見出し画像

1-2*高度経済成長期との出会い|1章 はじめに|ニューロマン都会編

入社3年目にはいよいよ精神状態が悪くなり、出社したとたんに涙が止まらなくなる日が何度かあった。だいぶ前から自分は鬱病ではないかと思っていたが、病気だと診断されることが会社から逃げた甘えだと思われる事が怖くて病院に行く勇気がなかった。

そのような暮らし向きの悪い生活をおくるなか、ゴトウイズミさんの「昭和喫茶にて」というアルバムに出会った。
ゴトウイズミさんはアコーディオンの弾き語りアーティストで、物悲しいアンティークアコーディオンの音色が疲弊した私の心に染みた。そして、楽曲に登場するような喫茶店へ実際に行ってみたいと思うようになった。

時が止まったかのようにゆったりと時間が流れる空間。老若男女のとりとめのない世間話。コーヒー1杯350円で一日に一体いくら利益が出ているのだろう…と効率化とは程遠い経営システム。
普段の生活には無い物ばかりが喫茶店にはあった。そして何より素晴らしいのが内装だ。アールがかった棚やカウンター、ベルベットのソファー、カラフルでポップなデザインの照明やゴージャスなシャンデリアなど、これまた効率化とは程遠い豊かな意匠に胸がときめいた。

それらの多くは昭和の高度経済成長期に作られたものだった。
私は次第に、高度経済成長期の文化全般に関心を持つようになった。

それ以降、取り憑かれたかのようにまちの中に埋もれてしまっている昭和らしさを探すようになった。すると、そこで出会う昭和らしいコミュニケーションによって私の精神状態は急速に回復していった。

私は鬱病ではなく、昭和欠乏症だったのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?