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(5)実は秘めた軍事力を有する国家、ビルマ(2024.4改)

ビルマを訪問していた国連監視団が作成したレポートには国内状況が改善している様が書き連らねてあった。

「イラワジデルタ一帯を始め、大半の田植えを機械が植えてしまった」

「田植えと稲刈りがバギー型農耕ロボットで行われ、余剰労働力をアパレル工場や、国内最大手企業グループだった軍が経営していた工場や商店での雇用にシフトした」

「ラングーン(旧ヤンゴン)沖合での海上太陽光発電により、ビルマ南部の電力供給量が増加。停電が無くなった」
ビルマの人々には電気が普通に使えるようになったのが喜ばしかったのだろう。
旧ミャンマー軍が経営していた電力会社を接収し、PB Enagy社が事業を継承し軍が優先的に利用してきた電力を一般に開放しただけなのだが、人々が民生化を歓迎しており、街に活気が見られるようになったと、軍政下のミャンマー時の映像との変化を強調していた。

監視団の中には軍関係者も多数含まれていた。
旧ミャンマー軍を制圧したプルシアンブルー社のテクノロジーを把握するのが監視団の主な目的で、これらのレポートは各国の軍隊内で報告資料として出回っていた。

山岳少数民族が主体となった新生ビルマ軍も何も隠さず、監視団に全てを晒した。
対抗策や攻略方法を各国に永遠に考え続けるループへ陥らせる為だ。核攻撃して国ごと葬るか、損失覚悟で掃討作戦を実施するか、2択となるだろう。
中国・ラオス・タイの国境警備隊には無人の自立型兵器の数々が配置され、国境という特殊性のある一帯で長時間労働を強いられていた状況から開放され、少数民族部隊が有していなかった航空戦力は、操縦ロボットが早期警戒管制機や中国製戦闘機J-17に搭乗して、領空の監視活動に当たっていた。
また、「そんなに搭乗者が居るのか?」と民間機での移動中に国連監視団が疑問に思ったのが、ビルマ内に5社もある航空会社の存在だ。プルシアンブルー社は操縦ロボットを5社に公平に提供していた。
5社の機体のメンテナンスも順次請け負う意向だという。とにかく、この新体制スタート期は全ての面で安全を徹底するらしい。
「事故一つで国家運営に支障が出かねない。新体制に対しても疑問符が付いてしまうので、細心の注意を払っている」と言われると、頷くしかない。列車もダイヤ改正し、列車運行管理システムを年内に導入し、操縦ロボットを順次配置してゆくという。
コンサルタントと国家自体のシステムインテグレーションに、プルシアンブルー社がどっぷり関与し、国を刷新中だというのが有り有りと分かる様に仕向けた。

軍に話を戻すと、ミャンマー軍政時は40万人も居た陸軍が1万人となり、国土防衛能力は数倍に改善されていると、ベトナムとインドネシアの将校が発言するとまた騒ぎになる。
無人化し、効率性を求めた結果だとして、両国の軍隊が汲まなく調査した内容を参照する。

国連監視団が滞在したのは首都バーマ(旧ネピドー)とラングーン(旧ヤンゴン)の2都市と、ラオス国境地帯の3箇所だが、国土全体で大改編が行われているのを知る。
それだけの投資をプルシアンブルー社はビルマ一国に投じているのだと、各国の軍事関係者は唸った。とてもではないが北朝鮮に肩入れしたり、他国に投資するなど出来るはずがないと誰もが察する。

とはいえ、実態は全てレンタル価格を設定した上で提示しており、旧ミャンマー軍の年間軍事費(2021年は21億0782万ドル)を丸々頂戴している。
プルシアンブルー社の収益計画としてはビルマ経済全体を活性化させて数倍規模を達成し、今までの国家予算で突出していた軍事費用(=年間レンタル額)をそのままに、GDP812億5700万ドル(MER 世界67位)に占めるパーセンテージ約2.5%を徐々に下げて、日本の防衛費の基準でもある1%以内にするのを狙っている(・・誰にも言えないが)

軍への入隊希望者が減少傾向にあるのは、世界各国共通の問題となっている。
その世界的な状況下、人的資源不足に補填が可能なテクノロジーが登場し、実際に配備されているのを目の当たりにした。
当然ながら誰もが欲しがるのだろうが、プルシアンブルー社の回答は「No」だ。ビルマで手一杯で身動き出来ない体を装う。
「私達は兵器産業としての成長は、全く考えておりません。それに、ビルマで手一杯で社内に余力がありません。弊社は昨年設立した新興企業なのです」と回答する。
それも「国連監視団」として入国している面々に対して、プルシアンブルー・エイジア社の志木佑香社長がはっきりと言及する(・・「余力が無い」発言は作為的。社の意向でもある)

「国連の活動にビルマ軍とASEAN軍は積極的に参加してまいります。紛争地域で人的介入が困難な環境や危険な場合は我が軍の自立型兵器の数々を投入するのが安全かと思いますので」と軍のスポークスマンがコメントする。
つまり、「ビルマ軍だけが請け負える国際間での作戦や作業が増えるかもしれないが、ビルマができる限り請負うよ(勿論、タダ働きはしない)」という話だ。
軍関係者の中には「これではビルマ軍ASEAN軍というより、プルシアンブルー軍だ」と宴席の場で笑いながら宣った方も居た様だが、志木佑香社長は否定せず笑っていたらしい、「微笑むしかなかった。だって、事実なんだもの」と富山の幹部達に報告する。
実際、製品開発、AI開発を推進する上でプルシアンブルー社はビルマを徹底的に活用するつもりで居るからだ。

監視団とは別に、クーデター未遂後の治安保全に参加したベトナム、インドネシア、バングラディシュ等の国は「ASEAN軍に参加する」体で、プルシアンブルー社のテクノロジーの供与を続ける。シンガポールやブルネイ、マレーシアなどのASEAN内のプルシアンブルー社との繋がりのある国も同様だ。採用するパッケージはそれぞれ各国で異なる。

この手の情報は諜報機関や諜報部隊を持っている国でも報告されているのだろうが、諜報部隊から情報を聞いて深刻な事態に陥っていたのは、中国とパキスタンだろう。

旧ミャンマー軍が購入したJ17戦闘機は、中国とパキスタンの共同開発機だ。最近になって中国との国境警備に投入しているが、操舵しているのがロボットなのは中国側のスクランブル機による撮影で確認されている筈だ。ロボットがVサインしているだろう。
「ロボットによる操舵以上に厄介なのが、J17と編隊を組んでいるUAV3機だ」と思っただろうと想定している。
早期警戒管制機と目される航空機とも編隊を組んでいるUAVをJ17のAIロボットが自在に操るので、J17自体の機動力・攻撃力が大幅に向上していると勝手に予想している筈だ。

ビルマ軍はミャンマー軍よりもタチが悪い。
ビルマが西側で国境を接するインド、バングラデシュに対して「J17とは、こういう戦闘機です」と詳細データと共に渡しているのだ。しかも、中国の諜報部隊が監視している場で。
「2カ国とは事を荒立てるつもりはない」という証なのだが、J17が主力戦闘機となっているパキスタンには厳しい展開となったであろう。パキスタンと犬猿関係にあるインドに、データが漏洩したのは痛撃となったに違いない。中国とパキスタンは早急にJ17の改良型の開発を進めないと、有事ともなれば全機、撃墜されるだろう。

「中国の挫折」はそれで終わらない。
シンガポール空軍のF15と、プルシアンブルー社のUAVが編隊を組んで、ビルマ空域を飛び始めている。シンガポール政府とプルシアンブルー社が協定を結んだのだが、F15のUAVとの連携はその協定の最初の試みだと察している筈だ。
また、シンガポール軍の戦車がタイ東部の工場に運ばれ、シンガポール海軍基地ではフランス製フリゲート艦の改良作業をプルシアンブルー社の社員が混じって行っている。

国連には「兵器産業に参入するつもりはない」「余力は無い」と言いながら、同盟国の兵器には大いに加担すると知らしめる。そのような内容の諜報部隊の報告が、中国共産党中央本部に提出されたのではないだろうか。

中国への追撃は終わらない。
ビルマ軍が中国にとっては最悪とも言える映像を投稿する。
シンガポール空軍のF15とF16と、ビルマ空軍のJ17をビルマ沖の海上で模擬戦、ドッグファイトを行った。結果、加速も旋回性能もF15,F16の圧勝となり、中国が第4世代戦闘機として販売しているJ17は第3世代戦闘機クラスだ、と扱き下ろす。

「購入はお勧めしません。次回は中国製戦車と西側諸国の戦車を比較する」と「バーマくん」というビルマ軍のアバターが発言する動画が、世界中でバズっていた。
ナイジェリア、スーダン、ジンバブエではJ17導入を検討していたのだが、候補から外れた。
他のアフリカ諸国も検討対象からJ17を外したという。パキスタン側が作成した映像「F16よりも扱いやすく、その上性能は全ての点でJ17が上回る。17と名付けたのはそういう意味です」というパイロットの発言集を「嘘だ」と暴いた。
・・そもそも、先に手を出して来たのは、あなた方なのだ。

ーーーー

「ニュージーランド空軍には戦闘機はない。対潜水艦哨戒機P8、C130輸送機、それぞれの護衛機としての能力をUAVに求めてきた。
海軍は2艦の古いフリゲート艦を主力としている。このフリゲート艦をシンガポール艦同様に改修し、新規にミニ空母にUAVと各種ドローンを搭載し、新造する護衛艦とディーゼル潜水艦で艦隊を組む。陸軍には200台の装甲車が主力で、戦車は無い。故に陸兵をカバーする、武装したAIバギーと攻撃ドローンのペアを各部隊に一定数配備する・・」

ビルマ軍との連携、兵器の共有を想定してニュージーランド軍の改編案を、コンサルタントが作成していた。
都議会で自滅党と都民セカンドの都議が喧々諤々と論争を始めたので、鞄からそのプランが書かれた資料を取り出して読んでいた。

コンサルタントとエンジニアを首都ウェリントンに引率した、ブルネイ・バンダルスリブガワン支店の結城 綾が、当座必要となるIT機器一式を火垂の宿舎に届けてくれたようだ。
母親の鮎から託された荷物は嵩張っていただろう。綾には悪い事をしたと思っていた。4月の入学式には一時帰国するので、恐らく日本の加工食品の数々をダンボールに詰め込んだに違いないと思っていた。

火垂から電話越しに初めて言われた『母さん」で大泣きしたらしいが、ここへ来て祖母、初孫の間から「母子関係」に転じて、母ちゃんモード全開の様相だ。「息子って響きが、堪らんのよ」と娘の蛍の前で何度も言ってニヤニヤしているらしい。

あの日、与那国島での寝物語にモリは驚いた。

「学者だった母が私を産んだのは、クック諸島の小さな島だったんだって。あなたクック諸島ってどこにあるか知ってる?」
「南太平洋の何処かで、ハワイのもっと先・・それしか分かりません・・」

「私も赤ん坊以降は訪れていないから偉そうな事は言えないんだけどね・・。実は凄く離れてるんだけど、ニュージーランド経済圏なのよ」「は?」

「へぇ、あなたでも知らない事ってあるのね・・ニュージーランド代表の選考基準にクック諸島出身者が含まれるのも知らない?」
「え? 選考基準?」

「祖父母もしくは父母がニュージーランドもしくはクック諸島出身の者は代表選手になる資格がある。あの子達にはあまねくその権利があるの」

「・・・あのですね、留学するのはオーストラリアなんですよ。それなのにサッカーチームはニュージーランドっていうのは流石に無理です。隣同士でも時差があるんですよ」

「なんでオセアニアに留学させようと私が企んだか、国連の淫行条例に引っ掛かり捲りのダメな先生に教えて上げましょう」

「単に、あなたが遊びに行きたいから・・」そこで性器を強く握られ、仰け反った。

「オーストラリアのサッカーリーグにニュージーランドのクラブが参加しているのは知ってる?」「知りませんって・・それにそのクラブに入るなんて無茶です。「頼もー!」って道場破りの真似事なんて出来ないんですよ」

「まぁ、暫くアジアを彷徨っていたから仕方ないわね・・金沢に来てるのよオセアニアのスカウトが」
「ちょっと・・」今度はセガレを鮎がしごき始めるので頭が追いつかない。

「オーストラリアリーグに参加するには20代以下の選手を3人確保してレギュラー登録しなければならない。どのクラブも20歳以下の選手の話を常に調べてる。その中にそのクラブが居て、接触してきた・・」
そう言いながら頭が下がり頬ずりし始めたので、柔い期待をしながら放置する。

「あの子達は日本を出るべき、あなたの遺伝子を持ってるんだもの・・」
舌技は娘よりも断然優れているので、何も言えなかった・・

***

クラブチームの一員になったと言ってもリザーブチームで国内リーグ参加であり、サッカーの給与だけでは生活は出来ない。火垂は学生になるので、一時帰国後して5月から、パートタイムジョブを始めようと考えていた。
チームの皆は何かしらの職についている。日本で言えば、実業団のような位置づけだ。
契約して唯一のメリットはクラブの宿舎があるのと、朝晩の食事が出るという点だ。

週末の試合はウエリントンでのホームゲームなので移動がなく比較的自由な時間が持てる。旅行の荷物しか持たない火垂は、服や下着を買い増そうと昼食を兼ねて街の中心部を目指していた。
バスから見ていると大きな公園にはグラウンドがあって、必ずラグビー用のポールが立っている。国技なので当然だが日本も野球の方が人気があるので、マイナースポーツ扱いされるのは慣れていた。これだけポールを見かけると不思議なもので「蹴ってみたい」欲求が出てくる。
高校のグラウンドにはポールが無い状態でラグビー部は練習していた。いつもスクラムしていた様に思うが、実際の試合は楽しいものだ。フォワードは無理でも、走り回るバックスならソコソコ出来るのでは?と前々から思っていた。
クラブの休日に練習日が重なる市民向けのチームで練習するのもいいかもしれない、と思いながらバスを降りる。現在地と降車ポイントはスマホのアプリが知らせてくれる。

日本資本の店舗は無いが、北欧系のファストファッション店までスマホにガイドして貰う。
店舗に入って夏終盤のセール品を眺めていると日本語が耳に入ってくる。
「あれ?」と思いながら振り返ると日本人の店員だ・・ワーキングホリデーか、留学生だろう。
店員なら、声を掛けないでくれよと祈る。

「何かお探しですか?」
日本の店舗じゃないぞ!と思いながら、手を止めずに「安い服を」と極めてぶっきらぼうに言ってみる。
「ウェリントン・リザーブに加入された杜さんですよね?」
お願いだから、放っておいてよ・・と思うのだが、左右を日本人店員に挟まれる・・店長さんはドコ? この人たちサボってますよ!

「安くてボリュームのあるランチの美味しいお店、ご紹介しましょうか?」
断ろうと思ったのに、それより先に腹の虫が鳴る。”何故、このタイミング?”と思いながら自分の腹を見る。

左右からクスクスと笑われる。バツの悪い思いをしていた。

(つづく)


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