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(3)今も昔も一緒? で、本当にいいんですか?

「この年末年始、柳井前首相の台南市の自宅に、モリ次期大統領が逗留するらしい」秘密や約束を守れない台湾のタブロイド紙が報じると、台湾総督や大臣達が年末に台南市に向かう予定がされるか、マスコミがチェックを始めていた。11月のツバル・キリバス訪問以降、消息不明となっているモリが、台湾に現れるかもしれないと、中国政府も注意を始めた。既に日本国内に居るのではないかと、中国大使館の指示の下、ー市民として日本国内に潜伏している中国の工作員達が動き出した。ITの遅れた国は、いつまで経っても人海戦術を信奉し、無駄なコストを掛ける。たかが一人の政治家の為にそこまでしてコストを掛けるのも、何とかしてベネズエラ次期大統領に接触する機会が欲しいがためだった。                                                 ベネズエラは国内に他国の大使館を置くのを認めていない。それもそのはず、自国の大使館を各国に置いていないからだ。ベネズエラ政府や北朝鮮総督府の書簡は、日本の大使館員が代行して持ってくる。ベネズエラへのビザ申請などの手続きは全てIT化されている。ベネズエラへの海外企業の進出は、ベネズエラ政府が声を掛けた企業に限定されている。また、各国も参加を想定していた大統領就任式典は「再任なので、やらない」という。経済絡みの接点すら作れない国で、それに輪をかけて取り付く島も無いのが、次期大統領だ。ベネズエラが関心を持つ国だけが交流をし続ける。G20にも来年以降は参加しないらしいし、国連から数多くの職員を引っこ抜いて国連や各国政府と揉めているので、その内に国連も脱退するかもしれない。その一方で、環境問題を検討する団体「One Earth」を立ち上げて、独自の動きを始めている。CO2削減目標に達せていない国や原子力発電と核兵器を持っている国には参加資格すら無いという。そんな国が世界最強の軍事力と技術力を持っているというのだから、先進国と呼ばれていた国ほど、厄介な存在だと憂いていた。   

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フィリピンから飛んできたホバークラフトが旧横田基地の中南米軍 専用車庫にホバリングしながら格納された。この車庫には日本政府専用シャトル機2機も格納されていて、核熱モジュール利用機の数々が、空爆対策されたシェルター化倉庫で保守管理されている。そこに海にあるべきホバークラフトが停まっている様は、ある種、違和感がある。              
シャトルを降りたモリと翔子は、日本の入国審査も免除され、日本政府が差し向けた車に倉庫前から乗り込んだ。外気に触れないままで済んで感謝する。常夏の国を移動し続けたので夏服を着ていた。高速に乗る前に立川駅に寄ってもらい、駅ビルで冬の装いを調達する必要が有った。   
R16を南下して立川市に入る。築後50年を迎える駅ビルも、改装を重ねながらも外観は当時のままだ。翔子と分かれて男性用フロアで、ジャケットとズボンと冬柄のタイを購入して、着替えた状態で待ち合わせの場所に向かう。着るものがほぼ確定しているはずの翔子が、珍しく遅い。久しぶりの日本の缶コーヒーを2缶も飲んでしまう。スマホを見ても何のメッセージも無いので、女性服フロアの店舗配置図を見て、店舗を確認して歩き出すと、人だかりしているのが目に入る。これはマズイと駐車場に戻り、車内に居たSPの人に伝えて、翔子を回収して欲しいと要請する。人の群れで何となくは想像出来ていた。若返ったので、娘の玲子と間違われたのだろう・・。    
ーーー                     「レイコ・イグレシアス」が日本のSNSでトレンドになっているので、疑問に思った彩乃が、投稿されたツイートを見た。「あら、叔母様。立川の駅ビルなのね・・」と翔子であることを理解して、アンヘレス市内まで皆で買い物に出掛けている玲子本人に転送する。          
蛍叔母さまもそうだが、2人して若返って、娘との違いが一般の人には分からない・・外国だからこそ、何とかなるんだよねと感心してしまう。それでも、ヒットチャートの曲を歌ってるのは、翔子叔母さま本人なのだから、この位はイイんじゃないかな、とも思う。11月にCM用の曲がウケて、AIが作成したアニメキャラのバンドが、ネブラスカ社製の楽器で演奏している映像を作った。動画サイトに投稿したら、楽器も売れて、再生回数が跳ね上がった。その結果を見たAngle社の杏社長が、自分も歌ってるバンドなので、勝手にデビューを決めて、自社の音楽部門の配信サービスで販売を始めてしまう。フィリピンに居る主要メンバーには誰にも相談もせずに・・。  
 CM用に作った曲に歌詞を付けて、杏、樹里、2人の母の里子に、翔子の4人が ボーカルを担当した。歌詞を英語にしたのも、CMが世界中で使われている為だ。まさか世界中で売れるとは誰も思いもしなかったが、売れた理由はベネズエラのAIが「売れ筋」を想定して作曲したので、人々の耳には新鮮だったのだろう。AIが作曲を手掛けたのは伏せて、バンド名義にしたので、印税は全て受け取ってしまっている。自分達だけがAIを使ってもいいのか?という後ろめたさも多少あるのだが「次期大統領が演奏している曲もあるから、いいんじゃない?」と身勝手な解釈をしている。  

売れて調子に乗ったヴォーカル担当の翔子と里子が「どうせ顔が出ないんだから、コピーも演ろうよ」と言い出して、70,80年代の英米のロックを何曲か録音して、動画サイトに投稿したら、これが年配層にウケた。ネブラスカ製の楽器の評判が良かったのか、楽器販売と音楽配信とで相乗効果が出はじめた。杏と樹里が密かに歌っているのはAngle社とプルシアンブルー社の社員達は全員知っていたので、どうせPB社の元社員のアユミと彩乃も絡んでいるのだろうとサバ読みされ、メンバーは全員日本人だとバレてしまう。娘達の杜姓の頃に映った過去の映像や写真がネット上で再流出していた。部分的な映像や小さな写真ばかりなので、顔の細かな相違点は分からないのも仕方がなかった。

彩乃がこの日、家に残って取り組んでいたのは、ドラマ用のBGMと主題歌で、既にAIが要求の倍以上の楽曲を用意してきた。デモテープをAIの演奏で作り、Angle社から要求された曲数以上を送って、番組プロデューサーと監督に評価してもらう。どの曲を使うのかは、彼ら次第となる・・
ーーー                     ヴォーカル担当の一人と噂されているレイコ・イグレシアスが、立川駅に現れたという情報から、モリも日本に居る可能性が高いと、各国が判断してしまう。別に行動自体を隠している訳でもないのだが、日本の永田町に各国外務省と日本駐在の大使館関係者の監視の目が張り巡らされた。モリと翔子はそのまま首相官邸へ向かったが、阪本首相や柳井幹事長の面会履歴には一切載らない。訪日の目的自体が極秘事案なので仕方がない。モリは想定外の風邪をひいてしまう。それだけ、年末の東京は寒かった・・。       

「日本連合が、中国問題をどう捉えているのか?」 様々なマスコミがそれぞれ特集を組んで、多様な論者が喧々諤々と議論していた。「現状維持を続けるのではないか?」と「昨今のベネズエラの態度から見れば、台湾独立だろう」と言う2点が主流となっていた。2022年のロシア軍のウクライナ侵攻時に、中国が台湾を攻める可能性があると論じられた経緯がある。    
ウクライナ侵略はNATOが間接的なウクライナ支援に留めて、ロシア軍との直接交戦を避けた。「第三次世界大戦を避ける為」という言い方で、災禍が世界中に拡大するのを警戒した。「台湾が中国に侵略されても、アメリカは同じように助けてくれないだろう」と言うのが当時の定説となった。しかし2039年の台湾を支えているのは、アメリカではなく、中南米軍だった。「台湾海峡で紛争が勃発したら、中南米軍は、そして日本はどうするのか?」といった論調がトレンドになりつつある。
そんな時期に、これまで所在の分からなかったモリが日本と台湾に現れるやもしれないと囁かれると、何かしらの合意が日台間でされるのではないかと、特に台湾、中国双方のメディアが、日本連合の判断に注目するようになる。

「中国は台湾に核兵器は放てない。仮に核兵器利用による台湾侵攻作戦が成功しても、中国政府に対して不信を抱いた住民達を抱える被爆地を、未来永劫中国領として統治するのは難しくなる。尤も、それ以前に、中南米軍のミサイルで尽く迎撃されてしまうのだろうが。  「中南米軍は果たして本当に動くだろうか?戦火が朝鮮半島、日本列島にも及ぶので、ウクライナ紛争時のNATO軍のように、兵器や資金・物資を支援するだけに留めるのではないか?」    

「いや、戦火を拡大しない為にも先制攻撃で一気呵成に中国に乗り込んでいくだろう。何しろ、チベットと満州、北朝鮮、そしてフィリピンに、中国軍を上回る兵力が駐留している。中国を包囲するのは何も難しい話ではない」       

「中国は戦いを挑んでも負けるのが分かっているだろうから、台湾独立を認めざるを得ないのではないか」

「いや共産党にだってプライドも、立場もある。散々軍事侵攻をチラつかせて来た過去がある。仮に台湾が独立を宣言すれば、自国民だけでなく内外の立場を失ないたくないので、打って出ざるを得ないだろう」などと、欧米のメディアは極東の事を他人事のように論じている。

そんな状況下で、世界中のメディアがモリの動きに注目する。中国こそ、モリの考え・判断を知りたがっているはずだ。その判断を受け止めて中国がどう対応すべきか、決めるしかないのだろう、と強引なまでに纏めてしまう。それもこれもウクライナ紛争時のプーチンの愚かな判断を予測しきれなかった過去があるからだろうか。実際に侵略したので狂人の判断ばかりは予測出来ないのだな、と人々は今更ながらに知ってしまった。モリと狂人プーチンを比較する事自体がナンセンスなのだが、方や「後先考えない、侵略命令者」で、方や防衛協定に則せば「侵略されたら武力介入し、狂人を排除する側」となる。しかし、メディアは中南米軍と人民解放軍の衝突を願うかの如く、面白おかしく論ずる。読者が喜び、発行部数と視聴率が上がればそれで良いのだろう。自国民の被害を全く書かずに、アメリカとはスタンスの異なる中南米軍が、圧倒的な武力を示して中国軍が崩壊する様を見たいのか、強引極まりない予想戦火シナリオを掲げて、読者を自己満足の世界に浸らせる。日本連合は、本件に関して台湾やフィリピン、そして欧米のメディアがどう論じようとも、一切の関心を持っていなかった。逆に日本のメディアや日本人が、未だにその程度の論調をし、喜ぶ日本人が多数居る方を懸念していた。そんなメディアがあれば、あの手この手で徹底的に叩くだろう。それが今の日本政府であり、ベネズエラ政府だ。中国を崩壊に追い込むのは実際、難しくはない。まず想像すべきは、崩壊した中国の後始末だろう。その後始末にどれだけ費用がかかり、後々まで如何に苦しめられるのか、分析するのが普通だ。人口統計上、14億以上の人が居る国の面倒を見ざるを得ない。知らぬ存ぜぬで放置すれば、日本人はやはり鬼畜だったと結論付けられる。事後の対策、将来への影響についても考察する必要がある。
考察前の段階で、1億人の日本のカロリー摂取量で何度も考察をした経験があるので、14億は流石に尻込みする。単純に14倍にしただけでも物凄い物量だが、供給ルートの複雑性が絡んでくるので更に数倍の難易度となるだろう。中国共産党の凄い能力はここだ。世界で最も難易度の高い兵站作戦を日常的にこなしている。余談だが、中国に進出している日本のスーパーIndigoBlueの食料カロリーは1億5千万人分程度でしかない。それでもIndigo blue社の売上の半分は中国の店舗だ。長年分析してきた推定値だが、中国政府自身がマネージしているのは10.5億人分だ。尚、人が生活する上で食料品だけで済まないのはお分かりだろう。エネルギー消費量、工業生産用原料、農耕生産用の肥料やエネルギーも別途に掛かる。
世界の工場になった経験があるのは、未だに中国だけなのだ。そんな中国を相手にして「やっつけて終わり」と、武力に訴えた後で放置する様は、再び繰り返すが、人でなしの狂人のやる所業だ。正にナチス・ヒトラー、大日本帝国・東条と軍の取り巻きども、ムッソリーニ、プーチンetc…

イギリス軍と中南米軍が衝突した、第2次フォークランド紛争やエジプト紛争といった「合戦レベル」とは訳が違う。ロシアのプーチンが愚かだったのは、先のクリミア半島侵攻が、予想外に呆気なく小競り合いで済んだので、その二回戦だとばかりにウクライナに侵攻した。ロシアがお粗末なのは、事前に大部隊を時間を掛けて集結し、配置する様をつぶさに監視されていたので、2度目は無いと防衛体制が整えられた。ロシア幹部も末端の兵士も、ウクライナという相手を見下していたのが不味かった。ウクライナを支える欧米や西側も、クリミアの時のように仲間のトランプもアベも仲良しおデブのメルケル首相も居なかった。周囲にはプーチンの味方は一人も居らず、ロシアは国際社会から瞬時に抹殺されてしまう。これが、戦争を安易に始める者の狂人日記の記述内容だ。事後の分析が徹底されていないのは、焦燥に駆られた表情を隠しきれないプーチンの表情でよく分かる。
第三次世界大戦を決して引き起こしてはならないと早々に判断したアメリカは、予測できない規模になるであろう膨大な戦後処理に怯えたからであり、極めて正常な判断だった。そのアメリカの英断を茶化して、「弱気のアメリカは台湾や日本を守ってくれないだろう」と論じてしまう風潮が右翼によって形成され、軍事費倍増、核所有といった安易な結論を導こうとする。その前に、紛争に望めるだけのエネルギー備蓄量も、兵站へ変わる兵士の食糧、国民の食糧を自前で揃えられない状態の国が、軍事費を先んじて上げるという、大日本帝国軍並の愚かな判断を先行させてしまう。増やす軍事費の財源は消費税増税で、想定税率は19%だと言う。紛争が膠着状態となる前提で、事前に蓄える必要が有る国民用、自衛官向けの食料調達、エネルギー貯蔵などの諸々で消費税率は50%だろうか? ・・ これでは戦争前の時点で、とうに国家破綻である。このような無計画な政治を破壊し、先の大戦を賛美し、靖国に通う狂人どもを生まない体制を作る社会作りの方が現実的となる。   

残念ながら「日本人は過去を歪曲し、正当化したがる民族で、狂人を排出し易い」と世界でカテゴライズされた事実が未だに色濃く残る。当時の自衛隊が軍事費を上げると発言すれば、「食料自給率の高いドイツとは異なるのだから、カミカゼ日本はやはり無計画国家、狂ってやがる」と評価されるだろう。虐殺が容認された鬼畜の軍隊だった事実、軍上層部は、カルト宗教とズブズブの自滅党同様に自軍の兵士と国民の命を軽んじていた事実が広く世界中で知られている。「ドイツが防衛費を2倍にしたから、世界に笑われないために上げよう」と公の場で平然と発言する、カルトの広告塔役を喜々として受け入れた狂人を排出しない為にも、憲法で縛り続けざるを得ない、そんな稚拙な民族に過ぎないのだ。 

令和の日本政府はステップを踏んだ。先ずイランとアメリカの関係改善を図って、双方の友好国としての役割を果たした。イランから油田のIT管理を任され、イラン原油の取引量を上げて、イランの国庫収益を史上最高に引き上げた。その成果を評価されて、小さな油田を預かる。数年で枯渇が予想されたが、この油田の産出量に縋って全ての国内需要を「日本油田」に集約した。同時にAI/EV車両,水素発電、一次産業向け太陽光発電で、脱石油を推進する。日本列島には絶対的に農地が少ないので、食料自給率を本当に上げるのなら、海外に農地を求める必要がある。そこで黒土地帯の耕作放棄地を買い取っていった。後に、崩壊した北朝鮮の統治に関与して、新たな農地と地下資源を手に入れる。海外農地の取得で食料自給率が100%近くまで達し、エネルギー、資源も自前で揃えられる頃には、自衛隊を強化し、日米安保条約を破棄していた。最終的には友軍である中南米軍を手に入れ、自衛隊を規模を縮小し、防衛費もGDPの1%以内としたが、GDPが世界一となったので、防衛費は平成期の3倍となっている。軍事力も世界の軍と比較しても未だにそれなりの規模を誇る。                     平成のアホノミクスで借金総額を前代未聞の規模にし、ロシアとの蜜月を装って2島返還で決着寸前であるかのように見せかけたのも、得意の嘘だった。実は演技だったと当時のロシア大統領から暴露され、黙り込むかと思えば、軍事費を2倍へ、敵基地どころか、中枢を攻撃する能力を持てと、バカは暴言の勢いを止めない。アホノミクスの大失敗で手の内が無くなり、1ドル130円台近くまで下がった国の食料自給率が3割以下で、エネルギーは10割輸入だという。植民地を持っていただけ大日本帝国軍の方がまだマシ、というお粗末な平成日本だった。その上で、キチガイを首相に据えるような政党であり、議員達だった。何年経とうが、日本人は平和憲法を背負わざるを得ないのは自明の理であり、未来永劫、破棄できない枷を課せられた。原爆を落とされ、日本中が空爆されるだけの非道を起こした事実は、到底払拭出来ない。敗北を宣言する段階でも、軍上層部には一億総玉砕を掲げて戦争継続を訴えるバカ共が多数残っていた。国家の状況が最後の段階でも、相手の戦力を全く知らず、負けたと認めたくないが為に闇雲に拳を上げて、がなり立てる。そんな周りを見通す事の出来ない島国であり、民族なのだ。エネルギーゼロ、食糧皆無で、兵站戦略がなんら成り立たず、空前の借金だけがある中で、軍事費上げて、敵の本拠地を攻撃し、更に核武装するのだと公の場で言う元首相を誰も咎めず放置する。大日本帝国と何ら変わりはない。
異国の血と混ぜた方が良いのかもしれないと、生物学者に真剣に研究して欲しいとフト考えてしまう・・。 
     
また、新日本政府は、メディアを改革する必要があった。有能な記者を抱えた世界で勝負できるオピニオン紙を目指して作り、実際に成功すると、下らぬ記事しか書けぬ右傾新聞社、視聴率ありきのテレビ局は淘汰されていった。与党、北前社会党は湾岸戦争、ウクライナなどの紛争を通して、愚かな言論が罷り通った実態を分析した。どのメディアがどんな特集を組み、どのような評論家や学者に見解を求め、政治家の愚かな発言に対して、何の批判も加えずにそのままタレ流した事実を。世界で勝負できるメディアを確立すると、次は「おかしな思考」の蔓延防止に取り組み始めた。        
日本のSNSやネットの書き込みでは、意味の通じない文章はAIによって自動添削される。ナチ的な文面は添削すらされずに、「掲載不可」と却下される。それでも書いた本人がどうしても載せたいのなら、「編集部に申請して欲しい」となる。当然ながら、申請時には身分と連絡先を明かさなければならない。これで有象無象は書き込めなくなった。当初は言論の自由に制約を課すものだと非難する向きもあったが、「AIを暴走させないためには仕方が無い」と押し通した。この判断が日本のAIの成功に繋がり、ベネズエラのAIを生み出した。                    
米英仏では未だに何でも書き込み自由だし、中国は独裁体制なので体制批判は不可となっている。ディベートが盛んな羨ましい文化を有する一方で、「言論の自由」の意味を履き違えている連中がのさばり、分断社会が形成され、長年に渡り続いている。双方の主張が対立したままの社会のAIがいつまで経っても育たないのはこの為だ。ゲームや自走ドローンの単独機能のAIは出来ても、ヒトのように考える複雑なAIは作り出せないままとなる。日本もベネズエラも、敢えて相手を啓蒙しない。AIの分野で肩を並べられたくはないからだ。出来得る限り、優位な立場であり続けたいと節に願う・・。       
ーーーー                     首相と首相経験者2人に囲まれて、話を聞いていたモリは微笑んだ。「どれも悪くはないですが、イマイチですね。僕は、この櫻田首相案を押します」そう言いながら、ベネズエラ・櫻田首相の纏めたプランを3人のタブレットに転送してから、3人が見ている間にPCをプロジェクタと繋げた。ネットワークを介さずに極秘資料として掲げる。            
「ちょっと。これ作成者、翔子さんの名前になってるじゃない・・」モリ・ホタル官房長官、実は金森鮎元首相が指摘する。阪本首相が目次だけ見て驚いている。
「え?嘘でしょ?」「ねぇ、本当にこんな事、出来るの?」柳井幹事長・前首相が聞いてくるので頷く。                
「それでは皆さん、私の有能なブレーンから直接ご説明差し上げましょうか?里子外相も付いて来ちゃいますけど」鮎に向かって言うと、悔しそうな表情をしてみせたので、微笑み返す。   
「四六時中一緒に居ると、考え方も誰かさんに似通っちゃうのかしらね・・」柳井純子まで悪態をつき出した。              
「純子、ちょっと待って。やっぱりコレ凄いよ。双方の主張を取り入れてるんだもの・・えっと、里子さんの部屋に居るの?翔子さん?」阪本が官邸内線を片手に聞くので、頷いた。阪本が里子と会話を始めると、鮎が聞いて来る。     「翔子さんをベネズエラに連れてくの?」  
「いいえ、フィリピンですよ。日本にも渡しません」        
 「まったく・・」鮎は分かってくれたようだ。
ーーーー                      結局、モリは台湾に訪れない。柳井純子幹事長と高検に合格したという孫娘が台北に到着した。幼少期から何度も訪れているので、フラウの顔も台湾中で知られている。そのまま2人は総督が待つ、総督府へ向かった。  
情報をリークした台湾メディアはまた面目を失った。「何でも公開して良いはずがない。モリ氏が怒って来なかったのではないか。この為に独立できなかったら、お前ら、倒産だ」と台湾の人々に揶揄される。日本政府との密談をリークした社もそうだ。                
モリは鮎と翔子と里子と、杏と樹里と子供達と石巻市の里子の選挙区の中古住宅に入っていた。購入してから20年になる。モリは晦日まで旧宮城県・石巻に滞在する。元旦にはベネズエラに居なければならない。僅か3日間の滞在だったが、家中大掃除をして、ロボットもSPもいない普通の生活を味わうことが出来た。        
 31日の昼に年越しそばを食べて、石巻漁港へ荷物を持って移動する。個人的にお願いした漁船で、半島の先にある網地島の沖合に向かってもらう。横田基地からやってきたホバークラフトが漂着しており、ヒョイッと乗り移る。見送りに来た杏と樹里と子供達に見送られて、浮上してから飛び立った。 宮城沖500kmの太平洋上で、フィリピンから飛んできた輸送機サンダーバードの格納庫に着艦すると、高度を徐々に上げてゆく。慌てて客室エリアに移動する。高度1万メートルでほぼ無酸素となるので、身を守る為に機体の「有酸素エリア」に移動する。この日は高度を12万m迄上げて、SouthAmerican Airlineのシャトルとの航空路接触を避けた。30分後にはエクアドルのガラパゴス上空に到達し、高度を下げてゆく。コロンビア上空で1万メートルまで下がるとホバークラフトに再び乗車して、サンダーバードから飛び立った。ここまで運んでくれたサンダーバードは、一度横田基地へ戻り、日本のおせち料理や餅、酒 等の正月用の大晦日の売れ残りの食料品を積み込んで、再び31日明け方のベネズエラ、カラカス空港に着陸する。ベネズエラ在住の日本人、軍人向けの恒例の積荷を運んでもらうのだ。
この日のサンダーバードは31日の南米と元旦を迎えた日本との間を往復し、日本で売れ残ったおせち料理や餅を、安価で供給される。日本の正月品を待ち構えている、中南米の日系人800万人社会に売れ残り品を届ける。これも一つのフードロスの解消策だ。次は2月の節分の余剰生産される恵方巻き、バレンタインのチョコだ。南米の場合、最悪処分できなければ各地で飼育されている豚の餌となる。               

宮城・石巻を飛び立って1時間。31日のAM4時に、カラカス自宅の敷地の子供達の練習場にフワリと垂直降下して不時着する。この暗がりの中では、子供たちも布団の中だ。これで、もう一度大晦日を味わう事になる。 
到着するのは早朝だから、起きてこなくていいよ、寝ててね、と言っていたのに、パジャマ姿のパメラが家から出てきた・・。      
ーーー                     「Feliz año nuevo!happy new year!ベネズエラの皆さん、ご無沙汰しておりました。先程宣誓式を終え、再び大統領に就任致しました。私の体調も万全、ベネズエラ新政府も万全の体制を整えました。出来る限り、長く執務を続けられるように尽力して参りますので、今後共どうぞ宜しくお願い申し上げます。           
新内閣のメンバーをベネズエラ国籍を取得したばかりの新官房長官、フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ氏から発表いたしますが、元々ベネズエラ人の4大臣以外は、全員私の国連時代の同僚達となります。私自身が大いに助けられた有能な方々ばかりを集めました。今回の内閣は私以外の日本人は居ません。日本政府でも集められないメンバーを集う事に成功しました。 正に最強の布陣だと自画自賛しておりますので、ご期待ください。また、国連の難民高等弁務官事務所とユネスコ、ユニセフ等からスタッフ達100名程引き抜きました。全員、ベネズエラ国籍を取得の上で、国連から転籍いただきました。このメンバーで銀河宇宙省を新設し、私が大臣を兼務し、パメラ元官房長官に副大臣を担って頂きます。場所は、カラカス港にある共同庁舎のA棟 18,19階2フロアを使います。この新しい省では、火星、月面基地の総合管理、工場管理、資源管理等を行い、中南米軍軍人、日本やインドの研究者の方々の生活環境保全や健康管理を支援致します。 
       
また、中南米諸国連合各政府は西暦2040年を使わずに「Siglo Galáctico 0001,英語ではGalactic Century 0001」と呼び、今年から銀河元年を各省庁、各役所の公式文書で用います。新たな宇宙時代の幕開けに、ベネズエラ人、ブラジル人、キューバ人、アルゼンチン人・・とにかく全ての中南米人が月へ向かい、日々滞在を繰り返すのです。ベネズエラだけでなく中南米やアフリカのみならず、世界中の全ての子供達に、宇宙を目指す機会を与えるための土台を作り上げたいと私達政府関係者は考えております。月面基地での滞在に慣れたら、先発メンバーの何人かが数年後には火星基地に到達するでしょう。今、木星の衛星カリストにもロボットのジュリア達が到達し、基地建設を初めています。我が国はそのようにして土星の衛星、天王星、海王星とそれぞれ拠点となる基地を建設し、高速輸送船を開発して惑星間、衛星間の移動時間を短縮させて参ります。月面基地を建設しているのは、ベネズエラ製のジュリアであり、ジェガン等のモビルスーツ達なのです。宜しいですか、最終的にお金を出すのは日本とインドかもしれませんが、まだ我々は彼らに1ペソも費用の請求をしておりません。あの基地は全部、ベネズエラのテクノロジーと資金で出来ているのです。それ故に、宇宙暦を命名する権利は我がベネズエラにある!と胸を張って申し上げておきます。我々は宇宙では先駆者なのです。国民の皆さんは、この新世紀の到来を誇りに思って下さい。宇宙開発は日本とインドに任せる訳には参りません。我々が1歩も2歩もリードするのです。またまた宜しいですか、彼らは核開発を放棄し、非核三原則を踏襲しました。つまり、核熱モジュールはベネズエラだけのお家芸なのです。輸送機、戦闘機、高機能モビルスーツは、核熱モジュール無しには飛びません。イオン出力や半無重力装置といった、難易度の高い駆動装置を両国には是非とも開発頂きましょう・・何十年も後でしょうけどね・・。さて、月面基地での研究対象も今後は増やして参ります。日本とインドの研究者だけに任せるのでなく、近年中に中南米とアフリカの研究者も月へ向かえるように、基地の収容施設と研究棟を拡充して参ります。       
国政に関しては、ドラガン・ボクシッチ新首相から今年の方針の説明をしていただきます。この銀河元年が中南米、アフリカにとって最良の年となると信じておりますし、必ずや年末には皆様に実感していただけるように努力して参ります。それでは、今回はこの辺で。また改めてご報告致します。それではごきげんよう、Adios!」    

ベネズエラの何処かに潜んでいたのだろうか、ベネズエラの元旦のニュースで、国民に向けて放映した新大統領のコメント内容が即座に伝えられる。「銀河元年、銀河世紀」を一方的に決めた感が満載だった。また木星の衛星カリストに基地を建設しているのも公表し、まだまだこれで終わらない雰囲気を残していた。         

(つづく)  


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