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『書いて覚える漢字学習から、楽しく学ぶ漢字学習へ』 かんじクラウド株式会社 道村 静江 さん

盲学校での経験から、新しい漢字学習方法を生み出した道村さん。現在の小学生の学習環境は大きく変化しているのに、漢字の学習方法だけは昔と何も変わっていないと強く問題を投げかける道村さんには、どのような想いがあるのでしょうか。楽しくかつ分かりやすく語っていただきました。

プロフィール 
活動地域:全国(海外駐在者含む)
出身地:福井県
経歴:中学校理科教諭として福井県立盲学校、横浜市立盲学校に通算18年、市立中学校に3年勤務。小学校教諭として、横浜市立盲学校に10年、市立小学校に4年勤務。2002年に「点字学習を支援する会」を設立して、視覚障害者用教材を提供し続けている。退職後、ユニバーサルデザインの学習法として「ミチムラ式漢字カード」を活用した漢字指導の改善・普及に力を入れ、全国各地で講演活動を行う。2018年に「かんじクラウド株式会社」を設立し、息子さんと二人三脚でさらに活動を広げている。
座右の銘:今できることを、最大限やりきる!

記者 本日はよろしくお願いいたします。

道村  静江  さん(以下、道村  敬称略) よろしくお願いします。

「漢字の効率的な覚え方・使い方を提供したい」

Q.    まず初めに道村さんのビジョンを教えてください。

道村 私は、外国の人たちにも日本の子どもたちにも、漢字を習得する上で効率的な覚え方や使い方を提供したいと思っています。日本語には、ひらがなとカタカナ、漢字がありますが、その中で漢字は世界でたったひとつの表意文字です。私は、特に海外の人は、そのような日本語に憧れているのではないかと思っています。ところがその日本語を学ぼうとすると、ひらがな・カタカナだけでなく、膨大な数の漢字がありますし、読み方も音読み・訓読みなど複数あり、難しくて仕方がないのではないでしょうか。日本の子どもたちに関して言えば、学校の学習以外にもネットを使ったり本を読んだり、日常生活をする上で漢字の読み書きは欠かすことができません。そうであるにも関わらず、小学生の子どもたちの多くは漢字が大嫌い。そして、使おうとしない。

だから、そのような外国の人たちが最低限日常生活に支障が出ないように、日本の子どもたちが意欲的に学習を進められるように、楽しく漢字を学んでもらいたいと思っています。

記者 確かに漢字の読み方にはすごい量がありますね。日本語習得の大変さはよく分かります。子どもたちの学習に関しても、読みにつまずいて支障が出るとなると放っておけませんね。

「全国の学校を回って学習法を指導、HPの動画で教材の使い方を発信」

Q .    そのために今はどのようなことをされていますか?

道村 部品の組み合わせで漢字を覚える学習法を体系化して、主に小学校へ導入しています。私は教員をやる中で、一般の小学校に転勤したことがありました。そうすると、その小学校の通常級の子たちはみんな単調な漢字学習が大嫌いでした。6年生でも1,2年生の漢字をなんとか使える程度という子さえいたのです。このままではいけないと思って、盲学校時代の経験の蓄積をもとに、ひたすら書かせるのではなく、例えば「"ひとやね"のついた漢字見つけてきてごらん!」って宿題を出したりしました。そういうことをやると、子どもたちは必死になって探してきます。他のクラスの子たちは誰も"ひとやね"など細かい部首の名前を知らないから、自分たちは知っているって得意がったりする子が何人も出てきました。

また、例えば"集"という字は"隹(ふるとり)"さえ分かっていれば"隹"と"木"で"集"と覚えられます。そして"集合"の"集"であり、"集まる"の"集"であるというように音訓セットで覚えさせたりしました。このように多くの漢字は組み合わせで覚え、なおかつ読み方もセットで覚えられるようにしました。そんな授業をしていると、子どもたちは「先生、じゃあこれは?」って、どんどん関心を持ってくれて、それに対して「なんでも聞かないで自分で調べてきなさい」っていうと調べてきます。また「こんな意味があるんだよ」と教えてあげると、みんな「へー」って納得する。そのような楽しい授業をしました。そうすると、今までテストで50点,60点だった子どもたちの点数が90点になるなど、大きな効果を生むようになりました。そうしているうちに他の先生方にも「道村さん、その授業はどんなやり方でしているのか教えてください」って言われるようになって、それが今の学習方法を普及することに繋がっています。

記者 なるほど、そのような独特な授業をすれば、子どもたちも喜ぶでしょうし、周りの先生方もどんなことをしているのか気になりますよね。

道村 そうですね。それで、今その学習方法を普及するに当たって、とても大切なのが先生方の頭が変わることだと思っています。今先生をされている方々は、小学生の時はひたすら書いて覚えるのが当たり前だった人たちで、かつ漢字の読み書きにほぼ苦労をしてこなかった人がほとんどです。だから私が提案する学習方法をやっていても、結局書かせて覚えさせてしまうこともあって、この学習法の意味が薄れてしまっていることがあります。だから普及活動の中で、全国の学校を回って指導したり、HPで教材の使い方の動画を流したりといったことをしています。

記者 確かに新しい学習方法を使うにはそのイメージが大切だと思います。今までの書いて覚えるイメージで指導していては、通用しないというのはわかる気がします。その指導のために全国の学校を回られているのはすごいですね。

「読み書きが苦手な子どもたちの学習が止まってしまわないように」

Q.    そのビジョンを持つようになったキッカケは何だったのでしょうか?

道村 一番最初のキッカケは盲学校での経験です。1990年代頃、全国の盲学校に情報教育の一環でPCが配備されるようになりました。その頃私は、盲学校の中高生を担当していたのですが、子どもたちは点字は読めても漢字教育を受けたことがなかったので、PCが音声で読み上げても何を喋っているかわからないといった状況でした。例えば、"浅漬け"というと、漢字のわかる人だと、"浅く漬ける"ということが簡単にわかります。ところが全盲の子どもは、"あさづけ"と音でしか認識できないので、"朝に漬ける"などと勘違いをしてしまいます。そして、そういった勘違いを山のようにするのです。会話の中での勘違いは笑い話で終わるのですが、メールや文章を書くとなると誤字があまりにも多くて恥ずかしい思いをします。だから子どもたちが大きくなって、世の中に出るに当たって、漢字の知識が必要だと思うようになりました。

記者 なるほど、確かに音声だけの認識では、それが何を指しているのかわからないことはたくさんありますね。すごく納得します。

道村 はい。そして、その課題をクリアするために、最初は中学生・高校生に自立活動という時間を使って、付け焼き刃的に指導したことがありました。でもそれは、大変な上にお経を唱えるようにひたすら読んで覚えるという、全然面白くもなんともなかったのです。子どもたちは必死に暗記していたのですが、当時はそれしかしてあげられることがなくて、かわいそうに思っていました。それがキッカケで、小学部に異動した時に全盲の子どもたちのための漢字教材を作るようになりました。全盲の子に書かせる必要はないし、弱視の子には書く負担をできるだけ少なくしてあげたかったので、漢字の書き順とか細かい形の話とかではなく、漢字を組み合わせで唱えさせたり、漢字ができたときの楽しい話をしたり、「こんな言葉は聞いたことあるでしょ、それはこういう言葉にも使われているね」とか話しながら授業をしました。先ほどの"あさづけ"を例にすると、今までは音でしか頭に浮かばなかったことを朝につけるから"あさづけ"と言うのでなく、浅く漬けるから"あさづけ"言うんだよと解説に重点を置いたのです。そうすると全盲の子どもたちはみんな漢字にハマって楽しいとか面白いとか言いながら、漢字を大好きになりました。

記者 音だけじゃなくて、それが何なのかというイメージが膨らめば、初めて出会うものばかりできっと楽しいですよね!

道村 そうなんです!それで漢字1字の説明も、例えば"大きい"はどうして"大"と書くのかと小学校1年生の子に教える時に、寝転がって「ほら触ってごらん、この字と同じでしょ」と言いながら授業をしました。そうすると「本当だ!同じだ!」って言いながら子どもたちも同じポーズを取って楽しく学んでくれたのです。他の字も、例えば"肉"だったら「どうがまえ、人2つ」、"南"だったら「十、どうがまえ、羊の一本なし」などと漢字の構成すべてを口で言えるようにし、漢字を部分のかたまりで理解させるようにしました。そうすると「先生、これは?これは?」と子どもたちは次々と聞いてくるようになりました。その流れで小学校1年から6年まで、さらには中学生の漢字までの漢字学習教材をひたすら作り続けました。そうしてやっていくうちに、低学年で基本漢字、2、3年で部首部品が多く出てきて、4年生以降が新しく出てくる形が極端に少ないことがわかったのです。だから3年生までをしっかりマスターしていればほとんど理解ができることもわかりました。そのように授業していった結果、子どもたちは目が見えなくても漢字が大好きになって、水戸黄門とか歴史番組も楽しめるようになりました。そしてさらには、大学の日本史学科に入った子もいました。みんながみんな、そんなふうに賢いわけではなかったけど、楽しいと思わせれば飛びつきます。それにすっごい手応えを感じました。

記者 なるほど、そのような経験があったのですね。でもなぜその経験が、漢字の効率的な学習方法を提供したいという夢とつながるのですか?

道村 はい、それには日本語の言葉だからこその理由があります。私たちが使っている言葉には、訓読みと音読みがありますよね。小学校1年生から3年生までは、だいたい物語にしても教科書のレベルにしても、訓読みで処理できます。たまに漢語も出てきますが、それくらいの学年のものは普段から聞き慣れているものなので、問題にはなりません。ところが4年生以降になると、急に聞き慣れない漢語が増えてくるのです。だから音だけで言葉を覚えていた子どもは、何を言われているのかわけがわからなくなってしまいます。そして最終的には内容がわからなくなって、勉強嫌いになってしまうのです。この漢語の壁を超えれなければそれ以降、中学でも高校でも学習が止まってしまうのです。そしてさらに、大人の会話やニュース、情報番組、ドラマも使われるのはほぼ漢語なので、その漢語の壁を超えられなければ、社会で困ることが多くなるのです。

そしてここからが、今の学習方法を普及するに至った直接の背景なのですが、最初は全盲の子どもたちの読み書きのためにやっていたものの、彼らには読み書きが弱くても仕方がないという世間の目があります。ところが問題は、目が見える子どもたちの中にも読み書きが苦手な子どもたちがいて、発達障害や学習障害などの特性があって、読み書きが著しく困難な子どもたちが増えていることです。そういう子どもたちは、社会に出るにあたって絶対に読み書きが必要なのにも関わらず、その学習が満足にできないのです。書きに関してはテストがあるので書けないことが明らかになりますが、読みに関しては口にしなければいいので、かなり隠せてしまいます。例えば"車中"というのは"しゃちゅう"と読めなくても、漢字1字1字の意味から単語の意味がわかってしまいます。だから、うやむやのままにしてしまうことができるのです。そうなると大前提の読み書きの壁がクリアできていないから、理科とか社会とか言っていられず、それ以降の学習がストップしてしまいます。それで高学年になる頃には勉強を嫌いになり、中学校では学習意欲が湧かない行動が出たりしてしまいます。結果的に社会に出るときには、選択肢の幅が極端に狭まってしまうのです。

記者 確かに、目の見える一般の人はそこでつまずくとまずいですね。一生使う言葉だからこそ必須だと思いました。

道村 そうなんです。その漢字学習に対して、今までと変わらない、ひたすら書かせる学習方法では、無理があります。だから楽しくさせないといけない。先生は、子どもたちに楽しい教え方をして、興味を持たせることが大切です。そうしたら子どもたちは自然に自ら学び始めます。

記者 なるほど、漢字を楽しく教えること。そのための学習方法なのですね。納得しました。どんな分野でも関心を持って、楽しく学ぶことは大切だと思います。本日はありがとうございました。

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道村さんに関する情報はこちら
↓↓
●しずえばあちゃんの回想録 “We Can Do It !”
https://ameblo.jp/shizuegrandma/
●ミチムラ式漢字学習(かんじクラウドのHP)
https://kanji.cloud

■編集後記
道村さんは、とても気さくに楽しくご自身のされてきたことを語られ、同時にその現場の雰囲気を感じさせてくださったことが印象的でした。子どもたちを楽しませる授業がどんなものなのか、聞いているだけで楽しくイメージさせていただきました。また、子ども達の学習を取り巻く環境が昔とは大きく変わっているのに、漢字の学習方だけは何も変わっていないと訴える道村さんの熱意もしっかりと受け止めさせていただきました。
外国人も子ども達も楽しく漢字を読み書きできるように、さらに多くの方々に知っていただけることをお祈りいたします。

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この記事はリライズ・ニュースマガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36



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