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新連載 『 15ちゃい 』 第5話


5.    バックヤード



次の日、私たちはステージの下にいた。
待ち合わせ場所だ。
ステージの上では目立つので下にした。


ステージの上では小さい子供達が、
はしゃいで走り回っている。


私はもうすっかりステージの上で、
はしゃぐ子供ではなくなっていた。


なんせ今から仕事の面接をするのだ。
すっかり大人だ。


でも私はステージの上で、
はしゃぐ大人に憧れている。


「おー真田!早いやんけ!」


私は学校を半分サボったので、ずいぶん前からここに居た。
いつも通りステージの近くでぼーっとしていただけだ。


「ほんなら、行こか!りれき書持ってきたか?」


「バッチリや!」


なんせ、まだ高校生になったばかりだ。
書くことの少ないこと。


小学校を卒業して、
中学校を卒業して、
高校に入学したばかり。
書くのはこの3つだけである。


あとは住所と電話番号と保護者の欄。


私は自分で勝手に保護者の欄を埋めた。
アルバイトに受かるかどうかも分からないし、
働くかまだ分からない。
働いてお給料をもらえてからでもいいのではないかと思って、
まだ親には言っていない。
悪いことではないのに。


もう一つ書く箇所があった。
志望動機だ。


これは簡単だ。
『お金を貯めてバイクを買いたい為。』
中田のを真似た。
さすがに、
『お金を貯めてCDを買いたい為。』では、
笑われるだろうから。


「さあて、行くか!」


「おー!」


私たちは階段で2階に上がって『ダイエー』の中に入った。
入り口のフードコーナーを通り抜けて店内に入った。
どこに行けばいいのか、さっぱり分からない。


レジに来た。
レジに立っている女の人に声を掛けた。


「すいません。」


「はい、どうされました?」


「あのー、アルバイトの面接に来たんですけども。」


「えっと、どうしようかな?えっと・・・」


高校生がアルバイトの面接に来た時はどうするのかを
知らなさそうな母親くらいの歳の女の人だった。


「きっとバックヤードね。じゃあ、一緒に行きましょうか。」


そう言って、その女の人はレジを休止中にして
レジから出て、私たちを案内してくれた。
私たちはその人に付いていった。


そして普段なら行き止まりの壁まで来た。
いよいよである。
客の時から気になっていた
従業員しか通れない銀色の開き戸を押して
中に入っていくのだ!
楽しみでしかたない。


「こっちでーす!」


そう言って女の人は勢いよくバーンと
銀色の扉を押した。


急に薄暗くなった。
床も汚くなった。
ダンボール箱で通路は、ごちゃごちゃとしている。


店内とは全く違う雰囲気に驚いた。
これが『働く場所』なのか!
特別な場所に案内されている気がして
ドキドキした。
秘密のアジト。そんな感じがした。


「あれ?こっちじゃないなー。こっちかな?」


そう言って女の人は来た通路を引き返したりして、
誰かを探してくれていた。


「あー、いたいた。こちらです、こちらです。」


そう言って中が見えているドアをノックした。


「コンコン!失礼します!ガチャ!」


中は職員室のような事務所になっていて、
女の人が一人、案内してくれたレジの女の人とは違う服を着て
座っていた。
明らかに『責任者』だ。



「えーっと、アルバイトの面接ですね?」


こちらを見て言ってくれた。
たぶん、電話した時に話した女の人だろう。
自信は無い。
私たちはどうすればいいか、わからなくなっていた。


「はい、そうです。」


「では、こちらにどうぞ。」


そう言って女の人は立ち上がって
歩き出した。


私たちを無事に届けてくれたレジの女の人は
「では失礼します。」と言って去っていった。


何も上に置いてない長い机に
椅子が向き合うように4つ置いてある。


「はい、どうぞ。ここに掛けて。」


「(はい)・・・・。」


私たちは『はい』と返事したつもりだが、
たぶんもう言葉になっていなかった。


行儀よく座り、次を待った。


4.5枚ある書類を私と中田の前に置いて、
女の人は目の前に座った。


「それでは面接を始めます。
先に持って来ていただいた履歴書をお預かりします。」


わたしたちはものすごい早さで自分の履歴書を提出した。


「ではお預かりしますねー。」


女の人は私たちの書類に目を通し始めた。
下を向いているので女の人の顔をじっと見ることが出来た。


髪の毛
眉の形
目の形
鼻の形
唇の形


「ふたりともバイクを買いたいのね?」


そう言って女の人は顔を上にあげた。
その瞬間、私は見事に目を逸らして遠くの壁の時計を見た。


「はい!」


本当にバイクが欲しい中田の返事は輝いていた。


「15歳かー。若いなー。」


「えっ?不合格ですか?」


私は女の人のおでこに向かって言った。


「いえいえ、大丈夫ですよー。きっと。」


「きっと?」
私たちのハーモニーはぴったりだった。


「今から簡単なテストをしますので、それの結果次第では不採用になることもあります。」


「は、はい。」


「でもあなた達は現役の高校生だから大丈夫よ。では、手元の書類の1枚目から行きますねー。申し遅れました。私は人事担当の五十嵐と申します。」


なんだ。前説だったのか。
もしくは枕か。


今からが面接の本番のようだ。


書類をめくりながら、このお店のことや従業員としてのルール。
身だしなみや服装や、禁止事項などの説明を聞いた。


「それでは、4枚目に必要事項を記入してください。ペンはありますか?」


「はい!」


履歴書で書いたようなことをこの4枚目の書類に書いていった。
最後に『希望の部門』と書いたあった。
第一希望と第二希望とふたつ丸をする必要があった。


レジ
青果
精肉
鮮魚
惣菜
グロッサリー


分からない!
肉と魚とレジは分かった。


なんだ?グロッサリーって!
ネーミングがかっこいいではないか!
これにするかな。


あとは惣菜か。
おそうざいを作る係かな。
いいなぁ。
きっとパクッとつまみ食いが出来るに違いない。
こっちを第一希望にしよう。


ふたつに丸を付けた。


中田を見た。
思いっきり太い丸でグロッサリーを囲んでいる。
もうひとつは?


レジ!


花形を目指していたのか!
しかたない。
私が裏で支えようではないか。


「書けましたかー?」


「はい!」


だいぶ、場に慣れて来た私達。


「それでは最後の5枚目ですね。さっき言ってたテストをしてもらいます。
その紙は回答を書く紙になってるので、問題用紙はこれです。」


そう言って五十嵐さんは私達二人にそれぞれ問題用紙を置いた。


「制限時間は10分。電卓は持って来てないと思うけど、使わないでくださいね。では始めます。準備はいいですか?」


「はい!」


「それでは、始めてください!」


私達は問題用紙の1ページ目を開いた。


① 1000 - 198 =
② 1000 - 568 =
③ 1000 - 374 =
④ 1000 - 92   =
⑤ 1000 - 986 =


なんなんだ?この問題は?
全部1000からの引き算じゃないか!


私はそろばんを習っていたので、
得意だった。


中田が大丈夫か気になったが、
横を見たらカンニングだと思われてしまうので見るのは止めた。


問題用紙は何ページもある。
かなり分厚い。
10分で全部できるかどうか分からない。
問題は簡単でも、量が多すぎた。


しまった!
3ページ目からは国語だ!
ずっと計算だけかと思っていたら違った!


私たちは『一般常識』という言葉をまだ知らなかった。
社会があり、理科があり、言葉遣いなどのマナーの問題が出た。
しかし、受験を経験してすぐの私達には余裕だった。


「はい!終了でーす!ペンを止めてください。」


問題は簡単なのに、量が多かったので全問出来なかった。
受かるだろうか?
中田を見た。
疲れたのかガクッと肩を落としているではないか。
大丈夫か心配になった。


「どうやった?」


「全然時間が足りない。問題の量が多すぎる。」



その会話を聞いて五十嵐さんはニコッと微笑んだ。


「もしかして満点めざしてない?これは受験とは違うから、ある程度常識のある人かどうか調べるためのテストよ。点数が高いから合格というものでもないのよ。」


大人の世界はよく分からないな。


「ではこれで面接は終了です。また合否を連絡します。この夕方の時間なら家に居てるのかな?」


「はい!居ます!」


わたしたちはさっきから息がピッタリだ。


「ではあなた達と一緒に働けるのを楽しみにしています。面接は以上です。」


終わった・・・
疲れた・・・
ちゃんとした仕事をするには、
これだけのちゃんとした面接を受けなければいけないのだと知った。



バックヤードから店内には戻らずに
『従業員専用出入口』から外に出た。


外の空気が美味しい。
一般人に戻れたのだ!



帰り道でふと思い出した。


『明日から、いけるか?』
新聞屋さんのおっさんの声が懐かしい。
なんて軽いんだろう。


【ジャージ姿で働ける仕事は軽い】


15歳になって、たったの4ヶ月で、
こんな名言を思い付くなんて・・・


〜つづく〜

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