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いつか、死んでしまうから。

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私と誰かの記憶の断片。
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おうちのさいご、を観て。

おうちのさいご、を観て。

知り合いの実家が最期になるから見てってください、という情報だけを聞き録画された映像を見た。思い出が詰まった家の最期なんて考えたくないけど、いつかやってくる。
私は最期の足音が聞こえつつある実家の現実を直視したくないけど、看取る運命にある。

他人の家のことを見ていいのだろうかという罪悪感とともに見ていた。
全然知らない家なのに、冷蔵庫に残ったものや部屋に置いてある、空っぽの鳥籠に生活感があって怖か

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呪縛と溶解

呪縛と溶解

障がいを持ってる家族がいる。
だから一生結婚はできないと思う。

深夜、お酒をひとしきり飲んだ後で聞いた。
肯定も否定もできず、そうなの?と言った。
今思うと不躾だったと思う。

子どもへの遺伝とか考える人もいるみたいでさ。
障がいのことを笑う人がいるけど
殺してやろうと思うね。

普段の性格からは考えられない一言に息を呑んだ。
やましい気持ちがあったからではない。
誰しも狂気を持っていると気づい

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習性と逸脱

習性と逸脱

香りは最大の暴力。
人は声を最初に忘れ、次に見た目を忘れる。
しかし、それらを一度に思い出させるのが香り。

どこかで読んだ一文だった。

そんな話を深夜、社会人になりたてだった私は知人の家に泊まった日になぜか口にした。そんな詩人みたいなことを誰かに言うなんて思いもしなかった。
きっと夜とお酒のせいだった。

笑われると思ったが、真剣に知人は耳を傾けて聴いた。そして一瞬の沈黙のあとに、こう言った。

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ショートストーリー#1

ショートストーリー#1

ずっと悩んできた。このままでいいのか。
一つの場所にとどまり続けている。
周りは変化していく。

正解かどうかなんてわからない。
ここにいると甘えてしまいそうだ。

1人くらい、とめてくれるやつはいるだろうか。

ずっと残り続けているやつもすごい。
自分にはできない選択だった。

よし、と腹を決めいつものようにドアを開ける。
「おはよう」聞き慣れた声を耳にした瞬間、何かが揺らぐのを感じた。

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【詩】とある恋愛の条件

【詩】とある恋愛の条件

サンマルクカフェ、桃のスムージーは選ばない。

ケンタッキーのクリスマスパックを買わない。

映画のタイトルを聞かずに行く、と言わない。

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部屋の掃除のあと「お疲れ様」とメモを残さない。

脱ぎ捨てた洋服を見て「殺人事件だ」と言わない。

自分が深夜遅く帰ってきても起きない

上記と真逆な行為に
一瞬で惚れる自信がある。

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【お知らせ】

①エッセイの

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【詩】冬の微熱。

【詩】冬の微熱。

「好きな人がいるのに好きな人ができた」

久しぶりに連絡した友人が呟いた。
誰にも言えないから、と写真が送られてくる。
穏やかで私も好きになっちゃいそうだよ、なんて
普段絶対言わない言葉を返す。

「でもね、彼氏と将来の話もしてるから
もう会わない。きっと、会えなくて寂しいから
そう思うだけなの」

悲しそうに、苦しそうに、自分を責めるように、
彼女は再び呟いた。

彼氏に会ったらまた違うよ、なん

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【エッセイ】振りまわされたい、の真意

【エッセイ】振りまわされたい、の真意

喧嘩を売るつもりはない。が、風の時代と囁く声に一言言いたい。

私は今を生きている。誰かも。そして今は2022年11月の最終日。

数字や日本語がなければ、どうやって今を表していただろうか。
今までも人は変化し続けている。

今年始まったことではない。

いつだって動くときは動く。
変わるときは変わる。

そんな私はしいたけ占いの信者です。
唯一、踊らされてもいいと思える。

どうせ振り回されるな

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朝

棒のようになった足を引きずり、家に帰る。

「ただいま」  無意識で言葉が出てしまう。

つい数時間前まで彼女がいた部屋を見渡す。

深夜、浴びるように飲んでそのままになっていた空の缶ビールを手に取る。
昨晩の思い出が消えてしまいそうで元の場所に戻した。

空が明るくなってきた。

昨晩の出来事を思い出したくなくてベッドへ戻る。

あの香水の香りが充満していて、誰にも聞こえないはずの嗚咽を我慢しな

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