、罪のない人々が蹂躙されていきました。


その小説の中の場面が今、現実の世界で起きている。


平和とは

戦争とは


「今一度、山本美香さんの「戦争を取材する」を読まなければいけない!」そんな衝動に駆られて読みはじめました。


山本さんは新聞記者だったお父さんの背中を見て、ジャーナリストを志します。


「伝えることによって早く戦争が終わるかもしれない」
 


テレビで、山本さんはそう語っていました。


山本さんがアフガニスタンで避難民を取材していたときです。数日前に幼い息子を亡くしたお父さんが、山本さんに向かって言いました。


「こんな遠くまで来てくれてありがとう。世界中のだれも私たちのことなど知らないと思っていた。忘れられていると思っていた。」ありがとう、ありがとうと涙を流す姿に大きな衝撃をうけました。

私がこの場所に来たことにも意味はある。いいえ、意味あるものにしなければならない。

たったいま目撃した出来事を世界中の人たちに知らせなければならない。私のちっぽけな悩みなど、ふきとばすほどの衝撃でした。

やらなければならないことは山ほどある。このときジャーナリストという仕事に全力をそそいでいく決意が固まりました。

紛争地では、だれにも知られぬまま、何千、何万という人たちがひっそりと命を落としています。

私たちがただ知らなかったというだけで、たくさんの命が失われている。知らないことは罪だとさえ思えます。


この本には、戦争による想像を絶する悲惨な現実が書かれています。


この本は10年以上前に書かれたものなので、状況は変わっているかもしれませんが、読んでいて身が震えた話がありました。


それが


「悪魔の兵器、地雷」



「少年兵」の話でした。


地雷は対車両地雷と対人地雷があります。


地雷の値段はとても安いが、除去作業は命がけで行わなくてはならないといいます。それが戦争が終わっても長い間つづくのです。


対人地雷は人を即死させる威力はありません。どういうことかというと、踏んだ足を吹き飛ばすようにつくられているのです。


兵士が地雷を踏んで動けなくなると、その部隊は大ケガをした兵士を運ぶことによって力をうばわれます。


それは部隊に大きな負担がかかります。激しい痛みを負った兵士が苦しんでいる状況になると、その部隊の兵士の気持ちにも動揺が起きます。部隊が一つにまとまらなくなります。そこが地雷のねらいだといいます。値段が安いので至る所に埋められます。本当に悪魔の兵器です。


少年兵の話では、紛争地の政府に反抗するゲリラが村を襲い、子どもたちが誘拐されました。そして、無理矢理に兵士にさせられ、戦わされました。


誘拐されるときに、ゲリラは村や家を焼き払いました。子どもに自分の家族を殺させることもありました。


山本さんは子ども兵を保護するセンターで、ターティという15歳の少年に話を聞きます。(上の写真は山本さんとターティ)


ターティは10歳のときに誘拐されました。誘拐されたときは毎日泣いていたそうです。


でも、毎日やらなければならないことをこなしているうちに、しだいに感情がなくなっていきました。働かないと殴られました。そうしてターティは兵士となって、夜になると村を襲いました。ゲリラは恐怖で人を支配していたのです。


なぜ、大人ではなく子ども兵なのでしょう?


それは、子どもならあまり抵抗されずに誘拐できるから、そしておどせば言うことを聞き、兵士として教育しやすいからです。

初めて武器を持った子どもはとまどいますが、だんだん戦うことに夢中になって、まるでゲームのなかで敵を退治するように人を殺せるようになっていきます。


信じたくないけれど、これらが戦争なのです。戦争は人を悪魔に変えてしまいます。戦争はどんなことがあってもあってはなりません。しかし、未だに戦争はなくなりません。


山本さんは結びにこう語っています。その言葉は山本さんが今一度、私たちに「平和について考えてほしい」と、天国から語りかけているように思えました。


平和な世界は、たゆまね努力をつづけなければ、あっという間に失われてしまいます。

私たち大人は、平和な社会を維持し、できるだけ広げていけるように道をつくります。

そして、これから先、平和な国づくりを実行していくのは、いま十代のみんなです。

世界は戦争ばかり、と悲観している時間はありません。この瞬間にもまたひとつ、またふたつ・・・・・・大切な命がうばわれているかもしれない ━ 

目をつぶってそんなことを想像してみてください。

さあ、みんなの出番です。



【出典】

「戦争を取材する」 山本美香 講談社


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