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連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その79


79.   スーパーナオキ



日曜日。
久しぶりに何もない一日になりそうだ。

朝刊は配り終えた。
朝ご飯も山盛り食べた。
優子さんにごちそうさまを言って颯爽と
お店を飛び出した!
解放の瞬間だ!


そう!
今日の夕刊は無く、
明日は休刊日!
さらにコンビニのバイトも休みだ!
一体、何時まで自由なんだ!
もう分からないぞ。
腹が減ったら行けばいいか。
さわやかだぜ!

なんて良い気分!
永遠に続きそうな自由を感じる!
雲一つない青い空の爽やかさを感じながら
自分の部屋に戻った。
もちろんビールをたっぷりと買って。
しかし今日はビールだけでは済みそうにない。


久しぶりの休みだからと、
奮発してワインとウイスキーも買った。
つまみのお菓子も買った。
そして誰にも見られたくない本も買った。



買った本を無事に誰にも見られることなく
部屋に辿り着いた。
部屋に鍵をかけたいが外からしか掛けられない。
あきらめよう。
ドアを閉めた。


イェーイ!!

今日はもう絶対に外には出ません!
好きなだけ飲んで食って抜いてやるぞー!


しかし、この1週間は怒涛の日々だった。
刺激の多い1週間だった。
体に溜まった疲れとアレとアレを
一気に抜こうとスタートダッシュした。

私はテレビを見ながら
こたつにはエロ本を広げ、
ビールとワインを飲み比べながら
お菓子を食べ、
ギターを弾かずにただ抱えていた。


これで溜まったものを一気に
放出できるはずだ。

どうやらギターが息子の成長を邪魔しているようだ。
向こうに向くように裏返しで
ギターをギタースタンドに立て掛けた。


まずは射精した。
大量だった。
その瞬間、一気に心が冷静になった。
いや、この世界から冷めた。
全てがバカらしく思えてきて
何事も、たいしたことのないように見えてくる。

静寂が欲しくなった。

私はテレビを消して
エロ本と丸めたティッシュをゴミ箱に投げて
目を閉じてから耳を澄ました。
座椅子に体を預ける。
ギターはそっぽを向いたまま。

まだ虫が鳴いているのが聞こえる。

鳴いている虫は全て
オスだとどこかで聞いたことがある。
メスを呼んでいるようだ。

直接本人たちに聞いたわけではないが、
人間も同じだろう。

特別男前のコオロギなら
メスの方から寄ってくるのかも知れないし、
特別男前でなくても
食べ物をいっぱいくれて
優しくしてくれるスズムシなら
メスの方から求愛してくるだろう。

メスの直感は偉大である。

そうだよな。
普通のオスは
鳴かないとメスはやって来ないよな。

私には鳴く勇気は無かった。

代わりに
ギターをポロんと弾いてみた。


全然鳴いてはくれなかった。
ロックとセックスは諦めてアルコールに向かった。

ビールもワインも大親友だが、
もう卒業なのかも知れない。
ここはひとつ大人になる為にと
ウイスキーを開けた。
そして瓶のままラッパ飲みした。
これくらい強い酒でないと
今日の私は癒されない。
いや癒されるだけでは物足りない。
癒された先に何かがある!
そんな気がしていた。

今日で生まれ変わるんだ。
今日とは全く違う自分で生きていくんだ。
今日までは子供で明日からは大人。
そんな意気込みだ。

キノコを食べて
小さいマリオから大きなマリオになるようにだ。
マリオからスーパーマリオに変身だ。
私は今、スーパーナオキになる時が来たのだ。
さあ!キノコを食べよう!
大きくなるためのキノコから抽出したエキスが
ここにあるではないか。ウイスキーというやつが。
ふんだんに大人エキスが入った
この飲みものを飲むとしようか。


中身も外見もヘンテコリンな頭で、
そんな事を妄想しながらウイスキーの瓶に
ベタベタの口をとんがらせて付けて
そのままグビグビと飲んだ。

気持ちがどんどん大きくなっていく。
スーパーナオキの誕生はもうすぐだ。
でもさっき射精したから
イチモツのほうは小さいままのナオキ。
バランスが悪いな。
どっちも大きくないと本物のスーパーナオキには、なれないぞ!
大丈夫か!ナオキ!

また私は私に話しかけて興奮していた。

ん?ここはどこだ?
意識がワープしたかのようだ。
ただ寝ていただけか。


目を開けようした。


あれ?
目が開かないぞ。
なぜか目が開かなくなっていた。
目は覚めている。
意識はある。
瞼が開かないのだ。


目が開けられない。
両目ともだ。
おっ死んでしまったのかな。
やはり私は地獄に落ちて真っ暗闇を
さまようことになったのだろうか。

いや、この手触り。肌触り。
いつもの自分の部屋の絨毯だ。これは。
手は動いた。


しかしなんで目が開けられないんだろう。
寝ている間に接着剤でくっ付けられてしまったかのようだ。
んー。開かない。
おでこにしわを寄せるだけで終わってしまう。

手で無理矢理、瞼を開けようとして、
上半身を起こした。

その瞬間だった。


き、き、きもちわるい〜!


今までに感じたことのないくらいの
気持ちの悪さがドッと押し寄せてきた。
また体を床に投げた。

うぉぇえ〜〜。
きっ、気持ち悪い!


めちゃくちゃ気持ち悪くて吐き気が押し寄せる。
ダメだ!気持ち悪すぎて起き上がれない。
なんだ!
何があったんだ!
私は一体何をしていたんだったっけ?
真っ暗闇で考える。


飲んでいた。
ビールとワインとそれと・・・・
あ、ウイスキーか。
思い出した。


朝っぱらからずっとビールとワインとウイスキーを飲みながら
なんか辛いお菓子を食べて・・・



ダメだ!思い出したら吐きそ・・・ゲボゲボ


「かぁはっ!」


自分の部屋に思い切り吐いてしまった。
ダメだ、何も考えられな・・・ゲボゲボ


「ぎぼぢばぶび〜」


薄い壁を蹴りながら叫ぶように吐いた。


「ん?どした?」


坂井の声が聞こえたよなうな気がしたが
意識を失った。

しばらくしたら
うっすらと竹内の声が聞こえた。


「だめだ!俺たちじゃ手に負えない!
お店に電話しよーぜ坂井。」

「おう。」


二人の会話が聞こえてきた。
二人を見ようとした。



目がぁ・・・
目が開かないぃ・・・



〜つづく〜

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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。

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